可愛い悪魔 | ロロモ文庫

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教会で結婚式をあげる浩二と冬子。ウェディングベールが欲しいと冬子にねだる浩二の姉の圭子の娘のありす。「結婚式が終わったら、私にちょうだい」「ありすも大きくなったらもっと素敵なベールがかぶれるわよ」「ううん。おばさまのベールがいいわ」「これはあげられないの」「どうして?」「今日の記念に死ぬまで大切にとっておきたいの」「じゃあ、おばさまが死んだら、あたしがもらっていいのね」「そうね。いいわよ」お化粧直しに教会の二階に上がる冬子。死んじゃえと呟くありす。二階の窓を破って転落して死ぬ冬子。

ウィーンにピアノを勉強するために留学している冬子の妹の涼子は恋人のヨハンに別れると言われてしまう。死んじゃえと呟く涼子。冬子と同時刻に車に轢かれて死ぬヨハン。精神に異常をきたし、日本の精神病院で3年間の闘病生活を送る羽目になる涼子。

医師の塚原に涼子は退院していいのかと聞く浩二。「彼女は自分の言葉が恋人の死の原因だと錯覚し、それが罪悪感となって一時的な錯乱状態となっただけなんだよ。その罪悪感もなくなったから、もう大丈夫だろう。ただ姉さんと恋人を失った傷から立ち直るには、もう少し時間が必要だろう」「わかりました。僕が面倒見ます」

本当に圭子の家に行っていいのかしらと言う涼子に気にしなくていいと言う浩二。「住み込みの家庭教師だって思えばいい。旦那さんが死んで以来、姉さんとありすがずっと二人きりだから。それに僕は涼ちゃんを本当の妹だと思ってる。気にしなくていいさ」「ありす、大きくなった?」「ああ。今は8歳だ」「姉さんの手紙に入っていた写真しか見たことがないから」

涼子にベールを取りに来たのと聞くありす。「ベールって?」「冬子おばさんのベールよ」「あれ、ありすが持ってるの?」「あたし、とっても大事にしてるのよ」「いいわよ。持ってても。お姉さんの形見だから大事にしてね」ステキな家ねと言う涼子に自分の家のつもりで住んでと言う浩二。「浩二さんにこんなによくしてもらって」「僕の方こそ涼ちゃんにすまないと思っている」

夜中にうなされる涼子にどうしたのと聞く圭子。「姉さんのベールが顔に」「ありすのいたずらだわ。しょうがない子ね」瀬川先生のオルゴール人形が絶対欲しいと涼子に言うありす。「クラスで一番歌のうまい子がもらえるの」「ところで、昨夜ベールでいたずらした?」「何のこと?」ベールのことが気になると言う涼子に何のことと聞く圭子。「ほら。昨夜、ありすがいたずらしたって」「おかしいわね。私、昨夜はぐっすり眠ってたのよ。夢でも見たんじゃないの」「夢?」浩二に電話する圭子。「涼子さん、ベールが顔を覆ったとかおかしなことを言うのよ。あの人、ほんとに病気は治ってるの?」

真夜中、庭を歩く花嫁姿の女が歩くのを見かける涼子。「姉さん?姉さんなの」庭に出る涼子にどうしたのと聞く圭子。「今、姉さんがウェディングドレスを着て」「私は何も見なかったわ」「何も?」「また悪い夢でも見たんじゃないの」涼子はおかしいと浩二に言う圭子。「ねえ。一度塚原先生に相談してみたら?夜中に冬子さんを見たって言うのよ」「冬子を?」「このうちは涼子さんにあわないんじゃない?」「とにかく塚原先生に相談してみるよ」瀬川先生は人形をくれないと涼子に言うありす。「あたしよりもっとうまい子がいると言うの」「しょうがないわよ。今度頑張ればもっといいものがもらえるかも」「いや。あの人形でなくちゃ」「ありす」「あれはあたしのものなんだから」

