車夫遊侠伝 喧嘩辰 | ロロモ文庫

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明治三十一年。江戸っ子車夫の辰五郎は東京で問題を起こし、一旗あげようと大阪にやってきたが、持ち前のきっぷの良さと喧嘩っぱやさで大阪駅前を縄張りとする西川一家と常にトラブルを起こしていた。西川一家の親分の弥三郎は芸者の喜美奴を三年越しの念願で自分の妾にできると喜ぶ。「喜美奴は実家に帰って相談しにいっとる。大阪に帰ってきたら俺と喜美奴で有馬温泉に道行きと洒落こむんや。いつもの旅館に電報うっといてくれ。はははははは」

大阪駅に着いた喜美奴は堂島までやってくれと辰五郎に頼む。地図を見て道筋を確認する辰五郎。「ちょっと。うち急いでるんやで。御荷物様御乗り物。なんやねん、この幟」「天下御免の俺の金看板だい。俺はそこらのノロノロ車と違って超特急の稲妻車だ。そのかわり乗ったものは人間だろうとなんだろうと御荷物様だ。荷物が口をきく法はねえやな。行きつくところまでは黙ってくんな」「あんた初めて見る顔やな」「嫌なら降りてくれ。この金看板は俺の命だ。乗ったら最後、荷物だぜ」「面白いわ。見事行けんのやろな」「この野郎」

滅茶苦茶に走る辰五郎を注意する喜美奴。「あんた道が違うで。ええ加減にしいや」「うるせえや」「なんや、それがお客に言う言葉か」「荷物が口きく法はないと言ったはずだぜ」うおりゃあと叫びながら、猛スピードで走りまくる辰五郎は橋の上で車を停める。「おい。俺の流儀では口をきいた荷物は川の中に放り込むんだ」「へええ。放れるもんなら放ってみい」「何を、この野郎」車ごと喜美奴を川に放り込む辰五郎は溺れる喜美奴を見て、あわてて川に飛び込み、喜美奴を救出する。「俺は荷物には強いが、女には弱いんだ」

弥三郎のところに連れて行かれる辰五郎。「おい、いったん川に放り込んだ女を救い上げたちゅうのはどういう了見じゃ」「車放れたら荷物は人間だい。相手は弱い女だぜ。いや嘘だ。本当のこと言うと、俺はこの女に惚れたんだ。川に放り込んだ途端に惚れてしまったんだ」「われ、辰言うたな。お前大阪に嫁さん探しに来たんか」

「俺は俺のまんままっすぐに生きていけるところを探してきたんだ。大阪がそうでないと今日ででもサヨナラだ」「面白い男やな。お前は御荷物様御乗り物ちゅう幟かけとるそうやけど、どういう意味や」「俺の爺さんと親父は駕籠屋で、俺は車夫だ。あの幟は生涯他人様を乗せて走らなきゃなんねえ俺の生涯へのむかっ腹だ」

喜美奴に話す辰五郎。「姐さん。あんたは俺に話しかけたんで、俺はあんたを川に放り込んだ。あんたの身体が宙に舞った時、俺は考えた。車離れたら荷物じゃねえ。人間様だ。弱い女が川に落ちていく。おまけに他人に見せてはいけないところまでお天道様にぱっとさらしてなあ」「……」

はははと笑う弥三郎。「俺がお前の車に乗っても、やっぱり御荷物か」「当たり前だ」「はははは。おもろい男やがこのまま済ますわけにはいかんぞ。しかし俺の身内になったら話は別や」「嫌だい」「なにを。その了見ならどたまカチ割ったるわい」

頭割られる前に喜美奴を女房にしたいという辰五郎。「俺が生まれてきただ一つの望みがこの女かもしれねえ。俺はこの女を女房にしたいが、文なしだ。どうしたらいいんだい」「そんなこと俺の知ったことか」「子分にするなど勝手なことをゆかしやがって。俺とこの女を何とかしろい」

