明治侠客伝 三代目襲名 | ロロモ文庫

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明治四十年、大阪。祭りを見物していた木屋辰一家二代目の江本は小倉の無宿者の中井徳松に刺されて重傷を負う。星野組にやられたんとちゃうか、と寝込んだ江本に聞く息子の春夫。「星野は前から唐沢使って、木屋辰に因縁つけてんのや。親父さん、この落とし前はわいがきっぱりつけまっせ」

ガタガタするなという江本。「ほな、親父さん。このまま黙っているつもりでっか。そんなことしたら木屋辰の名折れや。世間の笑いものでっせ」「お前の言う世間とは極道のことか。わいはなんでもかんでも喧嘩で決着をつけようとするその料簡が気に入らんのや。木屋辰は喧嘩商売やない。立派な職をもった一家や。みだりに事を起こして、大事な仕事に何かあったらどないするねん」

そんな弱腰だから星野組になめられるんじゃ、と怒鳴る春夫。「わいは星野組に木屋辰のど根性見せたるで」立ち上がる春夫に、やめなはれという木屋辰の重鎮である菊池浅次郎。「ぼん。肝心の星野や唐沢やいう証拠がないのに、無鉄砲やおまへんか。相手は喧嘩のきっかけを待ってるんですせ」

江本の二代目の見舞いに現れる星野。「お元気そうで安心しました。何しろ木屋辰さんは我々業者の大黒柱ですからな」「星野はん。木屋辰には野村組の浄水工事に資材を送り込む大事な仕事がありますからな。これをやり遂げるまではまだまだくたばりませんわ」「そうでしょうな。跡取りもまだ若いようですし」

中井徳松は誰に頼まれたわけでなく、男をあげるために二代目を狙ったと警官に話す。ヘマをやりやがって、と唐沢に言う星野。「たかが老いぼれ一匹の息の根も止められなかったのか」「まあ、徳松とわいらの関係がバレなんだだけでも儲けもんでっせ」「馬鹿野郎。あたりまえだ。俺はお前に一家を持たせた。つまりお前を買ったんだ。道楽で金を持たせたんじゃねえ」「ようわかってま。わいに木屋辰を潰させて、野村組との取引を一手に握る腹なんでっしゃろ」

遊郭で遊びまわる春夫を探す浅次郎は、岡山にいる危篤の父に会いたいという芸者の初枝と知り合う。早く田舎に帰れと初枝に言う浅次郎。「お父さんの死に目に会わなんだら親不孝やで」唐沢が初枝に執着していると聞いた浅次郎は、初江を田舎に返すため、三日間初枝を買い切る。

唐沢にそのことを告げる浅次郎。「まあ、あんさんでも同じことをしただろうけどな。惚れた女を親の死に目にも会わさなんだとなると、男を売るあんさんの看板に傷がつく思うてな。まあ、さしでがましいと思ったけど、わいがさせてもろうた」うううと唸る唐沢。

木屋辰の運ぶセメントが唐沢組に襲われて川に流されるという事件が発生する。唐沢組に殴りこもうとうする若い者を制する浅次郎。「うちらは喧嘩が仕事やない。野村さんにセメントを収めるのが仕事や。わいがなんとかする」

星野のところに行き、セメントを融通してくれと頼む浅次郎。「君が野村組に渡すセメントをなくしたことと、星野建材とどういう関係があるのかね」「同業者のよしみでお願いします。セメントを二千ほどお借りしたいんです」「断る。僕はヤクザが嫌いだ。問題があるとすぐ力で解決しようとする。これからはそういう時代じゃないよ」「木屋辰は商売に絡んだ喧嘩はたとえ売られても買わん、というのが二代目の教えだす。大阪でセメントを二千融通してもらえるのはお宅しかおまへん」「君のところがヤクザでんかったら、なんぼでも融通するよ」「星野はん。木屋辰がヤクザ稼業でなかったら。カタギになったらええんですな」

野村に詫びを入れる浅次郎。「何も言うな、菊池君。今日、星野から電話があった。セメントを融通すると言ってきた」「……」「はははは。今度の工事の遅れは君のところのセメントが入り次第、突貫工事で取り戻そう」「社長。ありがとうございます」

芸者の秀奴と遊び呆ける春夫。「ええか。わいは木屋辰の三代目なんやぞ。そしたら、秀奴。お前にええ家持たせたるわ」「でも家業は子供に継がせんというしきたりがあるんやないの」「ふん。そんなしきたり、わいが壊したるわ」お前には苦労をかけるな、と浅次郎に詫びる江本。「春夫は遅うになって出来たたった一人の息子や。甘う育ててしもうて。弱いもんやなあ、親ちゅうもんは。浅次郎、春夫のことはくれぐれも頼むで」

渡世人の仙吉が木屋辰一家の厄介になることになる。浅次郎にお宅の親分あまり長くないいじゃないか、と言う仙吉。「客人。あまり余計な口を入れないでいただきたい。それが渡世の作法ちゅうもんでしゃっろ」「わて、おっちょこちょいでな。悪い癖や。けどな。二代目に何かあったら、三代目はあんたでっしゃろ。いや長いこと旅しとると自然と人を見る眼ちゅうもんができてしまうんや」「客人」「いや、悪い癖は治りませんのや」

