作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(410)」 | ロロモ文庫

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究極の新居(前)

新居を見つけるために月島の不動産屋に行く山岡と栗田。「安くていい物件ねえ。あ、これはどうでしょう。3階建ての小さなビルなんだけど、1階がコンビニと食堂、3階が大家さんの住居、その2階を貸そうと言う話だ。2階は3LDKのアパートが2世帯分あり、そのうち一つが空いているんだ」「でも高いんでしょう」「それが問題だ。大家さんは借りたい人があったら連れて来い、と言うんだ。面接したら気に入ったら貸してやる。家賃の額はそれから決めるそうだ」「む。家を借りるのに面接試験を受けるなんて不愉快だな」「まあ、会うだけ会ってみましょうよ」

部屋の気に入った山岡と栗田は借りたいと大家の尾沢に申し出るが、貸す気はないと言われてしまう。「まあ、どうしてですか」「あんたたち、これから結婚するんだろ。てことは、そのうち子供が生まれる。それが困るんだ。子供ってはうるさい。しかも家を汚す。大変な迷惑だ」「そんな。子供は嫌いなんですか」「女房が早く死んだんでね。子供なんか生まれなくてよかったよ」「まあ」

絶対に貸さないと言う尾沢。「あんたらは新聞社に勤めているんだろう。時間も不規則だろうし、若いから友達なんか遊びに来るだろう。困るねえ。最近の若い者は礼儀を知らないし、夜遅く平気で出入りして、大騒ぎするのは目に見えている。私としては子供がいなくて、ある程度以上の年配で、上品で静かな人に借りてもらいたんだ」

絶対に借りないと言う山岡。「家を借りる時には、家自体も良くなきゃダメだが、家がどんなに良くても大家が悪かったらおしまいだ。哀れなもんだ。なまじ不動産なんか持ったばかりに人間らしい心を失っている。子供は家を汚す?家が汚れるのは当たり前だ。形あるもの必ず滅す。人間だって必ず死ぬ。そんな道理もわからないとは情けない」「無礼者。出て行け」

「むう、腹が減った。この「はる」って店、来た時から何か気になったんだ。入ろうよ」「いいわよ」「こんにちは」「いらっしゃいませ」「何か食べさせてもらえますか」「ええ、どうぞ。うちはお惣菜みたいなものしかできませんが、それでよろしければ」「お惣菜。うれしいなあ。毎日食べても飽きないのがお惣菜だもの」「今日出来るのはこれだけなんです」

「この「ヅケ丼」と言うのは?」「鉄火丼はご飯の上にマグロの赤身を乗せるでしょ?うちのはただの赤身じゃなく、ヅケを乗せるんです。あ、ヅケと言うのは、赤身を醤油につけておいたもので」「昔はマグロの寿司はヅケが主だったんでしょう?」「わかってもらって嬉しいわ。最近の若い人はご存知なくて」「この「牛肉丼」と言うのは、普通の牛丼とは違うのですか」

牛肉丼の作り方を説明する女将。「牛肉のロースの脂身を切り離して、小さく切ってこんがりするまで焼きます。それを別に取っておいて、脂身を取ったロースをそのフライパンに入れて、表面が焦げて、中は生のままになる程度に軽く焼いて、取り出します。フライパンには脂身から出た脂と肉から出た肉汁がたまっています。そこにバターをひとかけら入れて、醤油を加えてやると、美味しいタレができます」

「タレを別の容器に取って、またバターをひとかけら、ニンニクのスライスをたっぷり先程の脂身を加え、ご飯を入れて、手早く炒めてガーリックライスを作り、丼に取ります。その上に、牛肉を焼いたのを1センチ幅くらいに切ったのを乗せて、さっきのタレをかけると、牛肉丼の出来上がり」

牛肉丼を食べる山岡。「肉の焼き具合もこんがり焼けた脂身も泣かせるが、ガーリックライスがたまらない。むう。牛肉に一番合うソースは醤油だ」ヅケ丼を食べる栗田。「マグロの赤身を醤油につけると、味が染み込むと同時にマグロの身の味を引き出して、赤身をそのままで醤油をつけて食べるのとは、全く別物の美味しさになるわ」

「いいお店を見つけたわ」「むう、全くだ」「そう言っていただけるのは嬉しいのですけど、このお店も今月いっぱいで閉めるのです」「え、どうして」「全然、お客さんが入らないのです」「だって、この辺は人口は多いでしょう」「もんじゃ焼きのお店は、みんな繁盛してるじゃありませんか」

寂しそうに言う女将。「ファストフードとか、さもなかったら、もんじゃ焼きみたいに遊びの入ったものならいいけれど、お惣菜の店だったら、弁当屋さんでお弁当を買うほうが安いし、ちゃんとした料理屋さんみたいなわけにいかないから、うちのような店は、中途半端で古臭いのね」

そこに現れる尾沢。「はるさん、ホントにこの店やめるのかね」「尾沢さん」「はるさん、やめてはいかん。あきらめるんじゃない」「でも尾沢さんにお払いするこの店の賃貸料も滞って」「賃貸料なんかいらんと言ってるだろう」「尾沢さん、お気持ちはありがたいけれど、もう限界なのです」「やめたらダメだ。どこにも行かないでくれ。お願いだ」「ま」「む。あんたら、こんなとこにいたのか。ちょうどいい、新聞記者なら何かできるだろう。この店が繁盛するように、新聞に何か記事を書いてくれ。そしたら、あの部屋を安く貸してやる」