去年あたりから、まるで土手の地面に吸い込まれたみたいに猫たちの姿が見えなくなった。
誰かが連れ去って家で飼ってると考えたいところだが、事実は調べようもない。
タクシー会社には一人ひとりが時期不定不詳にふらっと入社し、いつのまにかいなくなっている。
俺もそんな中の一人で、まもなく消えようとしている。
まるで、土手の上の猫たちだ。
そんな俺は自分が、どこでどんなふうに発生したかも覚えていない。
小学校に入るまでの記憶はたったひとつ。
園庭の上の空が真っ暗になり、滝のような雨が降ってきたこと――その時の世界の暗さ。
いやもうひとつ――間借りしていた家のトイレが外にあったこと。
まるで祭の時に現れる特設トイレみたいだった。寒かった。
まぼろしのように現れてきた自分。けむりのように立ち上がって形を得て、いまここに至る俺。
本当の意味で「自分」を得たのはあの一家離散の頃だったかもしれない。
なんてことをぼんやりまぼろしでも見るかのように感じている今日この頃です。