作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(613)」 | ロロモ文庫

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父と子(後)

説明するチヨ。「この子供用の食器ですが、これは士郎さんが3歳の時、先生が士郎さんのために作った器です。先生はそこらで売っている子供用の器は程度が低い。そんな器を使われたら美的感覚が養えないと仰って、士郎さんのために何種類もの器をお作ちになったんです」「え、山岡さんのために何種類も」

「そしてこの献立です。士郎さんは匂いがダメで、5歳くらいまで玉子と牛肉が食べられなかったんです。それを心配された先生はいろいろ考えて、献立を考えた。嫌いなものを食べさせようとすると、普通、そのものの味を隠したり、他のものの味を加えてごまかそうとする。だが先生はその逆をいかれたんです。そのものの味を残らず引き出し、素晴らしさに目覚めさせる方法を取ったのです」「なるほど」

「まず具のまったく入ってない茶碗蒸し。先生は出汁だけで玉子のうまさを引き出す自信があった。そしてだし巻き玉子の田楽。ヘタをしたら玉子嫌いをますます玉子嫌いにしますが、上手に作れば玉子の旨みを十全に引き出せる」「山岡、お前、まだ玉子が嫌いなのか」「大好きに決まってるだろ」「海原雄山のおかげだな」「ぬう」

「サラダと菜の花のおひたしは舌の感覚を新鮮にするため。そしてサンチョイパオは気分を盛り上げるため。レタスの葉で包んで食べるのは子供はみんな好きなもの。そして牛肉どんぶり。こうして食べると牛肉の香りが、味噌の香り、ご飯の香り、海苔の香りと混ざりあって、牛肉ならではの美味しさを作り出すわ」「山岡、お前、まだ牛肉が嫌いなのか」「大好きに決まってるだろ」「海原雄山のおかげだな」「ぬう。こんな食器と献立だけで全て語れない。俺と雄山と俺の母親の間にはもっと深い事情がある。俺の母親は雄山にいたぶり殺されたんだ」「まあ待て。私も食べてもらいたいものがある。明日、私の家に集まってくれ」

玉子焼きを二つ食べてくれという栗田の伯父の沢野。「両方とも甘い玉子焼きだわ」「こっとは甘いだけだが、酒が入ってる。大人の味だ」「山岡、お前は海原雄山に対して非常に敵対的だ。私の父は昔の典型的な日本人の亭主で、私の母にわがまま一杯振舞った。私の目には父が暴君で、母を虐げているように見えた。ある日母は2種類の玉子焼きを食べてみろと言った。酒入りは父のためのものだ。子供の私には酒の匂いが強すぎて口に合わなかった。それを見て、母は言った。これが夫も息子の違いなの、と。男女の関係は当事者以外に理解できない要素がたくさんある。私は二つの玉子焼きの味の差で母の言葉の深みを理解できた。母は子供を愛するのは違う次元として夫を愛するのだ。わかったか、山岡」「ぬう、台所を使うぞ」

二つのだし巻き玉子の田楽を作る山岡。「これだよ。先生が作られただし巻き玉子の田楽の味は。昨日、私が作ったものは似て非なるものだった」「この田楽味噌の甘味は砂糖でなく、蜂蜜でつけるんだ」「じゃあ先生は士郎さんの体に少しでもよいものと思って」「お、もう一方のだし巻き玉子の味は」「お酒の味ね」「今いただいた伯父さんの玉子焼きを参考にした。こっちの甘味は砂糖でつけ酒を加えた」

これが俺の答えだと言う山岡。「俺は両親に与えられた子供の味にいつまでもとどまらないぞ。両親の味に縛られずに自分の味を作る。俺は雄山を許さんが、雄山の束縛にとらえられ続けるのは愚かだ。俺は生まれて来る子供と良い関係を作ってやる」「山岡さん」栗田は山岡の胸に飛び込むのであった。