男はつらいよ 噂の寅次郎 | ロロモ文庫

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信州地方をテキヤしながら旅する車寅次郎は、失恋に悩む瞳という女と出会う。「大した男じゃなったの。顔がいいだけで、あとは全部ダメなんだから。でもあたしさえしっかりしてればなんとかなると思ったの。でもあのバカ、他に女作っちゃったんだから」泣きながらべらべらしゃべる瞳を慰める寅次郎。感謝する瞳。「いいんだ。まあ、その川崎の工場で一生懸命勤めるんだ」「はい。お兄さん、これからどこ行くの」「そうだな。木曾路でも行ってみるか」「まあ。かっこいい。お兄さんのうちどこ」名前と葛飾柴又の団子屋とらやの名前を告げて、瞳と別れる寅次郎。

寅次郎はバスの中で妹さくらの亭主の博の父の諏訪と再会する。早速あちこち木曾路を旅する二人。宿でババアの芸者でも呼ぶかと聞く寅次郎に別にいいと言う諏訪。「先生でもやっぱり芸者は美人のほうがいいか」「いや。いくら美人でも死んでしまえば骸骨だからな」「そういう考え方はいけないよ。世の中面白くなくなる」「年をとると世の中、面白いことはなくなるんだよ」「こんな漢字ばかり出てる本なんか読んでるから、そんなことを考えるんだよ」

この本は面白いんだと言う諏訪。「今昔物語と言ってね」「こんにゃくの作り方でも書いてあるの」「これは、昔の日本人の暮らしを書いた本でね、たとえば、ある所に、君のように二枚目で、女にもてる男がいた」「へへ、二枚目だなんて言われると困っちゃう」「ところが、この世のものとも思えぬ美人がこの男の前に現れた。男はたちまち恋に陥って、苦心惨澹の挙句、その美女をものにした」

「結婚しちゃったんだろ、うまくやりやがったなあ、それで」「可哀想にね、その美しい妻は一年も経たないうちに病を得て死んでしまったんだ」「へえ、だけどそいつ二枚目だから、半年もしないうちにまたいい女が出てきてくっついた」「いや、この男はね、君のような浮気者じゃあないんだ」「……」

「三月経ち、半年経つが、男はどうしても美しい妻の面影を忘れることができない。どうにもこうにも我慢ができなくなって、ある日妻の墓場へ行って、棺を掘り起こした。しかし、男が見たものは、美しい妻の顔とは似ても似つかぬ、腐り果てた肉の塊だった。男は、この世の無情を感じて、頭を丸めて仏門に入り、一生仏に仕えて暮らしたということだ。まあ、こんな話を読んでると、僕も人の一生についていろいろ考えさせられたりするんだね。風呂に入ってこよう」「……」

翌朝、寅次郎は置手紙を書いて諏訪と別れる。<お教えありがとうございました。寅次郎、深く反省します。こんにゃく物語を拝借します>大人物は反省して去ったか、と呟く諏訪。

 

とらやでは竜造とつね夫婦が売り上げを伸ばすために職安に店員を頼んでいた。そこに職安の紹介で来たと言って現れる荒川早苗。早苗の美しさに驚く一同。「赤坂にあるとらやさんって大きなお店があるんですけど、あそことは関係ないんですよ」「知ってます」「仕事と言ったって、お団子配達したり、お客さんにお茶運んだり。そんなことなんですよ」「それは職安から伺ってます」明日から働きますと言って帰る早苗。あんな色っぽい女の人はそうはいないなと話す社長や博や竜造。

とらやに戻ってくる寅次郎。「博、お前、俺が旅先で誰と会ったか知ってるか」「さあ、色っぽい人でもあったんですか」「馬鹿もん、お前の親父だ。一人寂しく孤独な旅を続けてた。俺はお前に変わって親孝行してやった」「どうもすいませんでした」諏訪は元気だったかと聞くさくらに、しみじみ二人で人生について語ったと答える寅次郎。「どんな話をしたの」「そのことについては今晩、みんなにじっくり聞かせてやる」