喜美奴に聞く弥三郎。「この男はお前を女房にしたい言うとる。お前の気持ちはどうなんや」喜美奴は泣きながら花嫁になりたいと答える。ようしわかった、と怒鳴る弥三郎。「今夜結婚式や。俺の気の変わらんうちにな」

辰五郎と喜美奴の結婚式が行われて、二人は有馬温泉に新婚旅行に行くことになる。そこに現れる弥三郎の義兄の光川弥太郎。「男女の結合を真剣勝負に例えればだ。お前たちはあうんの呼吸があって立ち上がったところだ。本当の勝負はこれからだ。お祭り騒ぎはやめてとっとと出かけろ」喜美奴を車に乗せて有馬温泉に行く辰五郎であったが、そこで喜美奴が弥三郎が三年越しで思っていたことを知る。「喜美奴、何故黙っていた」「あんた、今さら」「やめた」

有馬温泉から戻った辰五郎は弥三郎に喜美奴を返すぜと言い放つ。「西川さん。あんたが三年越しの思いをかけた喜美奴だ。そんな女を女房にできるわけねえだろう」辰五郎に怒鳴る弥太郎。「貴様らの結婚は弥三郎は承知の上じゃ。文句を言う筋合いはないわい」「ある。西川さん、あんただけには俺の気持ちが。あああ、うまく言えねえや。まあいいや。女は確かに返したぜ」うちはどうなりますのや、と花嫁衣装姿で叫ぶ喜美奴。

辰五郎は車夫の銀二郎の家に居候して働くことになる。法律を勉強しながら車夫をする銀次郎は、辰五郎のように人生をまっすぐに歩く男と友達になれて嬉しいんだ、と言う。辰五郎の車に矢島竜雲と言う男が乗り、弥太郎の道場まで言ってくれと頼む。辰五郎は俺の車に乗ったらあんたは荷物だぜと矢島に言うが、矢島は辰五郎の金看板である「御荷物御乗り物」の幟をへし折る。

辰五郎は矢島にくってかかるが、矢島に投げ飛ばされて重傷を負う。弥太郎の道場に行った矢島は道場破りを行おうとするが、弥太郎に投げ飛ばされてしまう。考え込む矢島。(東京で嘉納治五郎に敗れ、大阪で光川弥太郎に敗れた。だがこのまま旗をまいて引っ込まぬぞ。俺は大阪を最後の死に場所と決めたのだ。手段は選ばぬ。必ずやってみせるぞ)

辰五郎を見舞いに来た喜美奴に、車夫はこんな無茶苦茶な人ばっかりなんでしょうか、と聞く銀二郎の母の梅乃。「男なんて一皮むいたらみんな無茶苦茶です。この人の無茶苦茶は自分に嘘がつけん、世の中全部に喧嘩売っとる。そんなイライラと違いまっしゃろか。ほんまこの人、さびしい人ですねん」銀二郎にお前が車夫をするのは反対だ、という梅乃。「学資稼ぎだったらほかになんぼでも」「お母さん」

幼馴染で芸者の玉竜にお母さんはダメだと言う銀二郎。「うちが元奉行所の同心いう身分が忘れられんのや。そんなもんが今時」「そうや。今はお金や。金色夜叉や」「僕はどうしても東京に出るんや。法律を勉強して弁護士になるんや」「うちは物すごい金満の旦那はん掴んだるんや。二号かて三号かてかまわんわ。十本の指全部にダイヤモンドの指輪はめたるわ」

辰五郎の怪我が完治し、弥三郎は川船に辰五郎を招いて全快祝いをする。ダイナマイトを川に仕掛けて魚を獲りまくる弥三郎は玉竜にダイヤモンドの指輪をプレゼントする。「辰。わいと玉竜はこういう仲なんや。あはははは」「親分。まだ指は九本残ってるわ」「あははは。辰、そういうわけや。わいと喜美奴は何にもあらへん。お前が俺に義理だてすることは何もない」「その話はやめてくれ。俺も男だ。男がいったんこうと」「やかましい。喜美奴と祝言のやり直しじゃ」

