こんなふうに抱きしめられるのは

初めてだった


同僚で年下の奏多くん

甘えるとか想像つかなくて

触れることさえ抵抗があって

今まで一線ひいてたけど


その一線を超えて

彼の手に抱かれた瞬間

私は深い安堵感に包まれた

体の力が抜けて

彼の胸が心地よくて

身を委ねて静かに泣いた


「寂しかった?」


奏多くんが聞く

私は彼の胸に顔を埋めたまま頷いた

恥ずかしくて顔が見れない


「嬉しいです、そう思ってもらえて」


奏多くんは私が泣き止むまで

私の手を握って

頭を撫でていてくれた


こんなに癒されたのは

いつぶりだろう

こんな透明な気持ち

いつぶりだろう


ありがとうって思った

いてくれて良かったって思った


頬にキスしたら

目が合って

奏多くんがキスした


「俺的にちゅーはエッチよりハードル高いです」


いつか奏多くんそう言ってた

奏多くんもハードル超えたんだな


でも複雑

私のこの感情は

とても深いけど

たぶん純愛じゃない

友情に近い愛情

たぶん奏多くんとは違う

でも確かに在って離したくなくて

失いたくない存在


「俺、明日向こう帰っちゃいますよ」


泣きやんだ私に

奏多くんが意地悪な顔して笑う


「いじわる」


私も笑った


奏多くんへの感情に

今は名前がつけられないけど

明日には消えてしまう

愛しい貴方に

今日だけ抱かれたかった


次会えるのは

きっとまたずいぶん先になるけど

それまで

あの夜の記憶を思い出せば

ひとりでも頑張れる

でも寂しくなるのも半分


ああ

この感情は

恋に似てる


奏多くん

私に恋させてくれて

ありがとう


いってらっしゃい

奏多くん











「長期連休取れたんでそっち帰ります」


急な帰省連絡

奏多くんが帰ってくる

半年ぶり


奏多くんがいなくなって

めっきりつまらなくなった会社


奏多くんの存在の大きさに気付いて

寂しくて、会いたくて

急に涙が溢れたことがあった


奏多くんのこと

すきだったんだなぁ

っておもった


辛い時も困った時も助けてくれて

寄り添ってくれて

一緒に過ごせば楽しくて

私を心から愛してくれて

いつもピュアな愛情をくれた人


思い切り泣いたら決心がついて

奏多くんがいない世界が当たり前なんだと

現実を受け入れた

無心で仕事をすることにも慣れた頃

奏多くんが帰ってくる


ごはんに行く約束をした

半年ぶりだし

彼との関係もあいまいだから

どんな風になるかなと思ったけど

会えばいつもと変わらなく過ごせた


奏多くんは転勤先で役職がついて

とても忙しく仕事をしている

新しい友達や後輩もできて

しょっちゅう遊んでるみたい

奏多くんには新しい世界がある

転勤先のこと楽しそうに話す奏多くん

ちょっと寂しくなった


奏多くんは転勤先の職場でもモテるらしく

年下の女の子に告白されたけど

断ったって言ってた


「俺、年下ダメなんすよ笑」


年上好きは変わらない?


