前編より続く
帝京大学の優勝で幕を下ろした「第60回 全国大学ラグビーフットボール選手権大会」。
試合後、決勝に出場した4名の選手に話を聞いた。
撮影:国分智
部員140人の大所帯から1年生でメンバー入りした、帝京大学1年・本橋尭也選手。試合終了間際の残り2分ほど出場した。
「少しの時間だったけど試合に出られて、優勝の瞬間を味わえたのはとても嬉しかった。ここに立てたのは自分だけの力ではなくて、先輩やメンバーに入れなかった仲間たちの力が大きかったと思う。兄が交代した時に、おまえいつ出んねんと言葉を交わしました(笑)」。兄の3年・拓馬選手も先発メンバーで兄弟での出場となった。
「この1年間で得ることが多くて、残り3年間も連覇を続けるために、先輩からの教えやいい文化を受け継いでいくことが大事だと思っている。新しいシーズンはまた新しいメンバーになるけど、さらに積み上げていいチームをつくっていきたい」。
最後は「今日も応援の声や帝京コールが耳に入ってきて、力をもらえた」とファンに感謝した。
撮影:国分智
同じく帝京大学4年生・高本とむ選手。開始早々にトライを決め、チームに勢いをつけた。多くの記者から取材を受けていたが、最後まで疲れを見せずさわやかに対応してくれた。
「4年生の集大成の決勝で勝てて、幸せ。今までやってきたことは、このためにやってきたんやなと報われた気がした。最高の景色だった。辛くてきついことばっかりだったけど、でもしんどかったからこそ、この景色が見られているので、やってきて良かったと思う」。
約1時間の中断については、「みんなでやれる時間が長くなってよかったやんと、ポジティブにとらえていた。4年で最後の試合、80分間しかなかったのがもうすこし長くやれるねって」と笑って振り返った。
今後もラグビーを続けることが決まっている高本選手。「コロナではじまって、将来が見えなくて不安だったけど、そのなかで帝京の練習や考えかたの下コツコツやってきて、こういう景色が見られた。これからも置かれた環境で精一杯努力して、また最高の景色が見られるようにがんばります」と話した。
なお先ほど(1月26日)、リコーブラックラムズ東京に加入することがリリースされた。
撮影:国分智
随所でその活躍が光った、明治大学1年・海老澤琥珀選手。
「優勝できなくて悔しい。4年生が大好きだから、最後は笑顔で終わりたかったけど、負けて悔しい」。さらに「トライを取れたり、50-22も決められたり、悪くはなかったと思う」と自分のプレーについて振り返りつつ、1年生で唯一メンバー入りしたことについては「あんまり緊張するタイプではないので、楽しむということが大きかった」と話した。
紫紺のジャージを着ての初めてのシーズンについて「本当にあっというまの1年間だった。すばらしい4年生と一緒にラグビーできていい経験になった。現状に満足することなく、スピードを上げたりフィジカルを上げたり、どんどん成長してこれからの3年間のうちに絶対優勝します」と力強く話した。
最後にファンに向けて「ぼくがボールを持ったら必ずわくわくするようなプレーをするので、これからも応援よろしくお願いします」
撮影:国分智
明治大学4年・池戸将太郎選手は、「中断や天候、難しい状況のなかでの試合だった。中断中は、みんなで声をかけあって気持ちを切らさないように過ごした。ただ、いい流れのときもあったけど、最後まで細かいミスを修正しきれなかったのが結果につながったと思う」。
創部100周年に目指した優勝については「優勝できなかったから失敗というわけではない。100周年の年に優勝して歴史に刻むことができたらそれが一番よかったけれど、自分たちが信じたラグビーを1年間通して曲げずにやってきたことの結果だから、悔いはない」。
改めて4年間を振り返って「楽しかった。長いようで一瞬で、今年もすぐ終わっちゃった感じ。いい先輩後輩に恵まれて、いやぁ……楽しかった」とかみしめながら「同期たちとここまで来られてよかった」と笑顔を見せた。「この1年を通して、明治のファンが日本一だということを実感した。たくさんの人に支えられて、こういう環境でラグビーができることは当たり前じゃない。ファンの皆さんには感謝している。後輩たちがまだやってくれると思うので、ぼくは次のステージで、ここで果たせなかったものを達成できたらと思う」と話した。
池戸選手は、小学生時代にタグラグビーチーム「七国スピリッツ」に所属しており、当時ラグビーカフェで取材をしたメンバーのひとりだ。そのことを伝えると、嬉しそうな笑顔を見せてくれた。大学卒業後は、リーグワンのチームでラグビーを続けることが決定している。
撮影:国分智
今シーズンの大学ラグビー公式戦は、全て終了した。まもなくすると、各チームは新体制で新しいシーズンを迎える。長いようであっというま、期限付きの4年間。その間に、思い残すことなくラグビーに向きあおうとする選手たちの気持ちが、観ている者を熱くする。それが何より、大学ラグビーの魅力だ。
撮影:国分智
ここからは、余談。
私がこの国立競技場で初めて取材をしたのが2020年の大学選手権決勝、早稲田−明治戦だった。
21大会ぶりの伝統校の組み合わせであることだけでなく、早稲田大学ラグビー部創部100周年の節目、そして新しい国立競技場で初めて行われるラグビーの試合とあって注目度も高く、入場者数はほぼ満席と言える57345人。あの日、競技場内で地鳴りのように響いた歓声のエネルギーはいまでも鮮明に覚えている。
翌年の決勝はコロナの影響で無観客試合となり、静まりかえった競技場での試合もまた、忘れられない。
そして、コロナ禍からすっかり解放された今大会。
入場者数は、18374人。大学ラグビーを子どものころから長年観てきた一ファンとしては、とても、とてもさみしい印象だった。
決勝の舞台にこれだけの空席が目立つのは、決して天候のせいだけではないだろう。選手たちの想いのこもったプレーを、満員の観客で見守れなかったことが残念でならない。
コロナ禍を経て人々の意識が変化した? 現役学生の集う場が失われた? 卒業生ファンの高齢化が影響している? それでも、ホーンが鳴ったあともファンから大学名のコールが沸き起こり、大学ラグビーならではの熱を感じることはできた。
どうすればファンを惹きつけるコンテンツとしてこのさきも生き続けられるか。この課題に向きあう関係者はいるか。
私はこの日、少しの危機感を覚えつつ、メディアを通じて大学ラグビーの魅力をすこしずつでも伝え続けようと、改めて思った。
(夏)