夜の診察室 | ロロモ文庫

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「アダムとイブの昔から、私たちの宿命となったセックスも、今では二人だけの秘め事ではなくなりました。平和な1970年代の娯楽はセックスを追求し、商品としています。商品化されたセックスの情報は人々に楽しみよりも悩みを与えることが多いようです。そんな人たちのため夜の診察室がここ、麻生診察室。この診察室のメンバーは精神学の大家麻生医学博士。週に三度通ってくるアルバイトの石川医学士。そして麻生博士の一人娘で受付兼記録係の梢。この三人です。世の中にはセックスに苦しんで悩んでいる人が予想以上に多いようですけど、あなたは大丈夫ですか」

民代が診察にやってくる。麻生が外出したため代わりに対応する梢。「あら、あなたがカウンセリングするの」「私、大学で心理学を専攻しているんです」悩みを打ちあける民代。「うちの主人、ここ二か月ご無沙汰なんです。それで私は欲求不満なの。私は主人にスタミナ料理を作ってあげたけど、それでもダメなんです」「失礼ですけど、奥様は結婚して何年目ですか」「七年よ」「統計学的に見て、一番危険な時期ですね」

「七年目の浮気?私もそう思って、私立探偵に調査してもらったけど、そっちのほうは全くのシロなんです」「浮気でないとすると倦怠期ですね。夫婦関係がマンネリズムになってしまって」「だからこそ、今度新しく建てた家の寝室はいろいろ工夫をこらしてみたのよ。壁の色か家具までまるで今までと違ったものを揃えたし、ベッドなんか最高級のものを奮発したけど。もうだめなのか、私たち」

外出から戻ってきた麻生は民代に映画のラブシーンを写ったカードを見せる。「それを見終わったら印象に残ったものを選んでください。それであなたの精神状態がわかるのです」選んだカードから、麻生はセックスに強烈な願望を持っていますとねと民代を分析する。「ねせ、先生。うちの主人、なんとかならないかしら。そりゃ男は35過ぎれば下り坂ってのは記事で知ってますけど」「それは出鱈目な記事です。セックスに年は関係ありません。ドイツの学者は欲望は年齢とともに純化されて高まると言ってます」

民代は引っ越す前は夫とは関係があったという。「前は狭い団地でしかも私の妹が同居してたんです。それでいつも聞こえるんじゃないかと。だから今度はちゃんと寝室をつくったんです。すると妹は嫁に行ってしまい、今は理想的な状況と言えるんです」「はあはあ。それがかえって理想的じゃないのかもしれません。人間は環境によってセックスが倒錯することがあります。ご主人にとって今までの妹さんに気兼ねしながらの夫婦生活が習慣になってしまったのかもしれません。二人きりでは刺激がなくて興奮しないのかもしれません」

ビデオ室で民代の診察風景を見ていた梢は、民代の夫の柳田の勤める会社を訪ねる。喫茶店で甥でポルノ作家の榊と会う柳田。「引っ越したそうですね」「資金繰りには苦労したよ」「ところで奥さん、元気ですか」「あいつは元気すぎて困るくらいだよ。まるで発情した雌犬だよ。あまりうちの刺激させないでくれよ」「ポルノ作家は僕だけじゃないですから」「でも君はその世界の第一人者だろう。うちのやつも愛読してて、夫婦交換ってどんなものかと口走るくらいだからな」榊は自分たちの様子をうかがう梢に気づく。

麻生診察室と同じマンションでスナックを経営する芳江は、梢はとてもチャーミングな娘だと麻生に言う。「できれば私の妹にしたいくらいですわ」「本当にそう思ってくださいますか。いや家内に死なれて男手ひとつで育てたもんで、いたらぬところがないかと心配で」

柳田は仕事があると席を立つ。あとを追おうとする梢を捕まえる榊。「よかったらお話ししませんか。あなたは興信所の調査員。柳田の細君から柳田が浮気しているか調べてくれと依頼された」「違うわ。彼にぐっと来て、彼のことを知りたくなったのよ」「じゃあ、彼のことは僕に聞くといい。彼と僕はいとこ同士で彼のことなら何でも知っている」

私はあなたのことを知ってるわ、と榊に言う梢。「有名なポルノ作家で、独身のプレイボーイね。あなたのガールハントはいつも喫茶店?」「今日は特別さ。君があんまり死んだ妹に似てたもんで」「それもいつものセリフみたいね」「信用ないんだな、しかし君の若さなら、柳田みたいな男じゃなく、もっと若い男に興味を持つはずだがな」「私、若い男に飽きちゃったの。若い男は退屈ね」