食事のあと話を始める寅次郎。「今は昔、ある所に男がいた」ある所ってどこだいと聞く社長に日本に決まってるよと答えるつね。「日本だっていろいろあるだろう、北海道とか九州とか」どこでもいいんですよ、それはと言う博に、昔々ある所におじいさんとおぱあさんがおりましたって言うでしょう、あれよ、と笑うさくら。

舌うちする寅次郎。「やめたよ、お前達相手にとても話はできねえや」まあまあ、そう怒るなと言う竜造。「面白そうな話じゃないか。その男は恋愛でもしたか」「その通り。これがなんといい女。男は惚れたねえ」でも失恋したんだろと言う社長に、怒る寅次郎。「おい、これ片付けろよ、この目障りの太ったの」「お兄ちゃん、黙って聞くから先話して。恋をして、それからどうしたの」

話し始める寅次郎。「二人は結婚した。美しい妻。男は幸せさ。仕事にも励みが出る。汗をかいて家へ帰る。『お帰りなさいませ。今日はお疲れになったことでございましょう。お風呂も沸いてございます。越後より美味しいお酒も届きました。一つつけておきましょう』月の明かりの下で、つつましい食事。『どうだ、そなたも一口いかがじゃ』『いいえ、わたくしお酒など』この幸せな二人の暮らしは、一年とは続かなかった。その女は病を得て死んだ。子宮外妊娠」あら、気の毒にと呟くつね。

男は泣いたなと話す寅次郎。「お通夜、葬式、初七日と、日は過ぎて行くんだが、男の涙は止まらない。会いたい、もう一度だけ妻の顔が見たい。たまりかねて、月夜の晩に男は出かけたな。墓場へ。薄暗い木立の中で無気味はふくろうの声。やがて棺桶が出てくる。男は棺桶はあける」うわあああと叫ぶ寅次郎に驚く一同。「なんと棺桶の中の妻の顔は腐れただれて蛆虫がうじゃうじゃ」やめてと叫ぶさくらに、なんだ脅かしたのかと、がっかりする竜造。

違うと言う寅次郎。「これからが大事なんだ。男は、その日から二度とその美しい妻の顔を思い出すことができなかった。どうしても思い出そうとすると、醜く腐り果てて蛆虫のクチャクチャな顔が浮かんでくる。これは辛い。その男の気持ちを考えるとオレも知らない間に涙が出てくる。その男は出家した。家を捨て、身を墨染めの衣にまとい、お経を唱え、生涯修行の旅を続けた」

なかなか味のある話ですねと呟く博。「うん、人生について考えさせられたろ」「はい」「よし、それでは今日はこれでお開きということにしよう。おばちゃん、明朝九時に修行の旅に出発します。博、そのこんにゃく物語、お前にやるから、とっくり読むように」

翌朝、とらやにやってくる早苗は掃除を始める。そこに二階から旅支度をして降りてくる寅次郎。「こんにちは。荒川です」「……」早苗にこの男は私たちの甥ですと寅次郎を紹介するつねと竜造。「昨夜一晩泊まってもう旅に出るんです」「残念だなあ。もっとゆっくりすればよかったのに」後ろ髪を引かれる思いでとらやを出る寅次郎は、さくらと出くわす。「これからどこ行くの」「……」「お金あるの」「……」「どうかしたの。具合でも悪いんじゃない」「具合?あたたたた。腹痛い」「ちょっと大丈夫」大騒ぎになり、寅次郎は救急車に運ばれて病院送りとなる。

すぐに病院から戻ってくる寅次郎。お腹の痛いのはガスたまりだってと話すさくら。「それから少し栄養のバランスがとれてないから食事に気をつけなさいって」人騒がせな奴だと言う竜造に、冗談じゃないと言う寅次郎。「どうしてここに救急車が来たんだ。誰が電話したんだ。俺はちょっと腹が痛かっただけだぞ」私が電話しましたとう早苗。「すいません。ご迷惑おかけしまして」「いえ、そんなこと。でもよく気がついてくれましたね」「私がこんなことをしなければ」

