男はつらいよ 花も嵐も寅次郎 | ロロモ文庫

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別府でテキヤ稼業をする車寅次郎は温泉宿で主人の勝三と酒を楽しむ。そこに現れた三郎は勝三に僕のおふくろがここで女中さんをやってたらしいんですと聞く。「覚えてられますか」「おふみさん。あんた、おふみさんの子供じゃろ」「ええ」「どっかで見た顔だと思うた」「覚えていてくれたんですか」「忘れるもんか。おふみさんのことならよう覚えとる。美人でな」

こんなシケた旅館にそんな美人がいたのかと言う寅次郎に、おふみがいなくなってこの旅館は傾いてきたと言う勝三。「それで元気にしてるか、おふみさん」「それが悪い病気にかかりまして、先月のはじめにとうとう」

三年前におふくろと東京に出たと寅次郎に話す三郎。「じゃあ、あんたのおふくろは東京の病院であんたと親父さんに看取られて」「いえ、親父とはずいぶん前に別れましたから」やっぱりあの男と別れたかと言う勝三に、親父を知ってるんですかと聞く三郎。「ああ、ここの客じゃったからな。わしはあの結婚に反対したんじゃ」「……」「あんたのお父さんだったな。そうか、おふみさんは死んだか」

おふくろはこの温泉のことをとても懐かしがっていたと言う三郎。「そやからおふくろの骨を埋める前に、回り道しよう思うて」「それじゃ、あんたはおふみさんの遺骨と一緒に」どうだいと勝三に言う寅次郎。「そんなに幸薄い人だったら坊主を呼んでちゃんと供養してやったら」「そうだな」「そして美人の女中さんに因縁があった奴は全部集めろ。それから料理がいるな」

こうして盛大におふみの供養が行われる。旅館に泊まっている螢子とゆかりにお姉さんたちはどこから来たと言う寅次郎。「東京です」「観光旅行か」「はい、休みを取って」「お楽しみのところだけど、あの青年の亡くなったおふくろの供養をしてるんだ。お焼香のひとつもしてやってください」

私たちはデパートで働いていると寅次郎に言う螢子。「そうかい、あんたたちも大変だなあ。いつも立ちっぱなしで。それにあれ見たりこれ見たりなかなか決まらない客に、ねえ、おばさん、いい加減にしてくれない、あんた、何着たって似合わないんだからとも言えないしな」「本当ですね」「恋人はいねえのか」「ゆかりにはいる」「ねえちゃんは」「私はもてないもん」

またそんなことを言ってと笑うゆかり。「結構ファンがいるのよ。理想が高いのよ。私なんかと違って」「理想なんかないわ。好きになった人が理想なの」「だからそれが理想が高いって言うの」理想って何だとゆかりに聞く寅次郎。「だからお金持ちで背が高くてハンサムで」「ははは。俺はダメだ。全然あてはまらないや」

遺骨を寺に納めた三郎は螢子を見かけて、車に乗りませんかと誘う。「いいところまで送りますよ」「本当?ゆかり、昨日の人よ」「あら、こんなところで会うなんて。乗せてもらっていいの?」「どうぞ」「寅さん。昨夜の人よ。乗せてくれるって」「おお。親孝行な青年。良かった、良かった。もう娘たちと歩いたから疲れちゃって」車でサファリランドに行く四人。「寅さん。虎よ」「おお、虎だ」

大分空港行きフェリーに乗る螢子とゆかりを見送りに行く寅次郎と三郎。「じゃあ、元気でな」「さようなら」東京に帰ったら柴又に行くと寅次郎に言う螢子。「そうだな。早く乗れ」「じゃあ」突如叫ぶ三郎。「螢子さん」「はい」「僕とつきおうてくれませんか」「急にそんなこと言われても。さよなら」

あーあと言う三郎にあれが惚れた相手に言うせりふかと笑う寅次郎。「わしとつきおうてください。それじゃまるでチンピラの押し売りだよ」「じゃあどう言えばいいんですか」「すっとそばに寄るだろ。お嬢さん、東京に帰ったら、もういっぺん顔が見たいな、僕。こう言えばいいじゃないか」「ああ。そんな風に言うんですか」「そうだな。まあ、せいぜい苦労しな。あばよ」「寅さん。僕にいろいろ教えてくれませんか」