「しかし柳田は中学一年の時に手伝いに来た子守娘に教えられたんだ。しかもその娘は色情狂だったんだ」「別に驚かないわ。性的異常者は世の中にいっぱいいるもん。私がつきあった男の子の中にもいっぱい変わったのがいたけど、中でも変わってたのは婦人靴のデザイナーよ。彼は皮の匂いが大好きで、私にハイヒールを履いて踏んでくれと言ったの。彼が男性になれるのはその時だけなの」

マンションに戻った榊は自分が梢にハイヒールで踏まれる情景を妄想する。「これだ」ポルノ小説を書き始める榊。そこに民代が訪ねてくる。「実はあなたに家に泊まってほしいの」「どうしたんです」「こんなことはあなたじゃないと頼めないんだけど、柳田は夜気兼ねしないとダメらしいの」「で、民代さんは僕に種馬の代わりを」「ごめんなさい。このままじゃ私おかしくなりそうなの」約束通り、榊は柳田の家に行くが、柳田は全く民代に手を出そうとせずに、すぐに寝てしまう。

民代から話を聞き、それでもダメでしたか、と呻く麻生。子供のころの異常な体験が原因じゃないかしら、と言う梢。民代は柳田から話を聞いたことがあるという。「お手伝いさんから土蔵の中で変なことを教えられ、それがすっかり癖になったところを父親に見つかり、ひどく怒られたそうです」「それが見つかったのは土蔵の中なんですか」「いいえ。新しく建ててもらった勉強部屋だそうです」

それですよ、と叫ぶ麻生。「ご主人は新築の家に移られて、無意識のうちに叱られた勉強部屋のことを思い出したんです。それがセックスを抑制して一種の不能にしてるんです」「では、新居に引っ越したのがいけなかったんですか。どうしましょう。今さら元の公団住宅に戻れないし」「いいことがあります。今の寝室をできるだけ元の形に戻すんですな」民代は妹に自分の新しいベッドや三面鏡をあげるから、自分があげたベッドと交換してくれと頼む。こうして寝室は元の公団住宅の雰囲気に戻り、無意識の抑圧から解放された柳田は男性機能を取り戻し、民代を抱く。

麻生診察室に現れるルミコ。「結婚して二か月もなるのに毎日続くのはおかしいと思うんです」「ということは夫婦関係が激しすぎるということですな」「あら、毎日続くって言うのは、あれじゃないんです。おつながりゴッコなんです。毎晩寝る前に彼は、私の左手と彼の右手を手錠でつなぐんです。そうすれば眠ってる間も一心同体だから安心できるって言うんです。でも本心は私の自由を束縛するのが狙いなんです。昼間は昼間で二時間おきに会社から電話するんです」

中沢はルミコに電話するが、診察室に行ったためルミコは出ない。上司で仲人の殿村に僕のルミちゃんが電話に出ないんですと訴える中沢。「いい加減にしろ。今夜は俺とつきあえ。結婚して二か月たつのにデレデレするな」殿村は中沢をスナックに連れて行くが、中沢は上の空状態で過ごす。中沢を大人のオモチャ屋に連れて行く殿村。「中沢、これ買え。これは婦人科セットだ。この中に試験紙を入れて色が変わったら房事ありの証拠。これでたちどころに女房の浮気は露見するわけだ」

真夜中帰ってきた中沢はルミコに昼間どこに行ってたと聞く。「あら、デパートよ」「デパートなら休みの日に僕がつきあうと言っただろう。一人ででかける時は二時間以上外出しないと約束したじゃないか」「……」「いったいどこ行ってたんだ。浮気してたんだろう」

中沢は早速婦人科セットでルミコが浮気してないかチェックするが、ルミコが浮気してないことがわかる。「ごめん」翌朝起きたルミコは両足に手錠をかけられているのに気づく。手紙を読むルミコ。「サンドイッチとおにぎりを作っておいたから、それを食べて、夕方まで外出しないでくれたまえ。愛するルミコへ」

