ホテルのフロントではチェックイン時に個包装のドリップコーヒーを渡していた。マイルドとビターのいずれかを選ぶ。ビターは家にあるのでスイート、ではなくマイルドをもらう。

 部屋の窓からは駅前のバス乗り場が見渡せる。アスティとくしま行きの乗り場にはファンの長い列が出来ている。ツアーTに着替えて、4時ごろ部屋を出る。

 バスを待っている間に、折り畳み傘をホテルに置き忘れたことに気付く。取りに帰るのも面倒なので、そのままバスに乗る。今度は座れた。

 4時半ごろ会場着。チャットモンチーからの花輪を眺めつつ、場内に入る。座席は2階カ列。五十音順なので6列目だが、カタカナ表記は珍しい。

 会場は小ぶりで、スタンド席は1方向(通称「東」側)にしか設置されていない。席はセンターブロックの通路脇で、ステージをほぼまっすぐに見通せる。椅子、足元とも結構広め。

 開演後、体半分くらい通路にはみ出して立つ。静岡でスタッフにはみ出しを注意されて以来、ちょっと警戒中だ。

 真後ろの男性たちが野太い声を上げている。斜め前方、最前列の男性とすぐ後ろの女性も終始いい動きだ。私はというと、どこか乗り切れず、発汗量不足のままだった。なぜだろう?

 ライブ中にメンバーが観客に向かって「徳島の人?」と尋ねたが、推定2割しか手が挙がらなかった。もっとも、四国他県や関西・中国など近隣圏からの観客は相当いたことは、周囲から聞こえる話し声(西日本の言葉遣い)でうかがわれた。

 曲目・演出は前回福井とほぼ同じ。会場の小ささに対応して、あのコーナーのセットと進行が少々調整された。そういえば、福井では曲目が1曲入れ替わったのではなく、1曲追加されたのだった。どうりで落ちたと思った曲が思い出せなかったわけだ。

 終演後、会場を出ると本降りの雨だった。JPNツアーの黄色いタオルを頭に被り、徳島駅行きのバスを待つ。前後に並ぶ人の傘から滴る雨水が袖にかかる。バスに乗り込むころには、福井のとき以上にずぶ濡れになっていた。帰りのバスも座れた。
 羽田発の全日空機は定刻よりやや遅れて徳島に到着。足早にターミナルを出て徳島駅行きの空港バスに乗ろうとすると、バスの横に立つケンドーコバヤシさん風の運転手に「これからのご乗車は立ち乗りの可能性があります」と声を掛けられた。

 可能性? さすがケンコバ、あーラジで3週続けてボケ倒しただけのことはある。だが、こちらもあ~ちゃんほど優しくはない。すかさず「可能性ってどういうことですか。立ち乗りはもう確定ですか」と問いただす。

 すると、ケンコバいわく「すでに満席なので、立ち乗りになります」とのこと。要するに、ほかの乗客の膝の上に腰を掛けるという荒業を使えば、座れる可能性がゼロではないということだな。

 ケンコバの危うい誘導をかわしつつ、次のバスの時刻を尋ねると、約50分後だという。ただし、隣のバス停に路線バスが約10分後に来るらしい。

 選択肢は3つ。①このバスに立ったまま乗っていくか(これを仮に「のっちコース」と呼ぶ)、②次の空港バスを50分待つか(同じく「あ~ちゃんコース」)、③10分待って路線バスに乗るか(同「かしゆかコース」)。ライブ中に最近かしゆかと目が合うことが多い、ような錯覚をしている私は、おもむろに隣のバス停へと移った。

 路線バスを待つこと10分。列の先頭だし、空港で降りる乗客もいるだろうし、座れないことはあるまい。

 ところが、到着したバスは既に立っている乗客が結構おり、空港では1人も降りない。あ~ちゃんコースへの乗り換えも脳裏をかすめはしたが、「仕方ない、30分の辛抱だ」と自分に言い聞かせて乗り込む。車内は既に満員御礼だ。

 バスの最後部に横向きに立ち、天井に据え付けられた手すり棒を両手でつかむ。渋滞でさっぱり前に進まない。あ~ちゃんほどではないが、この歳になっても体調が悪いと乗り物酔いしかねないので、窓の外を眺めて気を紛らわせる。かしゆかコースの予想外の厳しい責めに耐え続ける。

