作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(409)」 | ロロモ文庫

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ハゼの教訓(後)

大原と小泉に文化部でハゼ釣りに行ったと話す谷村と富井。「これが滅法釣れまして」「釣ったハゼをすぐ船の上で調理したのが結構なものでした」「うむ、刺身も素晴らしかった。それで、また来週、またハゼ釣りに行こうと言うことになりまして」「それを帝都新聞の営業部の平野さんを話したら、対抗意識を燃やされて、彼等も参加したいと言い出しまして」「それを帝都の秀沢編集局長が聞きつけまして、私は情報産業釣友会の幹事だと言い、嶺山社長も誘って参加すると」

「谷村君。君は私もその釣友会の幹事だと言うことを知らないのかね。その私を誘わないとは何事だ」「おお。そうでしたか」「私も行くぞ。文句あるか」「ありません」「どうぞ」「むう。私だって行くぞ。私だって釣りたてのハゼを食べたい」

ハゼ釣り舟に乗る一同。「どうしたんだ。全然釣れないじゃないか」「変ですねえ。先週はよく釣れたんですよ」「山岡と栗田君はどうした」「社主と局長が来られるので、遠慮したようです」「むう。何が天ぷらだよ。何が刺身だよ。ハゼは初心者でもボンボン釣れるはずだろう」「まったくです。いい加減な情報を流すのは、新聞社の人間として恥だよ」「やれやれ、まいったね」「東西さんに責任とってもらいましょう」「全くだ。大原さんに土下座でもしてもらおうか」

そこに舟に乗って現れる山岡と栗田。「どうでしたか。釣果は」「全然だめよ」「へえ、釣れなかったんですか。変ねえ」「え、君たちは釣れたのかね」「舟のイケスを見てください」「うわ、凄い。200匹以上いる」「しかも形が大きい」「俺たち、みんなの舟が出た後に来て、仕方ないから二人だけで釣りに行ったんです」「私たちの舟は小さくて調理できないから、陸に戻って来て食べようと思ったのです」「ハゼにありつけるわ」「でかしたぞ。山岡、栗田君」

「ひゃあ、ハゼの天ぷら」「さあ、帝都さんも遠慮なくどうぞ」「おお、いただきます」「むう。衣はサクサク、身はほっこり」「今日のハゼはちょっと大きいので、洗いにしました」「さっぱりしてるけど、味に力があるよ」「この白身がチリチリと弾けた塩梅が何とも」「照り焼きです。山椒の粉をかけて召し上がってください」「むほ。素朴で心が寛ぐ味です」「ハゼって役者なんだね。どんな装いも似合うよ」

「ハゼの椀です」「む。日本料理の華である椀物をハゼで作ろうと言うのか」「むう。ハモの椀みたいだが、それともまた違う。ぐっと砕けた味で」「これは品がいいねえ。懐石にそのまま使えるじゃないの」「椀物とはね。ハゼが突然、高級魚になってしまったよ」「やっぱり新鮮さの勝利ね。特にハゼによっては古くなると匂いが強くなることがあるから」

「ハゼを塩をふらずに白焼きにしてあります。これは今日食べてもらうものじゃない。お土産に差し上げます。家に帰ったら、涼しいところで一日陰干しにして、冷蔵庫にしまっておいてください。保存しておいて、お正月のお雑煮をこれで作るのです」「いやはや、これはありがたい」「ハゼ料理を堪能した上にお土産まで。恐れ入ります」「大原さん、おかげさまで楽しい一日でしたよ。自分たちはハゼが釣れなかったが、今の料理で全て満足です。また明日から東西新聞相手に力一杯戦う気力が充実しました」「望むところです。これからも頑張って競争しましょう」

山岡と栗田に感謝する大原。「君たちがあんなに沢山ハゼを釣って来たおかげで、私は大いに面目を施した。披露宴の招待状の差出人は君たち二人だけでよい。今度のことで認めてやろう。海原雄山氏に対する山岡の感情のもつれは深い。それを無理して土下座して謝れと言うのは、帝都に頭を下げることが死ぬほど耐えられないこの私としては、大きな誤りだった」「む」「しかし、やはり宴会は今日みたいに人数が多いほうが賑やかでいい。君たちの披露宴は予定どおり、各界の著名人を大勢招く」「ぬ」

自分たちがハゼを釣れた理由を話す山岡。「だいだい、ハゼが水深50メートルやそこらの浅いところで大釣りできるのは、夏から秋の初めだけ。その後、水が冷たくなると、温かい海底深くへ移動する。先週、俺たちが凄く釣れたのは、あの日突然、気温が夏なみにぶり返したからなんだ」

「ところが今日はまた例年以下の低温」「ハゼは深みに戻ったのね」「そこで俺と栗田さんは、海の深いところにあるポイントに行き、そこでじっくり釣ったんだ」「私たちの船の船頭さんには、あらかじめ釣れないのを承知で、浅いところに舟を止めて釣らせるように言っておいたんだよ」「帝都の連中をはめたのは悪かったけど」「でも、皆さまに協力していただいたおかげで、うまくいきました」