「るあさんは相変わらず綺麗ですね

    久々だから若干緊張してます俺」


14才も年下の男の子

なんで私なのか不思議


離れてから半年しか経ってないのに

もうずいぶん長い間会ってない感覚

私の事すごく好きでいてくれた

その事実さえ嘘だったんじゃないかと思う


いつもの流れでカラオケに行って

奏多くんの歌を聞いていた

久々に聞く奏多くんの歌声

好きだった彼の声

なぜか胸がきゅっとなる


一年くらい前

奏多くんの誕生日のお祝いに、って

一度だけセックスした


でも彼は会社の同僚

将来有望な会社のエース

不倫や問題行為が発覚して

出世の邪魔になるのは嫌だったし

何より私は

今の関係が一番心地いいから

不倫の関係にはしたくなかった

私は割り切っていたけど

奏多くんはどうだったんだろう


思い出の曲

奏多くんが教えてくれた曲

奏多くんの歌声を聞いてたら

なぜか悲しくなってきて

がまんしたのに

涙が溢れた


「え!?なんでなんで!?」

「ごめん、私もなんでかわからない」


慌てる奏多くんの前で

私はポロポロと涙を零した


「…寂しかった、ずっと」


自然と言葉が出て


「奏多くんいなくて寂しくて…」


胸が苦しかった

私の中に押し込めた思いが

勝手に溢れる


「やっと会えて嬉しかったのに

    バイバイしたらまた遠くにいっちゃう」


奏多くんと目が合って

また涙が溢れた瞬間


奏多くんが

私を抱きしめた












いつもの店で

マサキとマサキのツレと3人で飲んでたら

若い女の子が二人店に入ってきた


入口近くで飲んでいた私達を見て


「え、最悪」


と言って店を出ていった


私とマサキは訳がわからなかったが

ツレがバツが悪そうな顔をして

マサキを見ていた


「マサキ覚えてねーの?○○ちゃん」


「は、誰?」


ツレが呆れた顔をした


以前この店で

マサキが口説いた女だったらしい

マサキは酔っ払っていて

相手の顔も覚えていない


ツレ曰く

マサキは彼女に

結婚しよう、とか

めっちゃ可愛い、を連発して

ライン交換も自分からしている


彼女はマサキの言葉を本気にして

期待してマサキにラインしたけど

マサキに「覚えていない」と言われて

終わったらしい


出た出た

いつものパターンじゃん


マサキの顔を見た彼女の顔は

言葉の通り「最悪」

本気にさせておいて

「覚えていない」で終わらせる

一生会いたくなかった最低なクソ男に

出くわしてしまった最悪な瞬間


わかるよ

会いたくなかったよね

最低な男

私と同じ思いをした子が

きっとこの世に100人以上いる


「キャバ嬢とするのはいいけど

    酔って素人とライン交換すんのやめろ」


マサキがツレに怒られた


「マサキはそうやって

    いっぱい女の子を傷付けてる

    自覚した方がいいよ」


私も怒った


「は?なんで俺怒られてる?」


逆ギレ、ほんとバカ


「私もマサキに傷付けられて

   一生会いたくないって思ったし

    死ねばいいのにって思ったよ

    それくらいマサキは罪深い」


そう言うとマサキが黙った


「刺されないようにね」


「じゃ、るあが俺守ってー」


は?


「絶っ対に嫌」


くそ酔っ払いゲスの極みヤロー

いっぺん死ね


どんどん嫌いになっていく

いいのか悪いのか


「他のやつに嫌われても

    俺るあがいればいーんだわ」


もう本気にしないし

気持ちが冷めていく


一緒にいると楽しいから

一緒にいるだけ


もう昔みたいな愛情はないよ

復活することもない


ただ普通じゃないマサキに

刺激を求めてるだけな気がする


マサキのものにはならないし

マサキの思うようにもならない


人生で一番のクズ男で

遊んでるだけ













鏡に映る私を


健太が後ろから突き上げてる



鏡越しに見る二人の姿


とても綺麗で興奮する



目を閉じるとマサキの顔が浮かぶ


マサキのゲスいセリフが頭を回る



「最低」



心に湧き上がる憎悪は


健太に突き上げられる度快感に変わる


最低な男を違う男で裏切る


嫌なことがじわじわと昇華していく


たまらなく気持ちいい



私の中で果てた健太は


そのまま眠った



私は健太の綺麗な寝顔を見ながら


マサキのことを考えていた



健太が抱いてくれたおかげで


マサキへの怒りが落ち着いた


健太ごめんね


ありがと


だいすきだよ


逝く時の顔


健太が一番かっこいいから


いつも見つめてしまう


煙草を吸う横顔もカッコよくて


見つめてしまう



優しくて真面目で


でも私と不倫してる健太


私を大事にしてくれて


想ってくれる



「るあから誘ってくるのめずらしいね


    何かあった?」



クズ男に腹が立って


何もかも忘れたかった


、なんて言えない



「健太に会いたかっただけだよ」



うそつき


人のことなんて言えない


私もそんないい人間じゃない



健太がいてくれてよかった


楽しかった


癒された


ありがと健太












私はマサキのクズさを諦めた

でも最近

クズすぎて許せない自分もいる


素面の時は大人しいけど

マサキは酔うと別人になる

近寄ってくる女の子

隣にいた女の子

目が合った女の子

手当り次第笑いかけて肩を抱き

頭を撫でて「お前可愛いなー♡」を連発する

「結婚しよう」とか「今日一緒に寝る?」とか

平気で言ってその気にさせた上に

ラインを交換する

ボディータッチやキスもする

これがマサキのルーティン


次の日は何も覚えていない

ライン交換した相手のことも覚えてない


でも相手はその気になってるし

全部覚えてるから期待したまま

マサキにラインしても

マサキは「覚えてない!ごめんなさい!」

で、終わる


終わる、

わけねーだろバカ


「だってしょーがねーじゃん!

