ナショナル劇場(TBS)の『水戸黄門』や『大岡越前』、『江戸を斬る』が好きだったことは前に書いた。にも関わらず、『南町奉行事件帖 怒れ!求馬』や、その後継番組らしき『大江戸を駈ける!』は見たことがなかった。その頃には、すっかり地上波のドラマやバラエティにはうんざりしてしまっていたし、いまだケーブルテレビには加入していなかったからだ。
それにしても、求馬シリーズは3シーズン全35話しか制作されなかったようだ。私自身も見ていなかったわけだが、世の趨勢として、時代劇が下火となり、まことに残念なことだが、番組の企画を実現するだけでも容易ではなかったのだろう。
そこで、もし求馬シリーズをリメイクするとしたら、じぶんならばどんな設定にするかを妄想してみた。主人公はもちろん根岸求馬だ。准主人公として、「爺ちゃん」こと、根岸肥前守(鎮衛)も忘れてはいけない。時代設定を文化七年(1810)とすると、肥前は七十四歳、兄の榮太郎は二十歳ということになるが、細かいことは気にしない。ホームドラマ要素を出すなら、二人の姉と弟の篤五郎を登場させてもいいかもしれない。
根岸家の当主はあくまでも爺ちゃんの肥前で、彼は数寄屋橋内にある南の役宅に住んでいる。オリジナル求馬では死んだことになっていた父・九郎兵衛(衛粛)は健在で五十歳になるが、肥前が現役(町奉行)なので、いまだに部屋住で家来からは「若殿様」と呼ばれる身分だ。この頃、先手弓頭になったばかりで、駿河台にある根岸家の拝領屋敷にいたようだ。部下からは肥前同様「御頭」と呼ばれている。悴の榮太郎や求馬は、父のいる駿河台に住んでいたと考えたい。で、求馬は小うるさい両親から逃れるため、駿河台の屋敷を飛び出し、祖父のいる南の役宅に転がり込み、根岸家の家臣(たとえば、取次役)という建前で祖父の仕事を手伝っているという設定ではどうだろうか。
求馬の住まいは根岸家の家来になっているという建前だから、根岸家の家族が住む「奥」ではなく、家来たちが暮らす長屋(たとえば、給人長屋)に一人暮らしだが、駿河台にいる息子夫婦や孫たちと別居して寂しい肥前はしきりに用事を言い立てて、求馬を自室に呼びつける(という設定)。ちなみに南の役宅平面図はこちら。
肥前の公用人は宮下貢右衛門と高木良右衛門の二人だ。もっとも、根岸家はもともと家禄百五十俵の貧乏旗本だから、譜代の家臣がいたとは思われない。せいぜい渡り用人に、中間・小者を二、三人と下男下女を抱えるだけで精一杯だったろう。それが肥前の昇進で家禄は五百石(後に千石)まで増え、さらには足高で二千五百俵を追加でもらっていたから、家計に余裕はあったはずだ。町奉行の公用を果たすために必要な公用人には、渉外能力が高く、町方の実務にも通じた人材を八方に求め、肥前が隠退するまでの条件で雇用したはずだ。貢右衛門は肥前が勘定奉行だった頃からの公用人だ。よほど気があったか、有用な人材だったのだろう。
彼らは、本来なら内与力といって、裁判にも関与する役割を兼ねるのがふつうだったが、ちょうどこの頃(寛政八~文化八年)は肥前の前々任者である坂部能登守(広吉)の進達により、内与力が廃止され、そのかわりに町奉行吟味物調役というポストが短期間ではあるが、置かれていた。
南の調役は久須美権兵衛(後の佐渡守)と高木幸次郎の二人だ。いずれも御目見得以下の御家人出身者で、権兵衛は裁判を得意とし、後に公事方勘定奉行にまで出世している。一方の幸次郎は、同じ役人仲間からは忌み嫌われた徒目付から転役となった人物だけに、口は悪いが正義感を秘めたツンデレ系ライバル、もしくは意地の悪い上司といった役どころでどうだろうか(求馬は肥前の孫だから、根岸家の「若様」には違いないが、一方で肥前の取次役という設定なら、調役は立派な上司ともいえる)。で、権兵衛は求馬や肥前の相談役兼軍師といった感じでどうだろう。
オリジナル求馬では南組同心だった姉崎真吾は、主に事件の捜査を担当する臨時廻り同心として登場してもらおう。岡っ引の為吉には引き続き真吾の手先として働いてもらう。また、悪の黒幕には定番だが、将軍家斉の愛妾・お美代の方の養父・中野碩翁(清茂)か、若年寄(後に側用人を経て老中)の水野出羽守(忠成)あたりだろうか。
この他にも、ヒロインや若手の番方同心などには主要キャストを配したいところだ。こんな妄想に耽りながら、秋の夜は更けていく。