博奕打ち 一匹竜 | ロロモ文庫

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大正初期、東京で彫物師の修行を積んで大阪に帰ってきた渡世人だった相生宇之吉は、幼馴染の立花に彫物を施し、立花と銭湯に行く。銭湯で宇之吉の身体に施された刺青を見て、これは見事な一匹竜やと感心する源太郎。「これは彫安さんの六、七年前の作だんな。ワイにはわかるんです。この竜は彫安さんの専売特許だず」「あんさん、詳しいんだな。彫安さんは今でも大阪の彫物師仲間で一番だっしゃろうな」彫安はもうダメだという源太郎。「今、大阪で一番言うたら彫久さんだっしゃろうな」

誰か彫物師の中で忘れてる人はいないか、と立花に聞かれ、そうやと手を打つ源太郎。「関東でえらい名をあげて。大阪に戻ってきた彫宇之。ワイはこの人のをまだ見たことないんやが、評判通りだったら、彫久さん以上の腕前でっせ。なんせ、関東の親分連中が争うて彫ってもらったそうやからな」彫安は酒と博奕で身を持ち崩したという源太郎。「娘は松島の松月楼で小雪いう名で女郎してまっせ」松月楼はうちの親分が娘さんにやらせている店や、と宇之吉に言う立花。

銭湯に狼の刺青をした男が現われ、立花の刺青を見て、それがお前の幼馴染の彫った奴かと立花に聞く。「へえ、こちらがワイに墨を入れてくださった相生宇之吉さんだず」「おまはんが宇之吉さんだっか。ワイは大勧進一家、鬼若組組長鬼若だ。一言いうとくが、彫久はワイの実の兄や。彫久に盾つくことあったら、ワイが黙ってへんで」「へえ」「あんた、本家の盆には遊びに来るようやけど、たまにはうちの盆にも遊びに来てや」「へえ。おおきに」

立花の刺青を笑う鬼若。「それは虎のつもりかい。ワイには猫にしか見えんで。ハハハ」むっとする立花を制する宇之吉。宇之吉に土下座して、源太郎は弟子にしてくれと頼むが、ワイはそんな身分やないと断る宇之吉。

松月楼に行った宇之吉は、小雪が亭主で人夫の長之助から息子の芳夫が病気になっていると聞かされ泣いているのを耳にする。「お前にこんなこと言うても、ここから出れんのはわかっとるんやが」「で、病気の具合は」「えろう熱があるんや。でも医者に見せる銭もないしな。ワイに甲斐性がないさかい」「お父さん、どないしてます」「毎日、ぼんやり川を見てばかりや」

小雪は一家四人で心中しようと言い出す。宇之吉は女将のお君と会い、子供が病気なので小雪を少し外出させてくれと頼む。「ワイ、あの人のお父さんをよう知ってまんねん。それで、なんとかしてやりたいんです」

了承しようとするお君は、それはダメだという鬼若。「宇之吉さん。この松島では女郎に勝手な真似はさせへんのじゃ」「鬼若はん。あんたに頼んでるんやないで」「相生。この松島は大勧進一家が預かってる。この店で廓のしきたり破ることができると思うのか。お君さん。あんたのお父さん呼んで、はっきり話をつけましょう」「ええわ。血も涙もない廓のしきたりは今日かぎり変えてもらいましょう」長之助は小雪を足抜けさせようとするが、鬼若の子分の蛇熊と鬼念仏に見つかってしまう。

なんてことをしたの、と言うお君に、子供が死にかけてるんですと訴える長之助。そこに現れる大勧進一家の親分の伊勢。「だいたいの話は聞いた。ここに来るまで、宇之吉さんの言うとおりにしようと思ってたが、足抜けしたなら話は別や。仕置きもせなならん。廓には廓の掟がある。不人情なようやけど、今晩は小雪を出せません。そやけど、子供が病気いうのに双親帰さんわけにいかん。亭主の方は関係なかったことにします」不服そうな顔をする鬼若に、小雪を部屋に戻すよう命令する伊勢。