よろよろしながら葛飾柴又の団子屋「とらや」に入ってくる寅次郎を見て、どうしたのと言う妹のさくら。「まいったよ。何せ大分県から車に乗りっぱなしで、飲まず食わずで。おい、運転手、入ってこい」失礼しますととらやに入ってくる三郎。なぜ飲まず食わずなんだと寅次郎に聞く竜造。「いや、俺はこいつが金を持ってると踏んだんだ。だからあちこち楽しく見物して帰れると思ったら、ガソリン代しか残ってないと言うだろ」

俺は三郎が金持ちの息子と勘違いしたと言う寅次郎。「だって様子がいいし、車を持ってるんだもん」車は友達から借りたと言う三郎。「僕は寅さんが金持ちだと思ったんです。お金に困っているような顔はしてないし。仕事は何かと聞いたら、遊び人よと言うんで、これは親の遺産か何かでブラブラ遊んでいる人やないかと」お前も人を見る目がないなと笑う寅次郎にそうですねと言うさくらの夫の博。

あんたは本当にえらいと三郎に言うつね。「お母さんのお骨を車に乗せて、お母さんの生前行きたかった所に行き、それで大分で法事までするなんて」「そんなんじゃないんです。おふくろが入院した時、赤ん坊が生まれましてね。そっちの方が忙しかったもんで、あまり看病できなかったんで」「あら、赤ちゃんが」「ええ、難産でした」「お子さんがいるの、あなた。お若いのにねえ」「あ、僕の子供じゃないんです。チンパンジーの子供です」なんだと笑うさくらにどういうことなんだと聞く博。「三郎さんは動物園で働いているの」「へえ」

寅次郎とさくらと御主人はどうして一緒になったんですかと聞く三郎。「一目ぼれだよ。こいつがぼーっとなっちゃって。なあ、博」「そんな」羨ましいなあと言う三郎にお前も頑張れと言う寅次郎。「こんな不器用な男でも一目ぼれの女と苦心の結果、明るい家庭を築いているんだから。そこへ行くと、お前はまあまあの面、してるだから。自信を持てよ」何の話ですかと聞く博に、三郎には惚れた女がいると言う寅次郎。「旅先で知り合った女でな」「寅さん、やめてください。あ、僕は帰らないと。友達に車を返さないといけないし。じゃあ失礼します」「なんだい。これから話は面白くなると言うのによ」

とらやを尋ねる螢子。「先日、大分で寅さんにとてもお世話になって」「そういえば娘さんたちと車に乗ったとか」「じゃあ、寅さんは帰ってきてるんですか」「ええ。三郎さんと言う人の車で三日前に」「それで、寅さんは今どこに」「昨日までは体が痛いって寝てたんですけど、今日は商売に」「そうですか。大分でできた写真をお届けしようと思って」「わざわざすいません」「会いたいな、寅さんに」「また、いらっしゃいよ」「それじゃあ」賢そうな人ねとさくらに言うつね。いよいよ本命登場かと呟く社長。「えらいことだぞ、こりゃあ」

寅次郎と行きつけのバーで会う螢子。「寅さん、久しぶり。ゆかりも会いたがってたけど、今日は彼氏とデートなの」「三郎青年もあんたに会いたがってたよ」「車で一緒に帰ったんでしょう。あの人、どういう人?」「まあ変わり者だろうな」「そうね。急にあんなことを言うんだから」

三郎はあんたに惚れていると言う寅次郎。「ちょっと付き合ってみるか」「……」「いや、大丈夫。あいつはいきなり襲ったりはしないから。それは俺が保障する。他に何も取り柄がないけど」断るわと言う螢子にどうしてと聞く寅次郎。「だって、あんまり二枚目だもん」「そう言うもんかな」「わかるでしょ。そういう気持ち」「うむ」「寅さん、そんなことを言いにわざわざ来たの」「いや、俺は螢子ちゃんと飲みたいと思って来たんだ」「じゃあ飲もう」

