作:雁屋哲、画:花咲アキラ「美味しんぼ(505)」 | ロロモ文庫

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恋のキリタンポ(後)

比内地鶏は天然記念物に指定されているから食べられないと言う阿部。「天然記念物に指定される以前なら食べるのも問題なかったんですが」「じゃあここにいる鶏は?」「純粋の比内地鶏ではありません。一代雑種です。比内地鶏の原種にロードアイランドレッドを交配したものです。雑種とは言っても、しっかり保存育成している原種に対する一代限りの雑種ですから、比内地鶏の原種の良さは保たれています」「でも雑種は雑種。比内地鶏の原種ではないから、本物のキリタンポ鍋は食べられないのか」「まあ」

比内地鶏について説明する阿部。「比内地鶏は縄文時代から比内地方に存在した地鶏で、改良が最も遅れていて夜鶏に近いものです。日本の地鶏の祖先は東南アジア産の毛の赤い野鶏ということになっている。それに平安時代に中国から渡ってきた小国鶏、江戸時代に中国から来た唐丸、タイから来たシャモなどが交配しあって、日本の地鶏は出来上がったと言われている。その比内地鶏が結局、純粋な日本地鶏であると認められ、国の天然記念物に指定されることになったんです」「どんな飼育をしてるんだ」

「鶏舎の広さはたっぷりとって、明るく風通しもよくしています。出荷はブロイラーより3か月長くかけて出荷するから、エサもブロイラーの5倍必要です。鶏舎の後ろは開放し、休耕田を利用した放し飼いにし、地中の虫やバッタ、雑草を食べています。とにかく自然に近い形を取るようにしてますので、味は保証します」「それでも原種の比内地鶏の方が美味しいんですか」「そういう人もいます」「とにかくここの鶏を使ったキリタンポ鍋を食おう。阿部さん、昔通りのキリタンポ鍋を食べさせる店はあるのか」「そういう店に私は鶏をおろしています」「ぬう」

まず阿部が育てた鶏を焼いたものを食う山岡たち。「おう」「まあ」「ぬう」「ぎゅっと噛むと肉汁があふれる」「炭火で焼いてある肉の香りが香ばしいわ」「炭火と塩だけで余計な味付けをしていない」「旨味の要素に欠けるところがなく、味のつり合いが取れている」「美味しさは香りが決め手というけれど本当だわ」「いよいよ昔ながらのキリタンポ鍋だ」

「きれいねえ。狐色に焦げ目のついた白い肌のキリタンポ。それにセリの鮮やかな緑色が引き立っている」「米のいい香りがするな」「それが焦げて香ばしい香りがする」「もっちりした歯ざわりだけど、お餅のように粘りつかない。これが本当のキリタンポなのね」「いい米を使ってる。それを良質の備長炭で焼いている。もう一つ大事なことは焼いたらすぐに食べること。一日置いたら味が抜ける」「これじゃ美味しいキリタンポは簡単に食べられないな」

「この汁のうまいこと。比内地鶏のダシは実に芳醇だ。長ネギもゴボウもセリも東京では手に入らない味と香りだ」「秋田の大地の味の交響曲がこのキリタンポ鍋というわけか。貴子さん、どうです」「これは亡くなった主人が私に食べさせたいと言ったキリタンポ鍋の味とは違うと思います」「やっぱり」「でも、それでいいんです。これが今の本物のキリタンポ鍋の味なんです。これでふっきれました。誠さんとキリタンポ鍋を食べても亡くなった主人は許してくれると思います」「やったぜ、山岡」「ぬう」