ルミコは怒って麻生診察室に電話する。電話を受けた梢は、中沢は異常性愛者だと判断し、中沢の会社に行くが、中沢が外出していたため殿村と会う。話を聞いてこれは夫婦の問題だという殿村。「こういう問題はいくら精神分析をしてても、あなたの若さじゃわからんでしょうな。あの手錠は夫婦和合の役に立つもんです。いつか私が大人のオモチャ屋で買って、彼にやったんです」「大人のオモチャ屋?」

梢は大人のオモチャ屋に行き、そこで榊と会う。「こんなとこで会うとますますプレイボーイの烙印押されちゃうな。そうそう、君が話した婦人靴のデザイナーの話、小説に使わせてもらったよ」「そう。小説にするんだったら、別の話にするんだったわ」「ふうん。それも君の経験か」「もちろん」「聞かせてくれないか」「ダメよ。今忙しいから」「じゃあいつ会えるんだ」「今付き合ってる彼、とても自由を束縛するの。私が浮気してるんじゃないかと思って。二時間おきに電話かけてくるんだから」「じゃあ、暇なとき、ここに電話してくれないか」梢に名刺を渡す榊。

梢は手錠の合鍵を大人のオモチャ屋で購入し、ルミコを自由にする。ルミコは中沢と別れて実家に帰りたいというが、梢はその前に仕返しすべきだと主張する。帰ってきた中沢はルミコの鍵を外して、ごめんねと謝る。「でも僕は君を僕だけのものにしたいんだ」「もうイヤよ」「ルミコ。僕が悪かった。もう二度とあんな検査しないから」「本当にもうしちゃいやよ」「するもんか。手錠ごっこもしないよ」「本当。私、あなたに仕返しするつもりだったの。でも勘弁してあげるわ」「ルミコ。愛しているよ」「私もよ」

真夜中、中沢は大人のオモチャ屋で買った貞操帯をルミコに装着して寝る。朝起きた中沢はルミコがいずに、足に手錠をかけられていることに気づく。

こんなものつけられました、と貞操帯を麻生と梢に見せるルミコ。「ねえ、先生。お願い。彼が異常だって証明書書いてください」「とにかくそれを外さないと」「大丈夫よ、パパ。合鍵があるわ」中沢は殿村に手錠の合鍵をくれと電話する。大人のオモチャ屋に行った殿村は手錠の合鍵は若い娘が買っていったと店主に言われる。そこに現れる梢。「あの、貞操帯の合鍵ありますか」顔を見合わせて驚く梢と殿村。中沢を自由にした殿村は中沢を麻生診察室に連れて行く。「今日は君を上司ではなく、仲人として連れて行くんだ」

麻生に悩みを訴える中沢。「実はルミコが僕から離れていくんではといつも心配なんです。僕にはルミコに女としての喜びを味あわせてやる自信がないんです」「それはどうして」「僕、人より小さいんです。実は学生時代にトルコ風呂で馬鹿にされまして。それに週刊誌でも平均サイズより小さいことを確認しましたから間違いないです。それに早く終わってしまいますし」

セックスはサイズじゃありませんと説得する麻生。「本人に自信があるかどうかで決まるんです。夫婦の間に愛情さえあれば何の問題もないんです」麻生に励まされた中沢は男としての自信を取り戻し、ルミコを優しくそして激しく抱きしめる。

彼はサイズに劣等感を感じてたわけだ、と梢に聞く榊。「そうよ」「それも君の経験かい」「そうよ」「そうだとすると、君はその男と結婚していることになるじゃないか」「あら、その辺は私が作ったのよ。あなたの小説のために」「みんな作り話じゃないのか」「とんでもないわ。手錠も、変なテストも、貞操帯も、みんな本当にあったことだわ」「それじゃ早速ネタに使わしてもらうよ」「いいわよ。こんな話でよかったら、まだまだ沢山あるから。今度はどの彼のことを話そうかな。そうだわ、葬式の好きな彼もいたわ。彼は霊柩車や火葬場を見るとなぜかハッスルするの」

君はどれだけの男性経験があるんだ、と榊に聞かれ、急に言われても困るわ、と答える梢。「でも榊さんに比べると少ないわね」「僕は君のことがわからなくなったよ」二人に挨拶する芳枝。「だいぶ話が盛り上がってるわね」「榊さん、紹介するわ。この店のママさん、私にとってお姉さんみたいな人なの」