「いや。俺は前からいっぺん乗ってみたいと思ってたの。救急車。葛飾病院まで五分だぞ、博」「はあ、早いですね」本当にすいませんでしたと言って帰る早苗。ガスが出たら腹がへったなと呟く寅次郎。「何かうまいもの喰いたいな。さくら、医者はなんて言ってたの。栄養失調?じゃあ、栄養について何か考えるか」

竜造とつねは結婚式に出席したため、とらやは寅次郎と早苗の二人きりになる。甲斐甲斐しく早苗の面倒を見る寅次郎。「寅さんって優しいのね」「いや、荒川さんだって、最初は気取った人だと思ったよ。名前からごつい人かと」「私も荒川って苗字はあまり好きじゃないの。昔は水野早苗って言ったの」「水野。そっちのほうがいいね。どうして荒川にしちゃったの」「結婚したからよ」「結婚してたの。へええ。で、旦那さん、元気?」「うん。今、別居してるの」「そう、そりゃいけないな。早いとこ話し合って仲直りしないと」「そう思ってたんだけど、やっぱりダメね」「そうね。ダメかもね」張り切って客引きをする寅次郎。

とらやに午後から出勤すると電話して、喫茶店で従兄の添田と会う早苗。「どうして、お兄さんが」「昨夜、荒川君と会って、どうしても行けないから、代わりに俺に言ってくれって」「そう、すいません。学校あったんでしょう」「午前中は授業ないんだ」

俺はびっくりしたよと言う添田。「まさかここまで話が来てるとは。荒川君にも怒ったけど、君も君だよ。どうしてこんな風になる前に俺に相談してくれなかったんだ」「もういいの。どうしようもないの。ごめんね、心配させて」離婚届を早苗に出す添田。「君のハンコ」今どうしてると添田に聞かれ、柴又のとらやという団子屋で働いていると答える早苗は、離婚届にハンコを押して、これでおしまいかと呟く。

区役所から出てくる早苗と添田。「つきあってくれてどうもありがとう」「これからどこに行くんだい」「決まってるじゃない。柴又の団子屋さん」「そんなの休んで飯でも食べないかい」「そうはいかないわ、さよなら」「早苗ちゃん。もっと自分を大事にしないとダメだぞ。人生は一度しかないんだから」「わかってるわよ」「しかし、あんた」「お願い。今、私、一人になりたいの」

とらやに現れた早苗は、今日からあたしは水野早苗になったと言う。「へえ、どうして」「今日正式に別れたの。長い間ごたついたけど、これですっきりしたの」「そう。そりゃよかったよ」「うん。よかった。私これで。でも私泣きそう」二階に行く早苗。そりゃよかったって言うことはないでしょうと寅次郎を叱るさくら。

「さくら、お前、二階に行ってなんとかしてやれよ」泣く早苗を慰めるさくら。「兄が無神経なこと言って悪かったわね」「私、別れたらどんなにすっきりするかと思ってたのよ。でも、手続きすましたら、何だか急に張合いがなくなったみたいに。私、この先何をあてにして生きてけばいいのか。こんな気持になるなんて」「……」

もうすぐ早苗が下りてくるから気を使うんだと竜造とつねに言う寅次郎。「いいか、離婚という言葉、これいけないよ、あと離れる、切れる、別れるとか、この手の言葉は一切つかわない。いいね、こういう問題ね、ぜんぜん、ふれないで、何も無かったような顔して。あ、来た、離れろ、切れろ」二階から降りてくる早苗に笑う寅次郎。

「ほんとだねえ、おばちゃんの言うとおりいい天気になっちゃった」「どうもすみませんでした。ご心配かけて」二階から下りて来るさくら「雨上がったわね。雲が切れたみたい」切れないと言う寅次郎。そこに「逃げた女房に」と歌いながらやってくる社長。「どうしたい。別居中の美人は?あ、いた、ごめんなさい」慌てて帰る社長を見て、ああいうガサツな男は、この家に入れない方がいいんじゃないかと呟く寅次郎。