とらやに来た三郎に寅次郎はここで待つようにと言ったのかと聞くつね。「ええ、ちょっとお願い事したもんですから」「あの男で役に立つのかね」酩酊して戻ってきた寅次郎にどうでしたかと聞く三郎。「断られました」「……」「あきらめなよ。気の毒だけど」「理由は何ですか」「お前があんまり二枚目だから」「寅さん。男は顔ですか」「そうじゃないの」「そんなバカな。寅さんは恋をしたことがありますか」

「おい。お前は誰に聞いているんだ。俺から恋を取ってしまったら何が残るんだ」「寅さんに頼んだのが間違いでした。さよなら」「そうだよ。初めから自分で口説けばよかったんだよ」「それができないから頼んだんじゃないですか。寅さんのように気楽に女の人の前で話ができるんやったら、何も頼んだりは」

再びとらやに三郎を呼ぶ寅次郎。「この間の晩はすみませんでした。今日もまた僕のために」「そうよ。あんまりシケた面するから何とかしなきゃと思って。螢子ちゃん、もうすぐ来るんじゃないかな」「電話ではよくわからなかったんですけど。螢子さんは僕とつきあうてくれるんですね」「そんなことは言ってないよ」「え」

螢子にはあなたがここに来ることは言ってないそうよと三郎に言うさくら。お前はこの店に偶然来たことにすると三郎に言う寅次郎。早い話がだまし討ちのお見合いねと言うつね。それから俺たちがうまくやると言う寅次郎。「それから頃合いを見て、若い二人は江戸川にお散歩に。そのあとはお前の腕ひとつだ」

とらやに現れる螢子。「今日はまたお招きいただきまして」三郎を見て驚く螢子。「あら」「こんにちは」「先日はどうも」「僕のほうこそ」「びっくりした。寅さん、何も言わないんだもん」このへんで若い者同志江戸川にと言う寅次郎に、三郎さんがどうしてここにいるか説明しなきゃいけないんでしょうと言うさくら。

「そうか。こいつね、螢子ちゃんがここに来ると言ったら、喜んで来ると言いやがったの。いや、違うな。なんだっけな。そうだ、偶然だ。偶然、こいつが来やがってな。こんな偶然ってあるかしら」「ダメよ、お兄ちゃん。みんなバレちゃってるわよ」「そうですか」なんだなんだと現れる社長。「なんだ、タコ。偶然じゃないか。ははは」江戸川でどうして私とつきあいたいのと三郎に聞く螢子。「どうしてって。弱ったな」

三郎や螢子から連絡があるのかとさくらに聞く博。「ここんとこないみたい。あいつらうまくいってのかなと今日もイライラしてたわ。少しは自分の心配をすればいいのにねえ。若い人なんてほっといたってうまくいくんだから」「それが兄さんの欠点であると同時に美点でもあるんだけどな」

再びとらやに現れる螢子に三郎青年と会っているのかと聞く寅次郎。「うまく行ってるのか」「私、迷ってるの」「何が」「三郎さん、何を考えてるかわからないの。二人でいてもチンパンジーの話しかしないでしょう。二人でいるとすぐに会話が途絶えて。寅さんとだったら何でも話せるのに。寅さんとだったら何時間一緒にいても退屈しないでしょう。三郎さんとはそうじゃないのよ」

「螢子ちゃん、わかってやれよ。あいつがしゃべれないのは、あいつがあんたに惚れてるからだよ」「……」「今度あんたに会ったら、あんな話もしよう、こんな話もしようと、そう思ってうちを出るんだ。でも、いざその子の前に出ると全部忘れちゃうんだね。そんな自分が情けなくて涙が出そうになる。女に惚れてる男の気持ちなんてそんなもんなんだぞ」

三郎さんの気持ちは痛いほどよくわかると言う螢子。「だけど私は19や二十歳の娘じゃないでしょう。結婚はもっと現実的な問題なの」「それじゃ、螢子ちゃんは三郎青年のことが嫌いなのか」「違うのよ。好きなの。好きだから悩んでるんじゃないの」「だったら何も悩むことはないじゃないか。お互いに惚れあってるなら幸せだろう。なあ、違うのか、さくら」結婚はそんな簡単なことじゃないのと言うさくら。「お兄ちゃんにはわからないわよ。経験がないから」「ああ、俺にはわかんないよ」怒って二階に上がる寅次郎。