大阪西警察に行った矢島は弥三郎がダイナマイト漁を行ったのを見たと署長に訴え、あんな無法者は即刻逮捕しろ、と署長に迫る。「これは明らかに火薬所持法違反だ」辰五郎と喜美奴の祝言の最中に乗り込んだ署長は、弥三郎を逮捕すると言い渡す。「君のダイナマイト漁について訴人があったんだ」「今は婚礼の最中だ。話はこれが終わった後にしてくれ」ダイナマイト漁は俺の全快祝いでやったんだ、と怒鳴る辰五郎。「逮捕するなら俺を逮捕してくれ」

馬鹿者と一喝する弥太郎。「弥三郎。貴様も男なら責任は自分でとれ。貴様のダイナマイト漁はいっぺんに魚を根絶やしにして、付近の漁民がとんでもない迷惑をこうむることになるんじゃ」そこまで気が付かなかったと反省する弥三郎。「わしが悪かった。署長さん。お供させてもらいます」結婚式は続けてくれという弥三郎に、あんたが捕まってのんきに結婚式なんかできるかいと言う辰五郎。「結婚式なんていつだってできらあ」うちのほうから今日の婚礼はお断りや、と辰五郎に怒鳴る喜美奴。

弥三郎は半年間刑務所に行くことになる。柔術家と名をなすことをあきらめた矢島はこの機に乗じて、矢島組を結成し、西川一家の縄張荒らしに精を出す。矢島組のチンピラに暴行を受けて怪我した銀二郎を見舞う玉竜。「玉ちゃん、君、ほんまに親分の二号はんになるつもりか」「そのつもりや。そやけどうちがほんまに好きなんはあんたや」「……」「そやけど夢と現実は別や。うちは喜美奴姐さんの真似はせえへん」

「僕は辰さんや喜美奴姐さんの考えや行動には胸が打たれるよ。美しいよ」「銀二郎はん。絵に描いたお餅はなんぼ綺麗でも食べられへんわ。それを食べよう思うたらぺったんぺったん自分でつかにゃならんわ。もっともその程度のお餅やったらうちはイヤやけど」「……」「銀二郎はん。あんたの前に食べてもええ餅があるわ」「玉ちゃん」「勇気があったら、あげるわ」「玉ちゃん。好きや。誰にもやらへん」

大阪駅の面会室に辰五郎を呼び出した喜美奴は、玉竜が銀二郎の子を宿したと告げる。「二人は好きおうてたんや」「銀二郎の奴」「なあ、玉ちゃんはうちにとって妹同然。銀二郎はんはあんたにとって弟同然」「あの野郎。とんでもないことを」「好きな同士が一緒になるのは当然やと思うんや」「銀二郎は出世前の大事な身体だぜ。俺たちとはわけが違うんだぞ」「辰さん。二人はほんまに好きおうてるのや。好きおうてるのやで」「……」

東京から矢島の妹の鈴子が大阪にやってくる。なぜ大阪に来たと鈴子に聞く矢島。「新聞で兄さんが大阪で矢島組作ったという記事見て来たんです」「お前は学生だ。勉強していればいい」「これがお兄様の理想の姿でして」「お前はまだ子供だ。本当の社会というものがわからん」「私たち、たった二人の兄妹じゃないですか。御苦しみがあるならおっしゃって。柔術一筋のお兄様はどこに行ったのです」「鈴子。世の中は力だ。金だ。僕の新しいサイコロはもう投げられた」そこに矢島組の亀が弥三郎が出所してきたと矢島に告げる。お前は男になれるか、と亀に聞く矢島。