医者を連れて、長之助とともに長之助の家に行った宇之吉は、彫安に久しぶりでしたと挨拶する。「六年前に親父さんに一匹竜入れてもらった相生宇之吉だす」彫安はもう気力もないし、針を持つ手も震えてしまうと泣き言を言う。「ワイはど阿呆や。鬼若にまんまと乗せられたんや。あいつの兄は彫安いう彫物師や。あいつらにとって、ワイは邪魔者や。ワイをうまいこと博奕に誘い込み、はっと思った時には借金で首が回らんようになって、小雪を女郎に売る有様や。孫が病気しても医者にかけられんほど堕ちてしもうたんや」お母ちゃん、とうわごとを言う芳夫。

伊勢は鬼若と彫久に英国の偉い方に刺青を入れることになったと話す。感心する彫久。「外国では日本と違って身分の高い方に刺青入れるんでんな」「そこで日本一の彫物師を探しとるそうやが、今は東京より大阪にええ彫物師が集まってるそうやな」「そうです。大阪で一番なら日本で一番。わてにやらしておくんなはれ」「でも、親分衆の中では彫安いう声もあってな」「何言うてますのや、親分。彫安の時代は終わりましたで。噂ではボケみたいになってると」「宇之吉の名前も出た。とにかく五日後の男の節句に刺青大会開いて、そこで一番になったのを推薦しようということで話が決まった」

長之助から小雪の借金が250円と聞いた宇之吉は、鬼若組の賭場に行き、100円ほど稼いで、お君のところに行く。「今のワイにはこれが精一杯です。あとの150円はなんとかしますから、これで小雪さんを自由にしてやてください」「それは困りますなあ。250円耳揃えてもらわんと。廓には廓のしきたりがおますさかい」「子供には母親が必要です。小雪さんがいないと、あの子は助かりまへんやろ」

150円を私に出させてくれと言うお君。「そのかわり、うちの背中に墨入れておくれやす」「それはあきまへん。刺青は女子やカタギさんに辛抱できるもんやおまへん」「ウチかて大勧進親分の娘です。男には負けまへん」「なんで刺青を」「ただの刺青やおまへん。あんたの刺青をしてほしいんです」

お君に刺青をすることを了承する宇之吉。お君は小雪と一緒に行ってくれと宇之吉に言う。「そやけど、今日だけは小雪を帰してください。小雪の証文はお父ちゃんが持ってるさかい、うちからお父ちゃんにきっちり話しするまで、小雪は天下晴れて自由な身やおまへん」「わかりました」「晩の九時までに返してもらいます」

小雪が帰ってきて元気を取り戻す芳夫。宇之吉は彫安にまた彫物師に戻ってくれと懇願するが、ワイはもうあかんと呻く彫安。小雪はもろ肌脱いで、父の彫った観音様の刺青を見せる。「これだけの彫物師は日本中おらへん。芳夫のために昔のお父ちゃんに戻って」長之助は自分の体を使って、刺青の勘を取り戻してくれと言う。皆の熱意にほだされてカムバックを決意する彫安。

宇之吉がお君に刺青入れるという約束で、九時まで小雪を預かったと鬼念仏から聞き、血相を変えるお君に惚れている鬼若。「よし。九時までに小雪が松月楼に帰らんかったら、宇之吉は一巻の終わりや」宇之吉は彫安の手伝いをするために、立花と立花の子分のでこ松に小雪を松月楼に送ってくれと頼む。それを待ち伏せた鬼若は、立花を料亭に誘い込み、蛇熊と鬼念仏にでこ松を襲わせ、小雪を拉致してしまう。

鬼若は宇之吉に小雪をどこにやったんじゃと詰め寄り、足蹴りを食らわせる。ひどいことをするなと鬼若をなじるお君。「うちから言いだして小雪を出してやったんさかいな」それは違うという宇之吉。「ワイが無理矢理おかみさんを説き伏せたんだす」「宇之吉はん。あんた何言うのや」「大観寺の親分さん。もうしばらく待ってください。ワイはどんなことがあっても小雪さんを取り戻します」伊勢は五日間目をつむるという。「小雪が戻ってきたら、あんたとお君の身の証を立てられるんやろな」「へえ。間違いなく」「五日たっても、小雪連れてこんかったら、あんたの命もらうで」

病院に運ばれたでこ松は、蛇熊と鬼念仏に襲われたと話す。宇之吉と立花は鬼若組の若僧に痛い目を合わせ、蛇熊と鬼念仏が小雪を連れて、四国の琴平に行ったことを突き止める。琴平に赴いた宇之吉は、小雪が琴平きっての貸元である岩切から300円で女郎屋に売られたことを知り、岩切と会う。

