「別れ」のロマンス:残酷なロマンス(持参金のない娘)(13) | 映画でロシアとロシア語

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「別れ」のロマンス:残酷なロマンス(持参金のない娘)(13)

Жестокий романс13

Эпизод 17: Обед у Карандышева.

エピソード17: カランドィシェフ家での昼食

 

 

 

 

Карандышев: Господа, я счастлив сегодня! Я хочу предложить тост, господа! Харита Игнатьевна... Иван! Бургундского! Господа! Радостная новость: я баллотируюсь в мировые судьи.

Вожеватов: У нас в Бряхимове?

Карандышев: Нет, в Заболотье.

Вожеватов: О, такая глушь!

 

カランドィシェフ:皆さん、今日わたしは幸せです!乾杯をしましょう!ハリータ イグナチヴナ・・・ イワン!ブルゴーニュを!みなさん!良いニュースがあります、わたしは調停裁判官に立候補しました。

ヴォジェヴァートフ:ここのブリャヒーモフの?

カランドィシェフ:いいえ、ザバロチエ。

ヴォジェヴァートフ:そんな僻地!

 

 

ラベルは「ブルゴーニュワイン」でも、中味は怪しげな酒を飲んで

すっかり出来上がっているカランドィシェフ。

他の客たちは断っていますがそれも意に介さず、

ラリーサと婚約したことで有頂天になっています。

 

мировой судья  調停判事

судья́ 判事は男性名詞

複数形でアクセントが移動します  су́дьи, суде́й

 

現在の状況では皮肉とも思えますが、

Мирには、「世界」と「平和」の意味がありますね。

 

мирный 、平和の形容詞、 мирное время 平時

мировой 、世界の形容詞、 мировая история 世界史

 

мировой  には「調停」の意味も。

мировой суд 調停裁判

мировая сделка 示談

 

 

Бряхимов ラリーサ達が住んでいる架空の町

 

Заболотье 架空の地名ですが、

за 後ろ、向こう、の意味の接頭辞

+ болото 沼

+ ье 場所を意味する接尾辞、で作られています。

 

ロシアでは「沼」は魔女が住んでいるような不吉なイメージ、

その沼のさらに向こうというと、もう人間が住むところではない、

というような地名です。

 

 

 

 

Лариса: Сергей Сергеевич!

Паратов: Да?

Лариса: Пожалуйста, перестаньте издеваться над Юлием Капитоновичем! Вы меня обижаете.

・・・

Паратов: Ну, хорошо! Хотите, я для вашего удовольствия разом покончу со всем этим?

Лариса: Да!

・・・

Паратов: Юлий Капитонович!

Карандышев: Что вам угодно?

Паратов: Не желаете ли со мной выпить брудершафт?

 

ラリーサ:セルゲイ セルゲヴィチ!

パラートフ:うん?

ラリーサ:ユーリ カピトノヴィチをからかうのはやめてくださいな!貴方はわたしを侮辱しています。

・・・

パラートフ:いいでしょう!私が一瞬で全てを終わらせると、あなたは満足だと?

ラリーサ:ええ!

・・・

パラートフ:ユーリ カピトノヴィチ!

カランドィシェフ:なんですか?

パラートフ:わたしと兄弟飲みをしたくはありませんか?

 

издеваться над кем-чем からかう、いじめる、虐待する

издевательство над кем-чем からかい、いじめ

подвергаться издевательством いじめを受ける

 

コップになみなみとコニャックを注いで、腕を組み交わして飲む二人。

カランドィシェフは酩酊状態に、

 

выпить брудершафт

今は、выпить на брудершафт と前置詞を入れるのが普通。

 

 

 

Паратов: Лариса Дмитриевна, осчастливьте нас, а? Ну. Спойте нам какой-нибудь романс или песенку. Я ведь вас целый год не слыхал, да, вероятно, и не услышу уж более.

・・・

Карандышев: Нет-нет, господа, и не просите. Нельзя! Я запрещаю!

Огудалова: Запрещайте, когда право будете иметь, а теперь ещё погодите!

Карандышев: Я положительно запрещаю!

Лариса: Вы запрещаете?

Карандышев: Да!

Лариса: Я буду петь, господа!

