男はつらいよ 翔んでる寅次郎 | ロロモ文庫

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北海道で車寅次郎は一人旅をするひとみという娘と知り合う。「寅さん、明日はどこに行くの」「まあ風の向くまま気の向くままよ」「いいなあ。そんな風に暮らせたら」「ひとみちゃんは東京に帰るの?」「考えてるのよ。やっぱり東京に帰ろうかな」「悩み事でもあるのか」「あたしねえ、もうすぐ結婚するの」「え、なんでえ、それじゃ幸せなんじゃないか。相手の男はいい男か」「うん、まあ」「ひとみちゃんのことを優しくしてくれるかい」「割りとね」「なんだよ。結婚するのが嬉しくないみたいだな」

だから困ってるのと言うひとみ。「本当はもっと嬉しくなきゃいけないんだろうけどね。どうしてもそういう気になれないのよね。一人で北海道を旅行すりゃ気分も変わるかと思ったんだけど、やっぱりあきらめるしかないみたいね」「ひとみちゃん。そんなことを言うとバチがあたるよ」「どうして」「世の中には金のために親子ほど歳の違うスケベエ爺いの嫁になる娘だっているんだよ。その娘が今のひとみちゃんの言葉を聞いたらどんな気持ちになると思う」

こんこんと寅次郎に説得されて涙するひとみ。「寅さん、ありがとう」「そうかい。じゃあ東京に帰るかい」「うん」「もし気分が晴れないことがあったら、葛飾柴又に「とらや」って団子屋がある。そこを訪ねてみな。俺に身内がいて、きっと相談相手になってくれるから」

ウェディングドレス姿でとらやに現れるひとみを見て驚く寅次郎の叔父の竜造と叔母のつねと妹のさくらとさくらの夫の博。「寅さん」「ひとみちゃん」「よかった。いなかったらどうしようかと思った」「大丈夫だよ。この通りいるじゃないか」「あたしねえ、逃げてきちゃったの」「そうか」「どうせ、親戚のところや友達のところに行っても連れ戻されるだけだから。だから寅さんのところに来ちゃったの」「大丈夫だ。俺がいるからには指一本刺させやしねえ。さくら、二階の一番奥の部屋に案内するんだ」

事情はどうあろうとあの娘をここに置いておくわけいかないと言う竜造。「他人様の娘なんだから」そうだよと言うつね。「ご両親がどんなに心配してることか」「言ってみりゃうちは赤の他人なんだ。こんな騒動に巻き込まれるなんて迷惑だよ」「でも、お兄ちゃんの意見もあるだろうし」「あいつのは意見じゃありません。偏見です。いいかい、博さん、あんたの口からハッキリ言ってくれ」「え、僕が言うんですか」今回の件は俺が全部責任を持つと博に言う寅次郎。「だから、博。お前も協力してくれよな」「え。は、はい」寅次郎に聞いたよと言う社長。「嫁さん、連れてきたんだって」「タコ。お前は当分ここは出入り禁止。お前のデリカシーのないツラは悲しみに浸っているお嬢さんには似合わない。出て行け」

少し気分が落ちついたと寅次郎たちに話すかおり。「昨日は夢中だったけど、よく考えたら随分大勢の人に迷惑かけちゃったなって」「気にすることはねえよ。後悔することはないんだよ」「別にしてないですけど」「そうですか」「立派な結婚式だったんでしょうね」「そうだよ。あのドレスを見たってもね。お高かったんでしょう」「いや、ドレスでよかったんだよ。これが花嫁衣装だと着崩れちゃって、逃げるに逃げられないじゃないか」「最初は花嫁衣装だったのよ。でも、あれって変だもんね。まるで狸がペンキ塗られてるみたいで」「でもキレイなお嫁さんだったでしょう。そんなことありません。絶対キレイじゃない、あれ」

わかりますと言う博。「あれは何せ封建時代の格好ですからねえ」「なるほどねえ。じゃあ男の方はちょんまげを乗せてないといけないわけ?」「そういうことになりますねえ」「おいちゃん。俺の結婚式の時は石川五右衛門のカツラをかぶる。男らしくていいや」花嫁化粧をされて悲しいと思ったと言うかおり。「だってこれでおしまいって感じなのよ。これから人生が広がって行くってそんな気分になれない。男の人は決してそんな気持ちにならない。そう思うと目の前が暗くなって、気づいたらタクシーに乗って、ここに来てたの」

寅次郎にどうして結婚しないのと聞くひとみ。「何かわけでもあるの」「そうさな。俺にも色々触れてもらいたくねえ過去があるってことさ。そう言えばわかってもらえるかな」「わかるような気がするわ」「そういうこと」

とらやにひとみが結婚相手しようとした邦夫が現れる。「元気?」「ありがとう、私が元気。ごめんね、本当に」邦夫に元気を出せと言う寅次郎。「いろいろつらいことがあるよ。それが人生ってもんだから」「僕にも色々考えることがありまして。しかし失恋するってことは悲しいことですねえ」「そうだよ。そのことに関しちゃ、俺は誰よりも詳しいからねえ」「本当ですか」「ちょっとコーヒー飲みに行くか」

邦夫と一杯やってきたとひとみに言う寅次郎。「まあ、色々慰めてやったから、あれでいいでしょう」「そう、どうもありがとう」「しかし、あれだよな。あの青年に会うことがあったら、もうちょっと優しい言葉をかけてやれよ。あんなに惚れてるんだから」「あたしに?」「うん」「ウソよ、私のことを恨んでるはずよ」「冗談じゃないよ。恨むどころか結婚式以来毎日あんたのことを考えて暮らしているらしいぞ。いくら、あいつが好きでも、ひとみちゃんの方が逃げ出したくらいキライなんだからまあしょうがないけど。ただ一言、あんたの気持ちは嬉しいわ、それくらいのことは言ってやんなよ。その言葉だけであいつは幸せになれるんだ。恋をする男の気持ちはそんなものなんだよ」

どうして私のことが気になるのとひとみに聞かれ、僕にも責任がある気がするからと答える邦夫。「あたし、これから自活しようと思うの。だから、もう邦夫さんとは住んでる世界が違うの。邦夫さんにはお父様の経営する立派な会社があるでしょう。それがあなたに相応しい未来よ」「親父の会社、こないだやめちゃった」「え」「インテリアなんで僕にはむいてないんだ」

邦夫にご免ねと謝るひとみ。「私、あなたにひどいことをしたと思ってる」「そんなことないよ。僕は今とっても楽しいんだ。毎日、色んなことを考えるし。もっともひとみさんのことが一番多いけどね。どうしたらひとみさんに好きになってもらうか。そんなことをくよくよ考えるから、ひとみさんに嫌われてしまうのかな」「……」「一つだけ後悔してることがあってね。これだけはどうしても言いたくてね」「どんなこと?」「つまり一度も言ったことなかっただろう。君のことを好きだって」「ねえ、キスして」

私はやっぱり結婚すると寅次郎に言うひとみ。「いいでしょう?」「いいよ」「それで、私たちが結婚する時は、寅さんに御仲人してもらおうと邦夫さんと相談したの。いいでしょう?」「いいよ」「ダメよ。お兄ちゃんはまだ奥さんがいないから」「あら、そんなの平気よ。だって寅さんが本当の仲人だもの。ねえ、いいでしょう」「ああ、いいよ」寅次郎を仲人、博を司会にして質素な結婚式を挙げるひとみと邦夫。なんとか仲人の大役を終えた寅次郎は旅に出るのであった。