そこに寅次郎を訪ねて現れる瞳。「寅さん、いたの」「あんた、あの時の」「寅さん聞いて聞いて。ほら、例の男さ、私捨ててさ、よその女と一緒になっちゃってさ、新婚旅行から帰って何と一週間で離婚しちゃったのよ。別れてよかったね、あんな男と」「ほう」「私のところに来て、もう一度よりを戻してくれ。バカ言うな、お前の面なんか、二度と見たくねえや、ざまみろってんだ。ねえ」大騒ぎする瞳を店の外に出す寅次郎。「この先、俺の知ってる静かな店があるんだ」「どうしてよ」「お前は声が大きいんだよ」「だってお団子買って帰ろうと思ったのに」寅さんってもてるのねと笑う早苗。

夕食時に早苗に馬鹿なことを言ってすいませんと謝る社長。「私は馬鹿なもんで」「いいんですよ、そんなこと」不景気な面をするなと社長を叱る寅次郎。「これから皆で楽しくデザートをいただこうというのにさ。何か、明るい話題ないか、聞いただけで家の中がパアーツと明るくなるような」「ないよ、あるわけないじゃないか」「情けないね、この男は。博、明るい話しろ」「明るい話ですか。そうだなあ。国際情勢もあんまり明るくないみたいだしなあ。パレスチナの問題、イランの内乱」

「バカ、誰が外国の話聞いてんだよ、柴又だよ。なあ、おいちゃん、何かないかよ」「例えばどんな話だい、明るい話題ってのは」「だからさ、宝くじにドーンと当たったとかね。空から一万円札がヒラヒラヒラヒラ振ってきたとかさ、裏庭をちょっと掘ったら小判がざくざく出てきたとか。ねえ、そんな話ない?おばちゃん、何かないか」「裏庭じゃないげどね、この間、下水工事でそこんとこ掘りかえして大変だったよ」「へえ、何が出て来た?」「間違って水道管に穴あけてねえ、水がザァーツと出て来てこの辺グチャグチャ」「何だい、それ、明るくないじゃないか」

こんな話はどうというさくら。「キリン堂のお嫁さんが双子生んだっていうの」「そりゃ明るいね、双子ね、うん、可愛いいだろうな」それが大変らしいと言う社長。「二人の赤ん坊相手にね、おしめとっかえたり、ミルクやったり、もう殺されそうだって、この間うちに婆さんが来てこぼしてたよ。ほら、近頃の若い嫁さんは全然働かねえだろ、姑こき使っちゃってさ、文句を言うと、すぐ離婚だとかいっちゃって。あ、暗い話になっちゃった、ごめんなさい」

そうだという博。「この問、満男が国語のテストで百点もらいましたね」「これは明るい。満男、偉いぞ。伯父さんに似たんだ」理科のテスト用紙を見て怒る博。「なんだ、理科30点じゃないか」伯父さんに似たかと笑う竜造。

何の話してもこの家は最後に暗くなるんだと嘆く寅次郎に、はいと手を上げる早苗。「明るい話題」「出ました。なんでしょう」「あのね、私の人生で、寅さんに会ったっていうこと」照れる寅次郎。「いやあ、そんなことを言われたの初めてだったなあ。僕はどっちかって言うと暗い人間だと思っていた」「暗い人間だって、ふふふ」「陰気なんですね」どこが陰気だと笑う社長。

家に帰るという早苗。「気をつけてね、荒川さん」「水野よ」「あ、そうか、今日から水野さんだったね」「寅さん」「はい」「私、こんな楽しく晩御飯食べたの何年ぶりかしら」「あ、そうか、よかったね。それだったらこれから毎晩来て食べればいいんだよ」「寅さん」「はい」「私、寅さん好きよ」去っていく早苗。階段を踏み外しながら二階に上がる寅次郎。何であの人あんなこと言っちやったんだろうと言うつねに、よっぽどうれしかったのねえ、今夜の食事が、と答えるさくら。