梢はどこに行ったと石川に聞く麻生。「多分、また下のスナックじゃないですか。暇があれば入り浸ってるようですから」「あのスナックのママさんはいい人だからな。気が合うんだろう」「気が合うってもんじゃないです。僕はあの二人は同性愛的関係にあると睨んでるです」「そんなまさか」「しかし一人娘には父親に対するコンプレックスからレスビアンになる傾向が多い。スナックのママは結婚に失敗した過去があるから、異性より同性に走りやすい。先生、梢さんにボーイフレンドがいますか」「……」「あの年頃にしては、これは絶対に異常です」

プレイボーイにはどういうタイプがあるのかと梢に聞かれ、二つのタイプがあるという麻生。「一つはドン・ファン型だ。これは母親もしくは恋人に対するコンプレックスから女性一般に復讐心を燃やし、ひたすら女を征服しようという女たらしだ。もう一つはカサノバ型。これは母親もしくは恋人に対する愛着が強すぎるから、ひたすら真実の愛を求めつつそれが満たされないという男だ。まあフェミニストといっていいだろう」

「ということはプレイボーイでもカサノバ型だったら良心的なわけね。ありがとう、パパ」「ところで、梢。お前は下のスナックのママをどう思っている」「好きよ。お姉さんみたいに」「お姉さん?」「本当はお母さんみたいに、と言ってほしいんじゃないの、パパ。見当がついてたわ。パパが再婚したいと思っていたこと。うふふ」

榊のマンションを訪ねた梢は、映画のラブシーンを写ったカードを見せる。「こんなもの見せてどうするの」「印象に残ったものを正直に選び出して」榊の選んだカードは清純なラブシーンばかりであった。「おかしいわ。これを見ると榊さんはちっともプレイボーイじゃないってことになるわ」「君、こんな写真どこで手に入れてきたの」「スナックのママから借りてきたのよ。あのマンションの三階に精神分析医の先生が診察室を開いているの。ママ、その先生ととても親しいの」「精神分析とかなんとか言っても、どうせヘボ医者だろ」「あら、とっても名医よ」

「そう。じゃあその名医に君を分析してほしいね。君の魅力が何に由来しているのか」「魅力?私は魅力があるの」「ある。僕が初めて女性に感じた魅力と言っていいくらいだ」「でも私はあばずれよ」「そんなことはどうでもいい」「……」「僕は君が好きだ。愛してる」

梢と口づけを交わした榊は、梢を抱こうとするが途中でやめる。「どうしたの」「……」「本当は嘘なのよ。私があなたに話した男の話は。私が好きなのはあなただけ。私、あなたが初めてなの」「……」「帰るわ」

榊は麻生の診察を受けにやってくる。その様子をビデオ室でチェックする梢。「実はセックスのことなんです。世間の噂では僕は大変なプレイボーイとなってますが、事実はまったく違うんです。女性との関係は何もないんです。昔から女性に対して一度も燃えたことがないんです」「すると、同性愛ということで」「何をおっしゃいます」「では、あなたのセックスの衝動はゼロと」「いや人並みにあるんですが、それを仕事で発散させているんです」「なるほど、スポーツ選手や芸術家によくあるタイプですな。つまり原子力にたとえるなら攻撃的に使うんじゃなくて、平和的に利用するタイプですな」

「ところが最近初めて原爆に使いたくなってしまって」「あなたを激しく燃え上がられる女性が現われたと」「そうなんです。それに対して原爆投下寸前まで行ったんですが、攻撃力を失ったんです」「なぜですか」「おそらく、死んだ妹とあまりにも似てたからだと思います。何しろ最初に会った時、妹かと思ったくらいですから」「あなたは亡くなられた言う妹さんを大層可愛がられたようですな」

「両親と死に別れて、ずっと妹と二人暮らしでしたから」「なるほど、あなたが攻撃力を失ったのは妹さんを犯してはいけないという近親相姦的な罪の意識が抑止力となったわけですな」「それでは僕は彼女に対して不能なのでしょうか」「それはあなた自身の問題です。よく似ていると言っても所詮は他人の空似。どこか違ってませんか」「そう言われれば、妹はいつもおかっぱ頭でした」「だったら相手の女にもそうさせて、何から何まで妹さんと一緒にして、あなたの原子力を爆発させてみるんです」

榊のところにおかっぱ頭で現れる梢。「君」「私はあなたの妹さんかないのよ。私は梢。あなたを愛している梢なのよ」榊に抱きつく梢。榊は梢に愛の原爆投下を決行するのであった。