博奕打ち 不死身の勝負 | ロロモ文庫

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昭和初期。去年から満州の撫順炭がどんどん内地に入ってきていると語る石島炭鉱の社長の石島。「筑豊の石炭業界は未曾有の不景気じゃ。だからわしらは筑豊共場会を結成して、各方面に陳情しとるたい。こげな時に全くけしからんのは、若松の花村海運じゃ。なんべん享受会が交渉しても、運賃を値下げせんたい。あげな運賃じゃ筑豊の炭は撫順の炭によう勝たん。もうわしらは我慢できん。享受会に逆らうヤツは許しておけんのじゃ」

花村海運のゴンゾーが集まる賭場に現れ、この賭場のカスリを取るのは誰かと聞く南九州一の遊び人で爆弾常の異名を持つ朝倉常太郎。「宮田組長ですたい」「それはおかしか。ゴンゾーの頭が賭場のカスリを取るとは。だいたいお前らゴンゾーは石炭運んどりゃええのじゃ」余計なことを言うなと言う宮田に、ここのカスリは俺がもらうと言う常太郎。「なに」「それでそのカスリをこのゴンゾーらに返してやるんじゃ」「ここは若松じゃ。いくらお前が爆弾常でも、お前の思い通りにはさせんぞ」「ははは。面白か」

常太郎と宮田は殴り合いを始めるが、共場会の殴り込みがあったため中断する。乱闘にまきこまれた娘を救い、ダイナマイトを使って大暴れする共場会に怒りを爆発させる常太郎。「爆弾常は爆弾など恐ろしくなか」ダイナマイトを奪って大暴れする常太郎。「ぬしたちは山に帰れ」

常太郎に感謝する花村海運の社長の花村は喧嘩に巻き込まれた娘はアヤと言って、うちから稽古事に通っていると説明する。「あいつら筑豊共場会いうとったけど、なんぞ揉め事でもあるんですか」「共場会いうても、大方は石島炭鉱のもんですたい。石炭の運賃の値を下げえとしつこう言うてきちょりますけえ、もうこれ以上下げられん言うとるんです」私の父も炭鉱をやっていると常太郎に話すアヤ。「荒尾亀之助って言うんです。父も共場会に入ってますけど、今度のようなことがあると、花村さんに申し訳なくて」

常太郎に宮田と仲直りしてくれと頼む花村。「宮田は反省してゴンゾーからカスリを取ってたことは間違いだったと言うちょります。ぜひお詫びしたいと言うとります」常太郎に弟分にしてくれと頼む宮田。「頼みますたい」わしは大きな賭場があると聞いて、それに勝負がしたいち思って熊本から出て来ただけだと言う常太郎。「若松でごぎゃんことになるとは夢にも思わんかったですたい」「弟分の一つくらい何の負担にもならんけえ、承知してほしかですよ」「そぎゃんまで言うなら仕方なかです。よかでしょう」

筑豊きっての大賭場に花村は常太郎も参加させると言うが、石島は新参者はだめだと難色を見せる。いいじゃないかと石島に言う荒尾。「わしは博奕好きでな。今日は爆弾常さんに教えてもらおうと思うとる。この間の事件で、あんたの名前は今や筑豊では有名ですけえのう。面白か勝負になるでしょう」

常太郎は花村から金を借りて荒尾とサシの勝負をするが完敗し、荒尾のところで働きたいと申し出る。「この借金はどげんしても花村社長に甘えることはできんですばい。あんたさんに三千円返すまで、わしの体、あんたの思い通りにしてください。このままでは熊本には帰れんです。わしも男です」「よか。ならわしんとこで働いてもらおう。今度鉱区を拡張したから二番納屋を作るたい。そこの納屋頭に来てもらおうかの」「ありがとうございます」