 1時間後にようやくたどり着いた徳島駅前は、今にも降り出しそうな雲行きだった。バスの手すりの黒い汚れが付いた手のひらを見ながら、「のっちコースにしておけばよかったな」と思いつつホテルに向かう。
 メガネフレーム生産地として有名な鯖江。しかし、こんな機会でもないとなかなか訪れない街。MC中にあ~ちゃんが思わず言ったように、乗り換えのせいで東京からはえらく遠く感じる。メンバーはたぶん、北陸新幹線・金沢駅で在来線特急に乗り換えたのだろう。

 私はというと、行きは空路・小松空港からリムジンバスで福井駅経由、北陸本線各駅停車に乗り換えて鯖江へ。飛行機が少々延着したせいで、予定していた電車に乗れず、福井駅で30分以上待つ。次の各駅停車は駅員のアナウンスの言葉を借りれば「超満員」。ただし、東京の通勤電車に乗り慣れた人間から見ると、車両の奥のほうはまだかなり詰め合える余地を残しての発車だ。福井の人たちはギュウギュウ詰めを好まないのだろう。15分ほどで鯖江駅に着く。

 ふだんなら敬遠しそうな駅前の「ザ・ビジネスホテル」という外観の宿(部屋は清潔でコスパは良かった。念のため)に荷物を置き、急ぎサンドームへ。ネットで事前知識は得ていたが、まさに田んぼの中にUFOが着陸したような建物だ。それはそれで感動的ではあるが、なぜ福井駅から徒歩圏内に造ってくれないのか、と、よそ者の勝手な不満が胸に沸く。

 座席は2日ともアリーナ。今ツアーで初めてのことだ。1日目はBブロック7列。相当前方だが、メインステージをほぼ真横に見ることになるので、足元が狭苦しくジャンプは自粛する。2日目はAブロック19列で、少々後方だがステージとの角度は緩い。だが、両隣との距離がどうも窮屈で、控え気味に跳ねる。

 MCではメンバーが「福井には初めて来ました。待っとってくれてありがとう」とか言うわけだが、私は「どうせ観客の7~8割は遠征組だろう」と思っていた。ところが、2日目にメンバーの誰かの「福井の人?」という問い掛けに、周囲の結構な数の観客が手を挙げたのを見て驚いた。やはり各地を回ると地元や近隣の人たちがたくさん見に来てくれるのだな、と実感する。

 セトリは、仙台、静岡ではやらなかった1曲が加わったが、代わりに落ちたはずの1曲が何だかわからない。あの曲は、仙台、静岡とは違う曲順でやったし。ネットで調べればすぐわかるだろうが、しばらく放っておくことにする。

 今回は例の曲の例のポーズを1日目にマネしてみたが、周りでやっている人はほぼ皆無で、途中でくじけた。2日目はやらずにいたら、前方でやっている人が結構いて逆に驚く。徳島ではまたやってみるか。

 2日目の終演後に会場を出ると、開演前にぽつぽつ降り始めた雨が勢いを増していた。今回の遠征は荷物を減らすために折りたたみ傘を持って行かなかったので、頭を濡らしながら駅方向に戻る。

