風と女と旅鴉 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

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久しぶりに生まれ故郷の町に戻る二十三歳の風間の銀次は、刈田の仙太郎という年配のやくざと道中をともにするようになる。おいらの町は刈り入れ前にゼニを納めて年貢を安くするんだと言う銀次。「あれがそうだ。去年はあの千両箱がかっぱらわれたんだぜ」「へえ」「この街道筋には鬼鮫の半蔵ってわけのわからねえ遊び人がいてね。身内に盗人を飼ってるんだ」「鬼鮫の半蔵か。名前だけは聞いている」

金を運ぶ下っ引きの健太たちは、銀次と仙太郎を強盗と間違えて、金を置いて逃げ出してしまう。喜んで金を持って逃げようとする銀次に、道は違うんじゃないかという仙太郎。「久しぶりに帰る町の土産にちょうどいいんじゃねえか」仙太郎に追い立てられるように千両箱持って、町に向かう銀次。

健太たちは半蔵に襲われたと町に戻って報告し、猟師の源蔵は銀次を撃ってしまう。怒る仙太郎。「俺たちは金を町に持ってきたんだぞ」倒れた銀次を見て村から追い出された悪たれの銀次じゃないかと言う町人。「こいつ、追い出されて鬼鮫の半蔵の手先になっていたんだ」「だいぶ弱ってるだ。甚兵衛さんの家でも放り込んでおくがいい」

甚兵衛の家に担ぎ込まれる銀次。「押し込み強盗の息子の銀次だよ。半蔵の手先になっていやがった」「この野郎の親父のために町の奴がどんなに迷惑こうむったか」「銀次なら河原にでも捨てて、鴉の餌にすればいいんだ」「まあ、どうせ長くはもつめえ。しばらく預かってくんな」

仙太郎はお前が勝手に金捨てて逃げたんじゃないか、と健太を責める。「お前は十手持ちのくえに盗人と善人の区別がつかないのかい」「申し訳ありません」町一番の実力者である両替商の銭屋庄兵衛門は、お前はなんて間抜けなんだ、と健太を叱る。「千両はどうなった」「へえ。ちゃんとここにあります」

甚兵衛の家に行き、銀次の様子を甚兵衛の娘のおちかに聞く仙太郎。「さっきから眠ったきりですよ」銀次が自分の倅のような気がするとおちかに話す仙太郎に、その野郎の親父のことを知っているのか、と聞く甚兵衛。「もうだいぶ前のことだが、町の庄屋に強盗が入ってな。一家皆殺しにした事件があった。その強盗は同じ町内の男でな、女房と子供を置いて、町をずらかってしまったんだ。それがその銀次の親父さ。その野郎も結局とんでもない悪たれになっちまった」

銀次の体調は回復し、命の危険がなくなる。倅が生きていれば銀次くらいでした、とおちかに語る仙太郎。「乱暴な奴でしたが、親思いな奴でした」「その息子さん、どうして亡くなっちゃったの」「やくざな親父を見習いましてね、つまらない出入りに引っかかって。あいつが生きていりゃ、あっしもやくざの道から足を洗ったかもしれませんや」「で、おかみさんは」「せがれが死んでから三年ほど、あっしは事情があって家を留守にしたんだが、その間にかかあは男を作って逃げてしまいました」

おちかに俺のおふくろは町の連中にいじめられて身を投げて死んだと話す銀次。「畜生。親父が悪いからといって、おふくろや倅に何の罪があるんだい。泥棒呼ばわりして、おいらを町から追い出しやがったんだ。畜生、思い出しただけでも涙がでらあ」「あんた、どうして町に帰ってきたのさ」「てやんでえ。おふくろの墓参りに来たんじゃねえか。くそう、町の奴ら、おふくろを殺しやがって、おいらを鉄砲で殺そうとした」「そりゃ違うよ。あんたをそんなつもりで撃ったんじゃねえよ」「畜生。覚えていやがれ」母の墓に、おいら鉄砲で撃たれちゃったよと報告する銀次。

仙太郎に頼みたいことがあるという庄兵衛門。「鬼鮫の半蔵のことは知ってるだろう。毎年祭りのころになると博奕の金欲しさに悪さをするので、困っておる。この際、このうちにいて、用心棒になってくれんか」仙太郎は銀次も一緒に置いてくれないかと頼むが、銀次は堅苦しいことはまっぴらだ、と仙太郎の好意を無にする。

「兄貴、この町の奴らは俺のことを憎んでるんだぜ」「どうしてもっとすっぱりした考え方ができないんだ」「多分親の育て方が悪かったんでしょうよ」「銀次、この家の世話にならないか。俺にはお前が必要なんだよ」「兄貴。お前はまさか俺をカタギにしようってんじゃないだろうな」「……」「やめときな。あきらめたほうがいいぜ」「俺はお前さえそばにいてくれればいいんだよ」

銀次は庄兵衛門の下女をしているおゆきに一目ぼれして、おゆきにつきまとうようになる。庄兵衛門の店に半蔵の身内の寅吉と三次が現われ大暴れをする。仙太郎は三次を捕まえ、銀次は寅吉を追い詰めるが、寅吉に仲良くしようじゃねえか、と言われる。「ひところ、半蔵親分の下で同じ釜の飯を食った仲じゃねえか」「それがどうしたんだよ」「助けてくれよ。五両やるからよ」寅吉は逃がしちゃったよ、と仙太郎に言う銀次。「恐ろしく逃げ足の速い奴でよ。途中で鉄砲で撃たれた傷が痛んでどうしようもなかったよ」「まあ、怪我がなくてよかったよ」