取引先である阪神製鉄の社長の息子の筧野義夫と専務の藤原を競馬場に招く荒尾。アヤに色目を使う義夫を見た石島は、藤原と義夫を料亭に招く。どれでも好きな芸者を持っていってくださいと言う石島に、私は好きな娘がいるんですと言う義夫。「若大将。荒尾の娘でしょう」「御存じ?」「今日、競馬場で荒尾に娘さんを差し上げたらどうかと言ったら、鼻の先で笑われましたわい」「鼻の先?そうですか。トホホ」

荒尾は失礼なヤツと憤慨する藤原に条件次第ではこの話をまとめると言う石島。「阪神製鉄にわしとこの炭を買うてほしかです」「それはどうも」「あんたとこは荒尾君とこの炭だけを買うとるか、わしんとこも半々買うてくれる言うなら、若大将の望みを叶えますたい」「困りましたな」藤原に何を考えてると怒る義夫。「石炭なんかどっから買うても同じやないか。ワイがお父ちゃんに言うてあげたるから」「は、はい」

常太郎になぜ挨拶に来ないと怒鳴りつける一番納屋の納屋頭の谷口。「気がつかんですいませんでした。何しろ山は初めてですけん、覚えにゃならんことが多すぎて。つい」「バカたれ。山で最初に覚えにゃならんことは、先輩後輩の礼儀たい。悪かと思うたなら謝れ。土下座して謝れ」「これでよかですか」「よし、挨拶はすんだ。じゃこの山を出ろ」「なんやと」「よそもんにこの山を荒らされてたまるか」「断る。おぬしの指図は受けん」「なんじゃと。爆弾常がなんぼのもんじゃい」

襲い掛かる谷口を石で殴って血まみれにする常太郎を「バカたれ」と怒鳴る荒尾。「同じ山の者をケガまでさせて、どないする気じゃ」「……」「あとでわしの所に来い」ケガをした常太郎の手当をするアヤに、そんなことはしなくてもいいと言う常太郎。「いいんです。常太郎さんは命の恩人なんですから」「……」「父に何を言われてもここをやめるなんてことを言わないでくださいね」

どんなわけがあっても言い訳にならないと常太郎を諭す荒尾。「お前が今まで通りの爆弾常でおるつもりなら、この山におってもらうわけにはいかんばい」「親父さん。わしはバカたれでした。親父さんから納屋頭ちゅう大きな仕事を任されながら、爆弾常の本性ば捨てきれずにおった恥ずかしか男ですたい。親父さん、頼みます。どんな仕置きでも受けますから、仕事だけは続けさせてください」「……」

「わしは精一杯働いて、親父さんの借りを返すしか能のない男です。それにわしはこの山に来て、働く楽しさ言うものをやっとわかるようになったです。わしはなんとかして生まれ変わろう思うとります。わしは誓います。二度と喧嘩ばしません」「常太郎。お前、よくそれまで決心したのう」「親父さん。それなら許してもらえるとですか」「うむ。うむ。お前さんは性根のすわったよか男じゃ」

あんたは阪神製鉄に設備のことで借金しとるそうですなと荒尾に言う石島。「藤原さんから聞いたんですわ」「うちと阪神製鉄は長い付き合いじゃ。借入金のことは円満に話がついとる」「わしは社長の御曹司とお宅のアヤさんの縁談を頼まれとる。この話を断るなら、阪神製鉄は融通した資金を返してほしかと言うとるです。それにあんたとことの取引もやめると」「そげなバカな」「わしに怒鳴ってもしょうがなかでしょう。わしは頼まれたことをあんたに伝えに来ただけですばい」

常太郎に久し振りですと挨拶する宮田。「おお、花村さんは元気かい」「へえ、おかげさまで」「今日は何の用や」「石島炭鉱に運賃ばもらいに来たとです。ところが今日は社長がおらんと言われて」「ほうか」「わしは金もらうまで粘るつもりですたい」

宮田は谷口の仕切る賭場で大勝するが、石島炭鉱の経理係の塩屋に自分の金で勝負してくれと頼まれる。「今まで負けた金は鉱夫たちに払う給金なんじゃ」「そんな金で博奕しとったんか」「魔が刺したですよ。わしは先月まで鉱夫しとったんです。初めて大金を手にして、ついフラフラと」「金額は」「1200円」「残りは」「200円。お願いします。あなたの腕だけが頼りです」