人形は欲しいからピアノの練習なんかしないと言うありすを折檻する圭子。「お前という子は。いい加減にしなさい」「ママ。やめて」圭子にやめてくださいと言う涼子。「酔ってらっしゃるんですか?」「酔ってなんかいないわ」「子供に当たるのはよくないわ」「何もわかってないくせに。冬子さんみたいになりたくなかったら、この家を出て行くことね。大体、私は反対だったのよ。それを浩二がまだ心配だと言うから」「姉さんみたいになりたくなかったらって、どういうことですか。姉さんは事故で死んだんじゃないんですか」

これから河原で撮影会があると涼子に言うありす。「撮影会の終わりに瀬川先生、あの人形をあげる人を発表するんだって。バカみたい」「だめよ。先生をそんなふうに言っちゃ」「死んじゃえ」「え」「じゃあ、行ってきます」瀬川が吊り橋から落ちたと聞いて、ありすを迎えに行く涼子。「先生はどうなったの?」「まだ見つかってないわ。でもきっと死んでるわ」怖かったでしょうと言う圭子にこわくないわと言うありす。「溺れたのは私じゃないもの。瀬川先生、バチが当たったのよ。人形をあたしにくれなかったから」

瀬川の死体を引き上げた消防団員に人形があったかと聞く涼子。「人形?そんなものないよ」涼子に話しかける青年。「僕、知ってるよ」「え」「君はあの子のおかあさんだろ。ずいぶん若くてきれいだね」「……」「話があるんだ。僕のボートハウスに来ない?」「そばによらないで」

刑事の質問を受けるありす。「君は瀬川先生が落ちるところを見なかったんだね」「見なかったわ」「君が先生を橋の方に連れてったと聞いたんだがね」「そうよ。佐々木さんが川の方に行ったと教えてあげたの。それで二人で探しに行ったの」「それからどうしたの?」「川のそばまで行ったら、先生が危ないから戻りなさいって言ったの」「それから」「ドボンと言う大きな音がしたから、怖くなってみんなを呼びに行ったの」「じゃ、本当に先生が落ちるのを見てないんだな」「はい」「ありす君。君は一つ嘘をついたな」「ウソ?」「その佐々木って子は川の方に行ってないと言ってるんだ。どうして先生に嘘をついたんだ」「じゃあ、あたしの勘違いだわ。あたし、刑務所に入るの?」「大丈夫だよ。勘違いくらいじゃ罪にはならんよ」

瀬川先生の死に不審な点があるんですかと言う圭子に、瀬川の頭に金属でつけたような傷痕があると言う刑事。「そのへんが気になったもんですから。多分落ちた拍子に川底の岩にでも頭をぶつけたんでしょう。その辺の事情をお嬢さんにお聞きしようと思ったんですが。どうやら無駄足でした。失礼します」

呟く涼子。(ありすは死んじゃえと言った。金属でつけたような傷。あの日、ありすは金具のはいった靴をはいていた。まさか)靴が下駄箱にないと騒ぐ涼子に、塚原先生が3人で食事したいと言ってると話す浩二。「どうして塚原先生と」「それは。ありす、向こうに行ってくれないか」「いや。ありす、おじさんと遊びたい」「浩二さん、私、頭痛いの。ありすと一緒に遊んでて」ありすの部屋で靴を探す涼子に、あたしの部屋で何をしてるのと聞くありす。「姉さんのベールが急に見たくなって」「やっぱり、先生、取りに来たのね。ベールは私のものなんだから。冬子おばさんと約束したんだから」「どんな約束をしたの?」「死んだら私にくれるって」「いつ約束したの?」「落ちた日よ」「ありす。あなた姉さんに何したの」「ベールをもらっただけよ。先生」

呟く涼子。(姉さんは教会の二階から過って落ちて死んだって話だけど、二階から落ちたくらいで死ぬかしら。ありすが突き落とした。私、頭がおかしくなったのかしら)ボートハウスに行き、青年と会う涼子。「あなたは何を知ってるの」「あの日、ボートの上で寝っ転がってたんだ。そしたら、あの子が川で靴を洗って、人形を大事そうにカバンから出して頬ずりしたたんだ。最初は意味がわからなかったけど、あとでみんなが騒いでわかったんだ」「……」「あの子、よっぽどあの人形が欲しかったんだな」「どうして警察に言わなかったの」「僕は警察は嫌いだ。それにあんたが好きになったしね」「何をするの」「そんなに怒るなよ」「帰るわ」