出所した弥三郎は辰五郎を呼び、まだ喜美奴と一緒になってないのかと怒る。「お前、喜美奴に惚れましたというたのは嘘か」「嘘じゃねえ。西川さん、男と女が惚れあったら必ず夫婦にならないといけねえのかい」「当たり前じゃ」「よし。そんなら話がある。表へ出てくれ」弥三郎を料理屋に連れ込む辰五郎。そこには銀二郎と玉竜と喜美奴が待っていた。銀二郎と玉竜が惚れあった男と女でしかも子供までできている、と弥三郎に説明する辰五郎と喜美奴。

ううう、とうめいた弥三郎はダイヤモンドの指輪はくれてやるわい、と玉竜に怒鳴る。「お前ら目障りじゃ。はよ大阪から出て行け」「そう思って、こいつら東京に追いやることにしました。汽車の切符も買ってます」「お前ら、ようもこのわいをはめてくれたな。この仇はきっととったるで。お前ら二人は何があっても祝言させたるさかいな」そこに銃声が響き、弾丸を胸にくらった銀二郎は即死する。

矢島組に殴り込みをかけると息巻く西川一家の若い衆を押さえる弥三郎。「今夜は銀二郎のお通夜じゃねえか」そこに現れる鈴子。「お詫びにまいりました。この方を撃ったのは兄の仲間の亀という人。その人は自首しましたが撃たしたのは兄です。二人が相談しているのを私は見たんです」

そんなことはわかっていると怒鳴る辰五郎。「銀二郎はてめえの兄貴とは何の関係もないカタギだぜ。車引いて勉強して東京の大学入るのが夢で。畜生。好きな女だっていたんだぜ」「兄を訴えてください」「訴えたぐらいでおっかさんや玉竜の腹が癒えるかい」

そこに矢島からの果たし状が届く。「四時半に雌雄を決したく、淀川伝法堤で待つ」仕度しろ、という弥三郎に、待ってください、と叫ぶ鈴子。「兄は法律で裁いてください」梅乃も果し合いに行かないでくださいと叫ぶ。「そんなことをしても銀二郎が生き返りますか。また銀二郎と同じ人がたくさんできるだけと違いますか」辰五郎はドスを抱えてこっそり裏口から出る。後を追う喜美奴。

「どこへ」「聞くだけ野暮だ。伝法堤よ」「一人でかい」「ああ。銀二郎の仇はほかの奴には討たせねえ。矢島と一騎打ちだ」あんたアホや、と辰五郎に抱きつく喜美奴。「あんたが死んだ時、うちも生きていまへん」「喜美奴。あの世でばったり会ったら、もう一度俺の車に乗ってくれるか」「御荷物でっか」「馬鹿。人間様だ」「あんた」「なあ。銀二郎のおっかあと力あわせて、みんな止めてくれ。頼んだぜ」

伝法堤で矢島と対峙する辰五郎。「お前ひとりか。西川君はどうした。臆病風か」「へへ。卑怯なピストルの闇討ちのお前らとは違うんだ。てめえなんかの相手なんか俺で沢山だ。一騎打ちできやがれ」「相手にとって不足だが、度胸だけは褒めてやる。来い」「へへ、てめえはバカか。柔術ならてめえが勝つに決まっている。ドスの勝負なら五分と五分だ。ドスできやがれ」「よし」「矢島。お前の妹に会ったぜ」「何」「お前を警察に訴えろと言ってたぜ。てめえにはもったいない妹だぜ」「くそう」

ドスで斬り合う二人。傷ついて倒れる矢島。そこに警官隊を引き連れた弥三郎たちが現われる。何故来たと矢島に聞かれ、本当のお兄様を取り戻しきました、と答える鈴子。署長に辰五郎の逮捕はちょっと待ってくれと頼んだ弥三郎は、辰五郎に渡会橋に行け、と命令する。「待ってる奴がある。走れ」渡会橋で喜美奴との祝言を無事に済ませた辰五郎は自首するぜ、と喜美奴に告げる。「じゃあ行ってくらあ」「ええ、待ってます」