    覚えてないんだから」


マサキはよく

「俺は誰にも迷惑かけずに生きてる」

って言う

この前またそれを言ったから

なんかカチンときた


「そう思ってるのはマサキだけだよ」

「え、俺別に女とライン交換しても

    謝ってそれ以上なんもしてねーし悪くねー」


自信満々でマウントしてきたから

私の中で何かがキレた


「マサキは自己中で自分勝手だ

    マサキは無意識で女の子をその気にさせて

    たくさんの女の子を傷付けてる

    酔って口説きました、全く覚えてません、

    ごめんなさい、で済むと思ってんの?

    ほんっと最低、私そんな人大っきらい」


「じゃあどいつもこいつも俺の隣に座んなや!

    俺の傍に来んな!

    ライン交換して連絡きても無視して終わりだし

    後で手ぇ出す訳じゃねーし俺悪くねーじゃん」

    


はぁ???



呆れた

人のせい?

近づいてきたから口説いた?

近づいてきたからイチャイチャした?

俺はキス「された」?

ラインがきても無視したら終わり?


ふざけんなクズ


「最っ低ー、まじで大きらい

    私も昔そうやって傷つけられた」


そう言った瞬間

マサキが私の腕に寄りかかってきた

私は咄嗟に


「やーめて!!!」


って、マサキの頭を勢いよく振り払った


私の心の奥に押し込めた感情が

一気に込み上げた


やっぱコイツ最低だ

死んでも治らない


「マサキと友達以上を望んだらダメだわ 

    そうなった方が馬鹿だよ」


一緒に飲んでたマサキのツレが

ハイボールを飲みながらポツリと言った


あー、そうか

酔っ払って言ったマサキの告白は

全部うそ

その場限りの

明日起きたら忘れちゃう嘘

真に受けた方が馬鹿


なんだアイツまじクズ

マサキはずるい


タチの悪いずるさで罪から逃げる

子供だな


昔からずるい人

言ってやるの忘れた、ちっ。


あーもー当分顔も見たくない

思い出す度に胸の辺りがグラグラ煮えたぎる


仕事がんばって

他の男とあそぼ










今日、マサキは

たぶん心が乱れていて

その理由を私に話したくて

誘ってきたんだとおもう


いつもより冷静にいようとしてたけど

結局お酒のペースがあがって

いつも通りの酔っ払い


私の家のソファに横になって

猫を撫でながら寝た


放置してたけど

今マサキの寝顔を見てる

むずかしい顔してる

いつもは何も考えてない顔してるのに

今日はなんか

辛そうだな


マサキの世界がどんどん変わっていく

マサキは寂しがり屋だから

きっとその流れを怖がってる


ああ

マサキの元嫁は

マサキに復讐したかったんだな


大丈夫だよ

私はここにいる


付き合うとか

彼氏とか彼女とか

肩書きなんて別にいらない


今いっしょにいて

楽しくて幸せで安心するなら

それが二人でいる意味になる


マサキ

おやすみ











ずっと頭の隅で感じてた

私の中の方程式


マサキを当てはめたら

しょー汰と同じ答えが出るから

これ以上

感情を揺らさないでって

思っていたのに

マサキも

しょー汰と同じになるの?


嫉妬も

裏切りも

悲しみも

寂しさも

愛情も


私に生まれた負の感情は

自分で処理するしかなくて


押し込めたら何れ爆発するし

苦しいし見苦しいからしたくない


私はその感情全てを

認めて諦める


この人は私とは別の存在だから

私の思うようにならないのは当たり前

この人はこうゆう人

この人はこうゆう生き方

そんなことより

私が私らしく在ることが

何より大事

愛される為に


そうやって人間らしい感情を消して

恋愛に必要な情熱も失って

諦めた男と交わっていると

自然と全てが平気になってくる


どこの女と何をしたとか

そんなのどーでもよくて

その男が一番欲しい女が私、ってことが

何より重要になる


今日、マサキの浮ついた話を

平常心で聞いて笑った時

「あ、超えた」

と思った


「るあは神みたいな女」


しょー汰が感じる「神」は

この瞬間に生まれる気がする


ただその分

今まで燃えていた愛情は消える


ただ冷静に

その男に冷めているだけ


だから、お願いだから

ちゃんと恋をしたいから

平気にさせないでって

どこかで思っていたのに


私は今日

その壁を超えてしまった


マサキが

「死ぬまで俺の傍にいてくれ」

って私をぎゅうっと抱きしめて

「るあ、すき」

って小さく呟いた時

私は冷静だった


少し前なら

心が震えたのに

私は何も言わず

マサキの肩越しに広がる星空を

じっと見てただけだった


ずっと思ってた

マサキがしょー汰と同じようになるのは

怖い


楽にはなるけど

恋が終わってしまう

少しずつ、少しずつ、、、


そんな気がして

怖かった


マサキとの関係は

頭で考えても答えが出ない

自分が楽で楽しく生きられれば

私はそれでいいから


私は自分の心のままに

理屈も常識も関係なく

ありのままで生きようと思う











マサキはあの日も酔ってた

花粉症もあって更に辛そうだった

なのにみんなを楽しませようと必死

マサキはバカ


酔ったマサキが私をじっと見つめて

手を広げる

みんな見てるのに何?