庭に埋めた靴や洋服タンスに隠した人形がなくなっていることを知るありす。「きっと先生だわ。先生が盗んだのよ」きゃあと叫ぶ涼子にどうしたのと聞く圭子。「私、殺される。洋服タンスの中から羽ペンが飛んできて。私の部屋に来て」羽ペンなんかないわと呟く圭子におかしいわと言う涼子。「ここに突き刺さったのに」「涼子さん。お疲れじゃないの」「……」

子供が物が欲しいと言う理由で人を殺すことがありえるかと塚原に聞く涼子。「どうしてそんなことを僕に聞くんだ」「そういうのは病気なんでしょうか」「子供が大人を殺すと言うのは」「病的な所有欲がある場合はどうなんでしょうか」「そういう子供はいるが、それが殺人につながるとは我々の常識では考えられない」「実際にあるんです」「君は誰のことを言いたいんだ」「ありすなんです。ありすが姉を殺し、私も殺されかけたんです」「……」「本当なんです。私、もう頭がおかしくありません」「わかったよ。君はもう治ってる」

ありすが庭に靴を埋めてるのを見て、靴を掘り返したと涼子に言う青年。「それをあの子に言って、警察に持っていったら電気椅子送りだって言ったら、あの子、脅えていたぜ」「ねえ。その靴が欲しいの」「もう一度、僕のボートハウスに来たら、あげてもいいわ」「わかったわ。その代わり条件があるの」録音機を青年に渡す涼子。

公園にありすを誘い出す青年。「靴を本当に返してくれるの」「ああ。どうしてそんなに靴がほしいの」「気に入ってるからよ」「嘘つけ。ホントは靴の底に血がついてるからだろ。靴で先生を殴って、溺れさせたからだろ」「おじさんは泥棒の上にひどい嘘つきだわ」「本当のことを言ったら返してやるよ。君は前にベールが欲しくて、花嫁さんを突き落としたことがあるだろ」「どうして知ってるの?」「僕の目は神様の目なのさ」「ねえ、靴はどこにあるの」「連れてってやるよ。おいで」浩二にありすは人殺しなのと訴える涼子。「証拠を見せるわ。一緒に来て」

ボートハウスにありすを連れ込む青年。「ねえ、靴はどこにあるの」「その前にこれをなめてみて」「何これ」「お砂糖。これをなめるととてもいい夢が見れるんだ」「本当?」「ちょっと待ってて。すぐ戻るから」ボートハウスを出て、録音機の中のテープがちゃんと録音されているか確認する青年。その間にハウスの天井に靴が吊り下げられているのを確認し、部屋の中にガソリンをまくありす。「おい、何をやってるんだよ」青年をハウスの中に閉じ込め、マッチの火をつけるありす。「死んじゃえ」

燃え上がるボートハウスを見て驚く涼子と浩二。「ありす。どこにいるの。あなたが何をやったかわかってる。でもあなたは悪くない。あなたは病気なのよ」青年は死んだと言う浩二に私が悪いのと言う浩二。「あたしがありすを追い詰めたの」「しっかりしろよ。ありすなんていないよ」「テープがあるはずよ。靴も」「テープってこれかい」「え」「この録音機が川のそばで落ちていた」「これよ。きっとこのテープに。でもこれだけ焼けてしまったら、もうダメかしら」

ありすが姉と先生と青年を殺したと浩二に言う涼子。「ありすは病気なんだわ」「でも警察は事故だと判断している。あの火事だって過失と断定した。あの男は札付きのジャンキーで、薬でトリップしてガソリン缶を倒したと見ている」「ちゃんと調べないからよ。子供が人を殺すなんて信じられないから」「しかし、人形やベールが欲しいから人を殺すなんて」「圭子さんはどう思うの?」「ありすはまだ8歳よ」「……」「涼ちゃん。君は疲れてる。ゆっくり休んだ方がいい」「浩二さん。私の頭がおかしいと思ってるでしょう」「……」「私はおかしくないの。ありすが病気なのよ。私を信じて」「わかったよ。このテープ、完全に焼けてないみたいだ。僕の友人に録音関係の者がいるから、これから再生できるかどうか、今から頼んでみるよ。それでいいかい」「ありがとう」