宮田は谷口にサシの勝負を挑むが、大敗してしまう。石島炭鉱に帰ったら殺されると言う塩屋に代わりに俺が行くと言う宮田。それを聞いて、お前はバカだと宮田を殴る常太郎。「お前が行っても、石島のヤツらに嬲り殺しにされるだけで、塩屋さんも助からん。お前は石島から金ばもらえんで、犬死にじゃ。お前は花村運送のゴンゾーまで道連れにして、飢え死にさせる気か」「……」「無駄に命を捨てるが、男じゃなかぞ。よか、この件はわしが話をつける」「あんちゃん。それはいけん」「宮田。わしはお前の兄貴じゃ。わしが行くのが当たり前じゃ」「……」「心配すな。わしは死なん。ちゃんと話ばつけてくる」

塩屋をどこにやったと制裁を受ける常太郎は銭は絶対返すと石島に言う。「今日中にでも返してやる」「ほう。お前、そんな金があるのか。どこにあるんじゃ」「……」そこに現れる荒尾。「石倉さん。うちの納屋頭が迷惑かけたそうで。ここに1500円ある。気持ちよう受け取ってほしい」「300円の利子をつけてもろうて、荒尾さんに頭を下げてもろうたら許さんわけにいかんじゃろう」何も言うなと常太郎に言う荒尾。「話は全部宮田さんから聞いとるばい」「親父さん」

常太郎に会いにアヤを連れて現れる花村。「花村さん。ご無沙汰してます」「いや、それえはお互い様です。こないだは宮田がお世話になったそうで」「いや、兄弟分ですけん、当たり前のことをしたまでで」「ところでアヤさんに阪神製鉄の縁談の話があるのは知っとりますか」「ええ、噂で聞きました。ばってん、わしらのような下っ端には何の意見も言えんことですたい」「あんたも納屋頭じゃから、阪神製鉄から荒尾さんが借金しとることは聞いとるじゃろ」「……」

父は縁談の話があるとだけ話したと言うアヤ。それで私のとこに相談に来たと言う花村。「でもうちもどうしてええかわからんけえ、あんたを頼ってきたとですよ」「親父さんはこの炭鉱に住む500人の命ば預かっておられます」「常太郎さん。あんたは私に山のために人身御供になれと言うんですか」「……」

アヤはあんたが好きだと常太郎に言う花村。「あんたはどうなんね」「……」「あんたも好きなんじゃろう。二人で逃げない」「逃げる?」「逃げたら阪神の若旦那も無理は通さんやろう」「親父さんとこの山ば見捨てて逃げるとですか」「常次郎さん。私はどんな苦労もします。どんな遠くでも行きます」それはできないと言う常太郎。「お嬢さん。花村さん。それだけはできん。それはわしに男ば捨てろと言うことですたい」

家と土地を担保にして2万円を銀行から借りた荒尾は、今度の賭場でこれを元手に10万円にすると常太郎に言う。「それしか阪神からの借金を返す方法はなか」「するとお嬢さんの縁談を」「たった一人の娘を不幸にはできんばい」

荒尾は石島にサシの勝負を挑むが、40万負けて、炭鉱の権利書まで奪われてしまい、常次郎に「一世一代の勝負に負けた。アヤを嫁にもらってくれ」と遺書を残し、ピストル自殺をする。権利書を石島に渡した常太郎はサシで勝負したいと申し出る。「わしは命をかける。ぬしは石島炭鉱と荒尾炭鉱を賭けろ」「お前の命にそれほどの値打ちがあると言うのけ」「ある。勝負しないならこのピストルでお前の命をもらう」「面白か」

常次郎はサシの勝負に勝つが、石島はピストルで常次郎の命を奪おうとする。怒り狂った常太郎は石島の腹にドスを突き刺し、石島をあの世に送る。アヤに権利証を渡し、花村に後始末を頼んだ常太郎は、警官たちとともに警察署に向かうのであった。