すーさんすーさん呼ばれてりゃ誰だってなんで俺はすーさんなんだ?と思うはずだ。
そりゃあ俺の場合、本名を他人ばっかの場所で大声で呼ばれたら一瞬やっぱひやっとするくらいで、すーさんって呼び名はありがたいっちゃあありがたい。でもやっぱ、なんですーさんよ、だ。
「そんなに気になる?」
とまず彩子さんは言った。
いつものように誘われるままに彩子さんの部屋の前のベンチで一服してる時だ。
俺はごく当たり前って感じ、そりゃあ訊くでしょって調子で、なんで俺たちみんなすーさんなわけ?と聞いたのだ。
「むかしね」
と言って煙草に口をつけ、一息吐いてから彩子さんは続けた。
「ナースやってた頃、病院にいわゆるVIPっての?そんな感じの偉そうなおっさんが来たわけ。何かの検査だったか、人間ドックだったかでね。で、わたしその対応を仰せつかったんだけどさ、忘れちゃったのよ、しっかり聞いてたはずのその人の名前。あ、やば、って一瞬思ったかなあ。うん、確か思ったと思う。でもそう思ったと同時にね、いっか、って、そう思ったの。
すーさんだ、こいつはって。
じゃあ、すーさんこちらへ!ってな感じ?なんかやけにでかい声で。
凍った。一瞬にして半径10メートル内にいた全員、まあ凍りついたね。
ああ、やっぱ凍りついたわ、そう思った。なんか冷静にそう思った、その瞬間、わたし笑ってた。
わーはははは……ってなもんよ。抑揚もなく。淡々と笑ってた。
もういいわ、そう思いながら。
なんでだろうねえ、いまだにわかんない、あん時の自分。
だからね、ガメラも気をつけな。自分ってのには、重々慎重に付き合っていくんだよ。わかった?あんたにはアパート残してくれるような人、誰もいないでしょ」