浅次郎を呼び出し、親の死に目に会えましたと告げる初枝。「なんでうちみたいな女に親切にしてくれたんですか」「まあ、行きずりの気まぐれみたいなもんや」「それじゃ失礼します」

唐沢は初枝に折檻を加える。そこに現れる浅次郎。「おおかたこんなことだと思ったぜ」「おんどれ、初江に惚れとるな」「ああ、惚れた。惚れたらなんぞ悪いことでもあるんか」「初枝はわいの女や」「初枝は震えとるやないか。こんなことをせんと女ができんとは、お前も可哀相な男じゃ」「なんだと」

そこにやかましいと言って拳銃を持って入ってくる仙吉。「三角関係でっか。こりゃ両方とも後に引けまへんな。ほな、男らしゅうあっさり話を決めなはれ。ピストルに弾を一発込めまっさ。それでお互いに一発ずつ銃を撃ちあいますのや。これで早いとこ話つけましょう」

浅次郎はお前から先に撃て、と唐沢に言う。初枝の制止を無視して引き金を引く唐沢は弾が出てこないのに動揺して、何度も引き金を引くが弾は出てこない。たまにはこんなこともあるわい、と弾丸を放り投げながら笑う仙吉。覚えてけつかれ、と拳銃を投げ捨て退散する唐沢。

震える初枝を抱く浅次郎。「うちへの親切、ホンマに気まぐれやったんですか」「わいの親父はな、三度の飯より博奕が好きで、おふくろを泣かしてばかりのしょうもない男やった。その親父が死にかけてると知らされた時、わいは監獄で赤い着物を着てた。そんな親父でも会いたかったなあ」「それでうちを」「他人事と思えんかったんやろう」「浅次郎はん。うちは明日から売り物買い物の女郎だす。女郎は人を好きになったらあかんのですか」「初枝。人間は身体やない。心や。お前は綺麗なおなごや」

もう帰るという浅次郎に、嫌やという初枝。「親分が怪我をして明日もわからん命なんや。ここに泊まるわけにはいかん」「嫌です。帰らんといて」「初枝」朝帰りした浅次郎は江本が息を引き取ったことを知り、呆然とする。

江本の妻のひさは木屋辰一家の三代目は浅次郎に継いでもらうと言う。反対だ、という春夫。「木屋辰をここませ大きうしたんは親父や。みんな親父の力や。初代は材木だけやったんを、セメント・砂利と手広うやってここまでのしあがったんや。それを浅次郎はんがそっくりそのままいうのは納得できんな。それに、浅次郎はん、あんた親父が死んだ日、朝帰りや。そんな男が木屋辰の三代目継いだら沽券に係わるのと違いまっか」ええかげんにせえ、と春夫に言うひさ。「お母さんの言うてることはお父さんの言うてることと一緒や」お母さんの言うとおりだという野村。「春夫君。君だってこの理屈はわかるだろう」

わかりまへん、という春夫。「三代目の盃ちゅうのはそんなに軽いものでっか。みんながそんなに言うならわいはわいの好きなようにさせてもらいま」香典をひっつかむ春夫。「親父のもんを息子が何しようと勝手やろ」春夫に激しくビンタを浴びせる浅次郎。しゃがみこむ春夫。「ぼん。なんで一家のために尽そうと思わんのや。跡目取られて腹が立つなら、なんでもっとしっかりせえへんのや。ぼんが何と言おうが、わいはわいの思うたとおりやるで」

三代目を襲名するという浅次郎。「そやけどわいは看板だけもろうていきます。親分が作ったこの会社はそっくりぼんにお渡ししたいんです。そのかわりぼんにはカタギになってもらいます」

感動する野村。「菊池君。君は偉い」木屋辰はあんたのものです、と浅次郎に言うひさ。「あんたの思い通りにしておくれやす」目を潤ませ浅次郎を見上げ、すっかり改心する春夫。「ぼん。殴ってすまなんだなあ。親分の仕事が新しい時勢に乗っていくためには、わいみたいな極道者が邪魔なんや。星野や唐沢との揉め事もわいらがおらんかったらないはずや。盆にはこの木屋辰を立派な会社にしてほしいんや。春ぼん、わいの入墨はどんなことをしても、もう消せんのや」

唐沢は初枝に身請け話を断ると、浅次郎の命はないぞ、と脅す。「木屋辰三代目襲名披露は血の雨が降るやろうなあ」浅次郎を呼び出す初枝はうちを連れて逃げてくれと懇願する。「あかんねや、初枝」「うちは唐沢に身請けされるんでっせ。あんたそれでも」「堪忍してくれ。わいはあの晩お前のとこ泊まったために、親分の死に目に会えへんやったんで。なあ。今のわいはわいであってわいでないねん。木屋辰の三代目の金看板を背負ったお前の知らん菊池浅次郎ちゅう男や。わかってくれ。アホな男や。でもわいはそういう生き方しかできへんねん」菊池浅次郎の三代目襲名披露が華々しく行われる。