と思ったら


「なーもー俺でいーじゃん!」


て大声で叫んだ

え?ってなってたらまた


「るあはもう俺でいーじゃーん!!」


って私を抱きしめた


「うんうん、いーよ」


って言ったけど

マサキは絶対覚えてないからね


みんな送ってマサキと2人きりになった時

マサキはうなだれてつぶれた


うちに上がりたそうだったけど

マサキ次の日仕事だし家で寝た方がいい気がして

そう言い聞かせた


「おしっこ」


マサキはフラフラしながら歩いて行った

今にも倒れそうであぶない

介抱して車まで連れて帰ろうとしたら

マサキが私を振り払った

と、思った瞬間

車に壁ドンされた


「俺今日めっちゃるあなのに」


、、、めっちゃるあ?

なにそれ


マサキが私を抱きしめてキスする

たぶん泊まりたいんだろーな

でも私が帰れってゆうから拗ねてんだな


グズグズ言ってるマサキを車に乗せて

家まで送った


「るあぁ〜、るあ、、、」


寝言みたいに私の名前を呼んでる


「るあのこと想ってんのだけは覚えてて」


そう言ったこと

明日には忘れてるよ


抱きしめられたり

キスされたり

好きって言われたり

覚えてる私は幸せだけど

もう次の日には夢になるんだから

感情乱されてたまったもんじゃないよ


でもたぶん

「想ってる」のは本当な気がする


壁ドンした時のマサキ

男らしくてドキドキしたよ


絶対忘れてるから

教えてあげないけどね











午前中に直也として

午後はアキとして

夜は学生時代の仲間と飲み会だった

私の親友と、元彼と3人


元彼は私の初めての彼氏タクミ

高校卒業間際まで長いこと付き合ったけど

色々あって別れた


大人になって同窓会で再会して

キスされた


タクミは既婚者だから

それ以来2人きりにはならないようにしてる

彼は相変わらずカッコいいけど

男女の関係にはなりたくない


なんでか知らないけど

タクミにとって私は今でも特別な存在、らしい

タクミに興味がない私を見つめては

嬉しそうに微笑んでる


気を使わず気の合う仲間との時間は

とても楽しく楽だ


盛り上がっている最中に電話が鳴った

マサキだった


「飲んでる?!」


ごきげんなマサキ

いつもの居酒屋で飲んで電話してきた


「飲んでるよ」

「俺もー♪るあ呼ぼーと思って電話したぁ♪」

「そう、私も今外で飲んでるんだ」


いつもならすぐに駆けつけるとこだけど

今日は行かない


「ふーん、じゃー、またな!」


いつでも来る女だと思ってたでしょ

声でわかる

残念な気持ちと、拗ねてること


電話中にタクミの視線が止まってた

その後急にお酒のピッチがあがった

彼はその後飲みすぎてヘロヘロになった


「るあの色恋話知りたくないんだわ俺」


ってハイボールを水みたいに飲んでた

ちょっと意味がわからない

元彼の心境、わからない


帰って寝ようとしてたらマサキから電話


「俺今日るあんちで寝ることにした!」


もう酔ってるから嘘かほんとかわからない


「そう、楽しかった?」

「楽しかった!」

「よかったね、早く帰って寝ないとね」

「え!それって帰れってこと?!」

「うーん、だってきっとうちで寝ても

    明日の朝ここどこ?ってなるだけだし

    話したことも何も覚えてないし」

「うー、、、わかった、帰る!」


その後マサキが私に何か言ってたけど

眠くて覚えてないんだよなー

なんか大事なこと聞いた気がするのに

ま、いっか


今日はマサキの希望を全部叶えなかった

マサキは不完全燃焼だろうな

酔っ払いで会いに来ても

覚えてないから最近つまんないんだよ


酔っ払わないと私に連絡できない

変わらないねマサキは


「それって帰れってこと?!」


、、、

ちょっと可愛かったな




また近々居酒屋デートしよーね