 

パラートフ:ラリーサ ドミトリエヴナ、私たちを喜ばせて下さいな?何か、ロマンス歌曲か歌を歌ってください。私は丸一年も聞いていませんし、そう、多分、もうこれからも聞けないでしょう。

・・・

カランドィシェフ:いいや、皆さん、頼まないでくれ。ダメです!私は許さない!

オグダロヴァ:その権利を持ってから禁止しなさいな、まだ早いです!

カランドィシェフ:完全に禁止します!

ラリーサ:あなたは禁止するの?

カランドィシェフ:そうだ!

ラリーサ:わたし歌いますわ、みなさん!

 

 

осчастливить + кого-что (чем) 幸福にする、喜ばせる

 

слыха́ть (不)耳にする(= слышать)ですが、

この単語は現在形では使われません

 

 

婚約したばかりなのに、ラリーサを自分の思い通りにしようと命令するカランドィシェフ。

 

 

歌の所に頭出ししています。ラリーサの涙が切ない・・・。

 

「禁じるなら歌う!」と選んだのは、

Романс «Прощание» 「別れ」のロマンス

一行目の「では最後に言います」のタイトルで有名です。

 

«А напоследок я скажу»

(стихи Беллы Ахмадулиной)

「では最後に言います」

(詩 ベーラ アフマドリナ)

 

А напоследок я скажу...

А напоследок я скажу:

Прощай, любить не обязуйся!

С ума схожу или восхожу

К высокой степени безумства.

 

では最後に言います

では最後に言います。

さようなら、愛を強いたりしない!

狂っているの、それとも

狂気の極みへ昇っているの

 

С ума схожу или восхожу

К высокой степени безумства.

この2行はイディオムに、反対の意味を持つ動詞を

からませた巧みな表現です。

 

сойти с ума (慣用句)気が狂う

逐語訳すると、「知恵から降りる」

下への運動を意味する接頭辞с  があります。

これに、上昇する動きの前置詞восのある

восходитьの組み合わせ。

безумствo 無分別、古くは「狂気」の意味も。

 

(восходитьで思い出すのは形容詞восходящий

ロシア語では同じ単語の繰り返しを避けますので、

日本を意味する「日出ずる国 Страна восходящего солнца 」

は頻繁に耳にしました)

 

 

Как ты бюбил? Ты пригубил

Погибели! Не в этом дело.

Как ты любил! Ты погубил,

Но погубил так неумело.

 

どう愛したの?あなたは少し試した

滅んではいない!そうではない。

どう愛したの!あなたは殺した。

でもこんな風に殺しは下手。

 

この節が難解。

「別れ」には恋人との別れ、と、人生との別れ‐死、の

二重の意味があります。また「死」も、実際の死だけではなく、

「精神の死」との二重写し。

 

погуби́ть(完)  губи́ть  ダメにする、殺す

поги́бель = губель 破滅、滅亡

Погибели! と生格になっているのは、

Погибели нет、死んではいないという意味。

 

「滅亡、死」の言葉が続きますが、

最初に出てくるпригу́битьは、一見すると

  губитьの仲間に思えるのですが、全然関係がありません。

韻(рифма)を踏むために使われていて、 

意味は、試飲する・少し口をつける、губа唇、から派生した単語です。

 

詩の意味内容:あなたは私を少し殺したが、殺してしまえなかった。

ひどく傷ついてはいるが、私は死なずに生きている。

 

Так напоследок я скажу...

Работу малую висок

Ещё вершит, но пали руки,

И стайкою, наискосок,

Уходят запахи и звуки.

 

そう、最後に言うわ

こめかみは弱弱しく

まだ働いてはいても、手は萎えてしまった

斜めに小鳥の群れが飛び去るように

匂いも音も去っていく。

 

висок こめかみ

вершить(不)(雅語)行う

 

па́ли 、 пасть 倒れる、の過去形。

不完了体は   падать。

 

ста́йка  鳥などの小さな群れ、ста́я群、の指小形。

 

肉体が死んでいく描写

ロシアでは、「臨終の際には、五感が順に失われていく」と、

いわれているそうです。

 

А напоследок я скажу:

Прошай, любить не обязуйся!

С ума схожу иль восхожу

К высокой степени безумства.

А напоследок я скажу...

 

第一節の繰り返し。

 

 素人の翻訳と注釈なので、間違いや勘違いは笑ってすましてくださいね。