三代目になった挨拶を星野にする浅次郎。「あんたとの約束通り、木屋辰一家はやくざの看板をおろしました。わいが受け継いだ木屋辰とは何のかかわりもない江本建材という会社になったんだず」「そうだってなあ。江本の倅に切り盛りができるのかい」「何分まだ若い身ですから、星野はん、力になって助けていただきたいんです」

「面倒みるのはいいが、この世界は競争だからね」「それはわかってます。ぼんに力がなかったらしょうがおまへん。せやけど、星野はん。わいはあんたとの約束守ったんでっせ。カタギさんはカタギさん同士、仲ようやってもらえまへんやろか」「……」「ヤクザ渡世で、なんぼ親分の言いつけやとはいえ、親分がどこの誰かに殺されたのをわいらは黙って目をつぶっとるんです。星野はん、わいの頼みを聞き入れてもらえるでっしゃろな」「ようし。わかった。君の言うとおりにしよう」

神戸港の新突堤工事を指揮してくれ、と浅次郎に頼む野村。「これからの日本は貿易が必要だ。この新突堤工事は日本の新しい玄関を作る工事だ。それには野村組の今後もかかっている」行ってきなはれ、という春夫。「三代目が帰ってくるころにはわいも一人前になってます」神戸に赴く浅次郎。その隙に星野と唐沢は江本建材に露骨な嫌がらせを始めるが、春夫はなんとか自分の力で揉め事を納めようと奮戦する。

浅次郎について神戸に来た仙吉は、どうも働くことは性に合わないと言って大阪に戻り、初枝に会う。「あんた、俺と一緒に神戸行ってな。浅次郎はん、神戸におるねん」「……」「初枝はん。俺にはあの人の気持ちがようわかるねん。口に出して言えへんけど、あの人あんたのこと忘れられへんのや。あんた、あんな唐沢みたいなゲジゲジとずっと一緒に暮らす気か」「うちは浅次郎さんと別れた時から死んだ女です」

「あほなこと言うな。生きているやないか。立っているやないか。あんた三代目のことはっきりあきらめた言うんか」「ほっといておくれやす」「初枝はん。無理すんなよ。好きな者同士一緒にならへんって、そんなあほな話あらへんで」「あの人は人を好きになる喜びを初めて教えてくれた人だす。こんな女でも幸せになれる夢をいっぺんでも見せてくれた人だす。うちが死んだ気で唐沢と暮らしてるのも、あの人に少しでも迷惑がかからんようにと。なんぼうちが好きでも今のうちにはほかにできることは何もおまへんやないか」

仙吉と飲みにいった春夫は秀奴と会う。秀奴は春夫を星野や唐沢のいる座敷に連れ出す。秀奴にそんな若僧と浮気してみたいかという星野。「秀奴。お前は」「若社長。秀奴は俺の女なんだ」「そんならわいをここにおびき出す囮に」「やっと気が付いたのか。若社長」

そこに現れた仙吉はこんなとこ出ましょう、と春夫に言うが、星野は春夫にカタギになったんじゃないのか、と聞く。「それがどうしてこんなヤクザと。三代目ははっきり約束したんだ。カタギになると」仙吉にこの場は任してくれと言う春夫。野村組から手を引け、という星野に、はっきり断る春夫。「じゃあ仕方がねえなあ」春夫に斬りかかる唐沢組のヤクザたち。自分の身を呈して春夫の命を救う仙吉。

仙吉が殺され春夫が重傷を負ったことを電信で知った浅次郎は、ぼん、なんでや、と呻くと大阪に帰ると一同に告げる。「みんな。わいに命預けてくれるな」「へい」「ええな。大阪へはわい一人が帰るで」「じゃあわいらの命は」「お前らの命はこの工事に捧げてくれ」「いや。わいらも大阪行くで」「あほんだら。お前は親分の言うことが聞けんのか」「……」「みんなの気持ちは抱いていくで」

大阪に戻った浅次郎は春夫と野村の会話を聞く。「仙吉さんを殺したのはわいや。わいは三代目に会わす顔があらへん。わいみたいな青二才が店を構えること自体間違ってたんや」「春夫君。三代目は君を信じて神戸に行ったんだ。僕も君を信じて神戸に行ってもらった。男はいったん決めたらやりぬくど根性が必要だ。ここが勝負の分かれ目だ。男なら立ち上がれ」うなずく春夫を見て、うなずく浅次郎。

浅次郎は殴り込みを敢行し、まず星野を血祭りにあげ、傷ついて逃げる唐沢を追う。妾宅である初枝の家に逃げ込む唐沢の背中にドスを突き刺す浅次郎。さらに斬り込もうとうする浅次郎を制する初枝。浅次郎は警官隊に引き連れられていく。初枝は浅次郎に駆け寄りただ泣きすがるのであった。