宇之吉から事情を聞いて納得する岩切。「でも、わしは伊勢とは義兄弟や。その伊勢の若い者二人が仁義を切って、あの女を頼みに来たんや。お前にあの女を渡すと、若い者二人の顔を踏みつけることになる。それでは渡世の仁義に外れる。だが、おまはんがきっちり銭であの女を身請けするなら話は別やで」宇之吉は自分の右腕を300円で買ってくれと岩切に申し出る。

「ワイは彫物師だす」「おまはん、本気か。その右腕はおまはんの命やろ」「小雪はんを連れて帰らなんだら、ワイの命は終わりだず。お君さんには迷惑かけるし、彫安さんもあかんようになるでっしゃろ。そのためならワイの右腕くらい安いもんです」宇之吉の右腕を買うことを了承する岩切。右腕を斬られることを覚悟する宇之吉であったが、岩切は刀を鞘に納め、300円を卯之助に渡す。「わしは300円であんたの右腕買うたんや。落す落さんはわしの自由や」

刺青大会が明後日に迫り、源之助はでこ松に刺青を彫らせてくれと頼む。宇之吉と小雪が大阪に戻ってくると聞いて、あせる鬼若。「こうなったら邪魔する奴は皆綺麗さっぱり片付けたるわい」鬼若たちは宇之吉が戻ってくると朝の六時に戻ってくると一時間早い時間を立花に言って、港に現れた立花を殺して海に放り込む。港に着いた宇之吉と小雪も亡き者にしようとするが、船に乗り込んできた岩切の貫禄に圧倒され、手を出せずに退散する。

小雪を彫安たちのところに帰す宇之吉とお君。長之助の刺青を見て、彫安の腕が元に戻ったと喜ぶ宇之吉。岩切の親父がまずい時にきやがった、と蛇熊と鬼念仏に愚痴る鬼若。「お前ら、岩切に見られんように旅に出ろ」「へい。ところで明日の刺青大会に宇之吉や彫安を出させるんで」「なんで出さすかい。お前ら、あいつらばらして、旅に出るんじゃ。ワイが大勧進の三代目継いだら、お前らにもええ眼見せたるわい」港から立花の死骸があがり、怒りに身を震わせる宇之吉。「ワイのためにこんな姿になりよって」

刺青大会に向かう宇之吉と彫安は蛇熊と鬼念仏に襲われる。刺青大会が始まり、見事な刺青を施したフンドシ姿の男たちが次々と現れる。一同がその出来栄えに感心する中で、源太郎がでこ松に掘った「おかめひょっとこ」は失笑を買う。彫久が鬼若に彫った「狼」が満場一致で優勝と決まりそうになったとき、血まみれの宇之吉が彫安を伴って現れる。

「申し上げたいことがおます。こんな姿で遅れて申し訳ない。ワイが彫宇之でございます」「あんさんの墨入れた男、おらへんのか」「この大阪でワイがたった一人、墨入れた男は昨日殺されました。そやけど、この大阪にはワイの及びがつかんほどの彫物師がいます。それは彫安でおます。この場で彫安の刺青を見ていただきます」諸肌脱ぐ宇之吉。「これが彫安作、「一匹竜」でございます」

その見事な出来栄えのため、優勝は満場一致で彫安と決まる。はははははと高笑いする岩切。宇之吉は鬼若の悪事を暴露する。「お前は小雪さんを大勧進の名前を使って、岩切親分に300円で売ったな。同じ一家の立花を桟橋で殺して海に沈め、ワイと彫安さんを刺青大会に出せんようにと子分を使って襲わせたな。なんちゅう卑怯な奴なんや」

ワイは何も知らんでという鬼若を一喝する伊勢は、ボコボコにされた蛇熊と鬼念仏を連れてこさせる。「二人は何もかも吐いたんや。鬼若、お前は破門や」ヤケクソになった鬼若はドスで宇之吉を刺そうとする。岩切からドスを貸してもらった宇之吉は、このケリはワイがつける、殺された立花の仇をとる、と宣言して、鬼若を地獄送りにする。

堪忍してくれとお君に言う宇之吉。「あんたの背中に刺青入れる約束破ってしもうて」「うち、いつまでも待っています」正当防衛やと宇之吉に言う岩切。「約束を果たす日はそう遠くない」ありがとうございましたと宇之吉は誰ともなく礼を言うのであった。