二人きりになり、銀次に知ってるぜと言う三次。「何を」「人並み外れて足の速いお前が寅吉に遅れをとるとは聞こえねえぜ」「……」「おい、銀次。縄を解いてくれ。今さら用心棒面かい。お前はうちの半蔵親分にも手を焼かせたな。すいませんと一言謝ればいつだって半蔵一家に帰れるんだ」三次を殴る銀次。「今さらお前らの仲間になる銀次さんじゃないんだい」

銀次はおゆきに金をやるうとするが、いらないと断られる。三次を代官所に引き渡しに行ってくれと仙太郎に頼む庄兵衛門。「道中危険なことはわかってるが、銀次を連れて行くことは危ない気がするんだよ」「旦那は銀次と半蔵が馴れ合いとおっしゃるんですか」「いや、そうは言わないが、どうも寅吉を逃したいきさつが納得いかない。正直、私はあいつにこの家から出て行ってほしいんだよ」「わかりやした。三次はあっしが一人で代官所に送ります」

自分を連れて行かない仙太郎を唐変木と罵ってクサクサする銀次であったが、おゆきがやっと自分に好意を示すようになったので嬉しくなる。「おゆきちゃん。明日の祭り、一緒に行かないか」「でも。困るわ」「どうして。な、行こうよ。年に一度の祭りじゃないか」「だって、お会いしてまだ日が浅いし、まだわかんないわ。銀次さんがいい人か、悪い人か」

祭りの夜になり、銀次とともに楽しむおゆき。しかし子分を引き連れて祭りの現れた半蔵は、うちの子分がお世話になったなと庄兵衛門に挨拶し、銀次に庄兵衛門の用心棒になったそうだなと話しかける。「ははは、庄兵衛門さん、この用心棒は五両の金で寅吉を助けたんだ。銀次、三次はどこにふん縛られてるんだ。ここに連れてこい」「ふざけちゃいけないよ。三次は今朝がた代官所に送り込んだよ」「なんだと」二人はにらみ合うが、町人は半蔵と銀次は馴れ合いの芝居をしていると騒ぐ。そのころ寅吉たちは庄兵衛門の土蔵から千両奪っていた。

祭りは大騒ぎになり、甚兵衛は半蔵の子分に斬られて命を失う。そこに戻ってきた仙太郎に親しげに声をかける半蔵。「よう、仙太郎じゃないか。お前、いつ戻ってきたんだ」「半蔵。金は置いていってくれないか、あれは町人の命なんだ。島にいたときにゃ、汗水たらして働いたじゃねえか」「ははは。柄にもないことを言うじゃねえか」「頼む。半蔵。今日のところはこの俺の顔に免じて」「よし。凶状持ちの仁義で金は返してやる。明け六つの鐘を合図にこの先の一軒家で待っているから取りに来い。この場はお前に花を持たしてやる」金を奪って去っていく半蔵。あっしは島帰りです、と庄兵衛門に言う仙太郎。

明け六つ近くになり、行ってくれるね、と仙太郎に言う庄兵衛門。「私はあんたを信用してるよ」「ありがとうございます」「ところで、半蔵に会いに行くのはお前ひとりのほうがよくはないかな。妙な者がついていくと話がこじれる」いたたまれなくなって座敷を飛び出す銀次。銀次のことはあっしにまかしてくれと頼む仙太郎。

おゆきにこんな町とはおさらばだと言う銀次。「おゆきちゃん。俺と一緒に旅に出ないか。旅はいいぜ」「あんた、泥棒の手下になったのね。たった五両の金で。いつかくれようとした金がそうだったのね」「おゆきちゃん」「みんな、あんたを憎んでるわ」「しかし、お前だけは」「私も憎むわ」「どうして俺だけ爪はじきしやがるんだ。畜生」

銀次は寅吉から五両もらって逃がした時からもう半蔵の子分に戻ったんだ、と仙太郎に言う。「銀次、お前は気が立っているんだ」「兄貴。お前は俺がそんなに可愛いのか」「……」「そうじゃあるめえ、お前は死んだ倅が可愛いんだ。いつかおちかに話してたじゃねえか。俺はお前の倅の代わりは務まらねえんだ」「……」「兄貴、あの千両箱はこの町の奴らには渡さねえぞ」「お前、生まれた町を売るつもりか。それじゃ死んだおふくろが墓の中で泣きを見るんじゃないのか」「生まれた町か。いいか、あの千両箱は絶対に町の奴らに渡しはしないぞ」

明け六つ前に半蔵のところに行き、千両箱は絶対に誰にも渡さないと言う銀次。そして現れた仙太郎に対し、銀次は仙太郎は俺に任してくれと半蔵に言い、仙太郎に飛びかかる。二人は激しく殴り合うが、寅吉の放った銃弾が仙太郎の脇をかすめる。半蔵に仙太郎のことは俺一人に任してくれと言ったはずだとつっかかる銀次。約束通り千両箱はもらっていくぜと言う仙太郎に、そうはさせるかと答える半蔵。気が変わったぜ、と呟く銀次。「やっぱり兄貴は見殺しにできないよ」銀次の凄まじい剣は半蔵一家を全員地獄送りにする。

帰ろうか、という仙太郎に、嫌だよ、という銀次。「今さら大好きな町に帰れますか」「待ってるんじゃないのか。おゆきさんが」「思い出させないでくださいよ。兄貴。俺はあの娘が嫌いなんだ。俺は旅が一番あってるんだ。女は足手まといだぜ」「これから先どこに行くんだ」「わからねえ。風の向くまま、気の向くまま。一人旅は気楽だぜ」「銀次」「じゃあ、俺は行くぜ。兄貴、達者でな。あばよ」