羽田発の全日空機は定刻よりやや遅れて徳島に到着。足早にターミナルを出て徳島駅行きの空港バスに乗ろうとすると、バスの横に立つケンドーコバヤシさん風の運転手に「これからのご乗車は立ち乗りの可能性があります」と声を掛けられた。

 可能性? さすがケンコバ、あーラジで3週続けてボケ倒しただけのことはある。だが、こちらもあ~ちゃんほど優しくはない。すかさず「可能性ってどういうことですか。立ち乗りはもう確定ですか」と問いただす。

 すると、ケンコバいわく「すでに満席なので、立ち乗りになります」とのこと。要するに、ほかの乗客の膝の上に腰を掛けるという荒業を使えば、座れる可能性がゼロではないということだな。

 ケンコバの危うい誘導をかわしつつ、次のバスの時刻を尋ねると、約50分後だという。ただし、隣のバス停に路線バスが約10分後に来るらしい。

 選択肢は3つ。①このバスに立ったまま乗っていくか(これを仮に「のっちコース」と呼ぶ)、②次の空港バスを50分待つか(同じく「あ~ちゃんコース」)、③10分待って路線バスに乗るか(同「かしゆかコース」)。ライブ中に最近かしゆかと目が合うことが多い、ような錯覚をしている私は、おもむろに隣のバス停へと移った。

 路線バスを待つこと10分。列の先頭だし、空港で降りる乗客もいるだろうし、座れないことはあるまい。

 ところが、到着したバスは既に立っている乗客が結構おり、空港では1人も降りない。あ~ちゃんコースへの乗り換えも脳裏をかすめはしたが、「仕方ない、30分の辛抱だ」と自分に言い聞かせて乗り込む。車内は既に満員御礼だ。

 バスの最後部に横向きに立ち、天井に据え付けられた手すり棒を両手でつかむ。渋滞でさっぱり前に進まない。あ~ちゃんほどではないが、この歳になっても体調が悪いと乗り物酔いしかねないので、窓の外を眺めて気を紛らわせる。かしゆかコースの予想外の厳しい責めに耐え続ける。

 1時間後にようやくたどり着いた徳島駅前は、今にも降り出しそうな雲行きだった。バスの手すりの黒い汚れが付いた手のひらを見ながら、「のっちコースにしておけばよかったな」と思いつつホテルに向かう。