寅の言うことなんか気にするなと螢子に言う竜造。そうですよと言うつね。「人に説教する立派なことは何一つしてないんだから」寅さんに叱られたと言う螢子に迷う時期なのよと言うさくら。「ほら、これで結婚が決まると思うと寂しい気がするのよ。私にも覚えがある」「さくらさんでも?」「うん。女はみんなそうじゃない。おばちゃんはどう?」私は見合いだからねと言うつね。「あんなカマキリみたいな男と一緒になるかと思うと悲しくって」それはこっちの言い分だと言う竜造。

動物園で働く三郎に会いに行く螢子。「びっくりしたな。どうしたの」「今日、お休みだから寅さんのところに行ってね。帰りに足を延ばしたの」「そうか」「今、忙しい?」「いや、大丈夫」ちょうどよかったと言う三郎。「君に話があって」「どんな話?」「螢子さんも話があるんだろう」「三郎さんの方から先に話してよ」

観覧車に乗る三郎と螢子。「ベベのことなんやけど」「え」「あ、僕が育ててるチンパンジーのメスの名前」「そう」「近頃なつかなくてね。この間も腕を噛まれたりして」「大変ね」「訳を考えてみたけど、結局、僕の方が愛情を感じなくなってしまったんや」「ふうん」「いつごろからこんな風になってしもうたかと考えると、つまり螢子さんに会うてからなんや。ベベのことは子供のように思うてたけど、螢子さんに会うてからは、もうただの動物でしかないんや。だから」「だから、なに」

「結婚してくれないかなあ」「……」「それが僕の話なんや」「私を好きなの」「うん」「口で言って」「好きや」螢子にキスをする三郎。「螢子さんの話は何?」「もういいの」「大事なこととちゃうの」「うん。でももういいの」

これから旅に出るとさくらに言う寅次郎。「長くいすぎたからな。さくら、三郎青年のことを慰めてやってくれ。俺の力不足で螢子ちゃんとのことはうまくいかなかったけど、あいつは二枚目だから、きっとほかに」「そうじゃないのよ。今、螢子さんから電話があって、二人は結婚の約束をしたのよ」「え」「今これからそのことを二人で報告に来るって」「そうか。俺はてっきり三郎青年は振られたかと思ったよ。心配することはなかったんだ。俺なんか」

とらやを出ようとする寅次郎に待ってと言うさくら。「これから二人が来るのよ」「三郎青年がめでたく結ばれたとなれば、俺は用なしじゃないか」「そんなこと」「お前な、俺に代わって、三郎青年におめでとうと言ってやってくれ。おいちゃん、おばちゃん。達者で暮らせよ」「……」「さくら」「なあに」「やっぱり二枚目はいいなあ。ちょっぴり妬けるぜ」「お兄ちゃん」

正月で忙しいとらやを手伝う螢子。博に螢子さんが来てるのかと聞く社長。「じゃあ、あの二枚目も一緒か」「三郎君は勤務ですよ」がっかりしたよと言うつね。「いい着物を着て待ってたのに」お前がそんなことをしてもしょうがないと言う竜造に、だっていい男に会いたいじゃないと言うつね。「いつもひどいのばかり見てるからね」とらやに電話する寅次郎。「お兄ちゃん。みんな元気よ。いまどこ?九州?あ、今、螢子さんが来てるの。ちょっと声だけでも聞かせてあげて」

電話に出る螢子。「もしもし。寅さん?どうして黙って出て行ったの。私、話したいことがいっぱいあったのに。どうして。うん、仲良くやってる」「そうか。まあ、これからいろいろあるだろうけど、なんてたって、お互いに惚れあってることが一番だから」「寅さん、いつ帰ってくるの。私、会いたい」「うん。そのうち帰るからさ。そこに三郎青年は。いないのか。じゃあ俺からよろしく言っといてくれ。どうした、泣いてるのか。もしもし」料金不足で切れてしまう公衆電話。「まあいいや。うまくいってるんだから」寅次郎はテキヤ稼業に励むのであった。