人形を持って、海の中にありすを引きずりこもうとする圭子に何をするのと叫ぶ涼子。「あなたの言う通りなの。この子は人殺しなの」「ママ。やめて。助けて」「もうこれ以上、この子に人殺しはさせないわ。この子を殺して、私も」「やめて」「……」「ありすはまだ子供なのよ」「ありす。ごめんなさい」「ママが盗んだのね。先生が盗んだと思ったの。これは私のものよ。ママのバカ」「あの時、死んでればよかった。パパが自殺した時に一緒に」人形を岩にぶつけて粉々にする圭子。「ママのバカ」「ありす」

家に戻る涼子と圭子。「冬子さんが殺されたのはベールのせいばかりじゃないの。ありすが浩二を愛したから誰にも渡したくなかったのよ」「ありすが浩二さんを愛してる?」「女が男を愛するように愛しているのよ」「まさか」「多分、主人の自殺に関係があると思うの。あの子が四つの時だったわ。あの人が家で首を吊って、それをありすが見つけて。いまだにどうして自殺したのかわからない。すごく幸せだったのに」「……」「パパに捨てられたと思ったのね。だから浩二にすがるようになって。物に対する異常な執着を示すようになったのはそのころからよ」「何か失うのが怖かったんだわ。私にはわかります」

浩二をあの子から奪おうとする人はみんな殺されると言う圭子。「だからあなたのことが心配だったのよ。浩二があなたのことを好きなのがわかったから。ベールであなたを脅したり、ウェディングドレスでショックを与えたり、あなたがこのうちから出て行くように仕向けたの。涼子さん、あなたはこのうちを出て浩二と一緒になりなさい」「ありすはどうなさるの」「なんとかしなきゃね」「あの子は善悪の区別がつかないの。病気なんだわ」「塚原先生に預けようかしら」「ありすを見てきます」

浩二からの電話に出ようとする圭子に二階から空のガラスの花瓶を落とすありす。すっぽり圭子の頭にはまる花瓶。窒息状態になり、のたうち回って岩で頭をぶつけて血まみれになって死ぬ圭子。「ありす」「今度は先生の番よ」様々な罠を仕掛けて、涼子を殺そうとするありす。「ありす。やめて」「先生のツキはもう終わりね」そこに駆け付ける浩二。安堵のあまり気を失う涼子。

大丈夫かと涼子に聞く浩二。「電話に誰も出ないんで、心配になって駆け付けたんだ」「浩二さん」「もう大丈夫だよ。涼ちゃん」「ありすは」「病院にいるよ」「塚原先生の?」「そうだよ」「私、浩二さんのおかげで助かったわ。もう少しで圭子さんみたいに殺されることだった」「そうだね。涼ちゃん、君は」「心配しないで。ありすは病気なのよ。塚原先生が治してくれるわ」「そうだね」「テープは?」「ほとんど再生できなかった」「え」

浩二に声をかける塚原。「もう時間だよ」「涼ちゃん。また来るからね。何も考えないでゆっくり休んだ方がいいよ」病室を出る浩二。ドアを閉める塚原。自分がいるのがかつて入院していた部屋だと気づく涼子。浩二に抱きつくありす。「何を考えているんだい、ありす」「今、面白い遊びを考えてるとこなの」

呟く涼子。(結局、私の言葉は誰にも信用されなかった。8歳の子供が殺人鬼などと誰も考えるわけがなかったのだ。私は一生ここに幽閉されるかもしれない。けれども私の心は平和だ。この牢獄のような部屋が私によく似合う。ヨハンが死んだ時に私も同じように死んでいたのだ。私はヨハンの愛がほしくて、ヨハンを殺してしまった。ありすも愛への憧れと渇きから数々の殺人を犯してしまったのだろう。人が人を愛しすぎた時、人が人を死に追いやってしまうこともあるのだ。ありさのことを人は可愛い悪魔と呼ぶのだろうか)