早苗の引越しの手伝いに行く寅次郎。「あ、運送屋さん。あの若い衆に何か甘いもんでも買ってやってよ」この人は私の従弟なのと言う早苗。「あ、そう。俺、車寅次郎ってんだ」「添田です。よろしく」「従兄が運送屋ってちょうど都合がよかったね」「違うのよ。この人、高校の先生でね。今日休みだから生徒たちと手伝いに来てくれたの」「あ、これはどうも失礼」じゃあと言ってトラックに戻る添田。「しかし、ありゃどう見ても先生には見えないな」「私もね、昔からそう言ってからかったの」

葛飾にやってきて、博とさくらのアパートに来る諏訪。「このアパートもだいぶ狭くなったね」「仕方ありませんよ。月給が安いんだから」「ふむ」明日、岡山に帰ると言う諏訪。「お父さん、旅先で兄さんと何してたんですか」「いや、別に」翌朝、葛飾駅に見送りに来たさくらに話す諏訪。「もし、博がうちを建てるようなことになったら、私に言ってください。そのために安曇野に少々土地を買ってます」「……」「寅次郎君の言うように、あれは私に似て頑固で面白くない人間ですが、どうかよろしく」「いいえ」

テキヤを終えてとらやに帰ってきた寅次郎に会釈する添田。「よう、この間の運送屋。じゃなかった、学校の先生。なんだい、水野さんに用事か」早苗は配達に行っていると言うさくら。「すぐ帰るから待ってもらってるの」早苗とは従兄だったねと添田に聞く寅次郎。「じゃあ、水野さんは小さい頃から知ってるの」「ええ。小さい頃は家が近くでしたから」「そうか。小さい頃はあの人は可愛かっただろうな。おい、お前、ガキの頃はあの人に惚れてたろう。図星だろう」「僕、帰ります」「もう帰るの」

「用件だけ伝えてもらえば。それも大したことじゃないんです」「ああいいよ。伝えてやるよ」紙包を寅次郎に差し出す添田。「これ、早苗ちゃんに渡してください。何かあった時に使ってくれと。そう言えばわかります。それから僕は故郷の小樽に転勤することが決まりました。しばらく会えなくなるかもしれないけれど、元気でいるようにと伝えてください。それから、車さん」「なんだい」「早苗ちゃんを大事にしてやってください。お願いします」「あんた。惚れてるんだ。今でも」

そこに戻ってくる早苗。「どうしたの」「車さんに話しておいた。じゃあ」去っていく添田。用って何だったのと寅次郎に聞く早苗。「従兄が小樽に行っちゃうってよ」「え」「当分会えないけど元気で暮らせって」紙包を早苗に渡す寅次郎。そこには通帳と印鑑があった。何かあった時は使ってくださいって言ってたと話すさくら。「あの人、こんなことして」「わかるだろ、惚れてんだよ。あんたのことをずっと前から好きなんだ」「……」

「あいつは不器用だから口ではうまく言えないんだ。二十年も。早く行ってやんなよ」私はあの人の気持ちがわかってると言う早苗。「だったら本人にそう言ってやんなよ。どんなに喜ぶか」「でも、私ね」「うん、明日聞くよ。早く行かないと間に合わねえぞ」「そう、じゃあ、また明日ね」添田を追ってとらやを出る早苗。

さくらに旅に出ると告げる寅次郎。「どうして。また明日って今早苗さんに言ったばかりじゃない」「なあ、さくら。俺がこの家にいたんじゃ、あの人は困るんじゃないのか」「でも、明日あの人が来たらなんて説明するの」「うん。急に気が変わって、ふいっと旅に出ました。そう言えばいいのよ。あの男は人の気持ちなんかちっともわからない不作法な男です。お忘れください。そう言やいいよ。な」出て行く寅次郎。

年があけて、小樽からとらやに手紙を出す早苗。<もう一度寅さんと話をしたかったです。遠い小樽より皆様の幸せを祈ってます>水野さんはあの男の人と一緒になるのかしらとつねに聞かれ、さあねえと答えるさくら。寅次郎は汽車の中で、新婚旅行中の瞳と巡り合うのであった。