 モスに立ち寄って夕食を済ませた後に駅舎に入り、しらさぎに乗車。米原でひかりに乗り換え、零時少し前に帰宅。飛行機より新幹線のほうが楽だった気がする。料金は早割だと飛行機のほうが安いのだが。
 先週末は掛川駅前のホテルに1泊した。日曜はライブ開演まで時間を持て余したので、ちょっと離れたところにある資生堂の企業資料館&アートハウスに行くことにした。
 企業資料館の1階は会社の歴史を振り返る展示が中心で、まあ予想どおり。ちょっと驚いたのは2階で、企業・商品PRポスターが時代順にずらりと掲示されている。なかでも目をひいたのは、太平洋戦争を挟んだ時期の、一連の女性のイラストだ。資生堂の広告意匠を確立した山名文夫氏の手になるもので、実にすばらしい。ベンチに腰掛けて暫くぼんやり眺めていた。
 1階のショップでポスターと同じ図柄のポストカードが売られていたが、本当にほしかったイラストがなかったので1枚も買わなかった。何枚か買っておけばよかった、と今は後悔しきりだ。
エコパアリーナはJPNツアーのときに訪れるはずだったが、果たせなかった。チケットを入手したものの、母親が緊急入院して東京を離れられなくなったためだ。今回は4年ぶりの「後悔払拭」の機会でもあった。
 愛野駅から強い日差しの下、思ったよりは長い道のりを歩く。陸橋を渡って視界が開けると正面がスタジアム、左手がアリーナだ。開演40分前だったが、グッズ売り場は割と空いている。仙台で買い損ねたブルーのTシャツをあっけなく購入する。
 座席は1日目が西スタンド9列140番台で、一番奥の端から数番目の席。注釈付き指定席だったので初めから多くを望んではいなかったものの、会場の大きさ(小ささ)と今回ツアーのステージ配置に助けられて十分楽しめる位置だった。ただ、両隣との距離が近いのとスタンドの傾斜がきつめなせいで、あまり動けないのが残念。
 2日目はアリーナCブロック13列目。方向は仙台2日目と同じだが、今回は最後列。通路沿いの席だったので、開演直後から通路にはみ出して踊っていたら、係員に押し戻された。係員はその後も、他会場では見たことがないような執拗さで見回りに来ていたので、注意されない程度にはみ出して跳び続けた。
 公演内容は仙台とほとんど変わっていなかった、と思うが、見ているこちらはどうやったらもっとノレるかを1公演ごとにブラッシュアップしている感じ。あのポーズは観客もやったほうがいいのかな。左手の指がうまく曲がらないのだが。
 終演後に会場から出ると、1日目はすでにあたりを暗闇が包み、陸橋へと続く通路に柱状の照明が並ぶ。2日目は1時間早いのでまだ明るく、夕日を眺めつつ風に吹かれて駅へと向かう。
あ~ちゃんが昔住んでいたところからそう遠くない工場で作っているらしい。

 いろいろと予想外の展開に驚く。これ以上書くとたちまちネタバレになりそうなので委細省略。
 座席は1日目が東スタンドRブロック16列。すぐ背後には照明機器を載せる「やぐら」が立っていた。ツアー初日に会場全体を見渡すには好位置だ。
 2日目はアリーナ席。具体的に書くとステージ配置がバレそうなので、柵のすぐ後ろとだけ記しておく。ステージと客席との一体感に胸が熱い。
 観客を楽しませようと全力のメンバー。観客はそんなメンバーを喜ばせたい一心で跳び叫び手を振る。ファンの汗と筋肉痛は3人の笑顔と嬉し涙で報われる。
 ヘレン・ケラーの伝記映画「奇跡の人」の原題は「The Miracle Worker」。主役はヘレンではなく、彼女に言葉を教えたアニー・サリバン先生だ。
 この曲のMiracle Workerは、Perfumeに音楽を授けた中田ヤスタカ氏かもしれない。どうすればいいか、どこを目指せばいいか、と迷う3人。横目で見ても謎だらけの中田氏が背中で叫ぶ。「起こせミラクル」
 BABYMETALについては努めて見聞きしないようにしてきた。Perfumeファンの先達が次々とBABYMETALへと心移りするのを見るにつけ、自分もそうなることを半ば恐れていた。
 1週間ほど前に録画しておいたMJ SPECIAL NIGHTを今晩再生したら、番組前半はBABYMETAL特集だった。いい潮時だと思い、そのまま見ることにした。BABYMETALのライブ映像をまともに見るのは初めてだ。
 心配は杞憂だった。心は1ミリも動かなかった。どうやら私の脳内にはBABYMETALレセプター(受容体)がないらしい。得心して番組後半を見る。
 随分と振り切ったな、というのが第一印象。それでも紛れもなくPerfumeの音楽。聞き終わった後、ライナーノーツにヤスタカ氏が記した「今回のアルバムに対する思い」を初めて読み、心が震えた。
 Cosmic ExplorerからMiracle Workerへと続く高揚は、Next Stage with YOUに至って感涙に転じる。ファン達を泣かせ続ける限り、Perfumeは失速しない。Perfumeに涙し続ける限り、僕の心は枯れない。