作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(253)」 | ロロモ文庫

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長寿料理対決(4)

琉球大学の尚教授と会う山岡たち。「先生の「南の島の栄養学」と言う本を拝読させていただきました」「沖縄の人間の長寿の秘密は食事にあり、ということで、それを探りにいらしたのね」「シンジ料理を試食して、とても素晴らしくて感動しました」「でも世界的に見ると、沖縄の食が普通で、本土が特殊と言う意見もありますよ」「え、沖縄が普通で、本土が特殊?」

「日本の場合、世界中で最も貧弱な栄養の料理体系である、と。油がない、肉がない、魚も海や湖から離れると、ロクな物がないと」「なるほど、動物性蛋白質が不足してるんですね」「沖縄の食事では豚がとても重要です。昔の沖縄の食事は大変貧しくて、一日三食サツマイモばかり。明治から大正期にかけては、日常食の90%以上がサツマイモだったのです」「まあ。そんなにサツマイモを」

「米みたいに美味しくないかもしれませんが、同じカロリーを摂取するために食べる量で比べると、サツマイモの方がずっとビタミンやミネラルが多い。腸の中をキレイにする繊維質も沢山あるし」「でも、蛋白質が穀物に比べると少ないんじゃありませんか」「そこで豚肉が重要になってくるんです。沖縄では行事の際には必ず豚肉の料理が出ます」

「でも、そんな行事は滅多にないでしょう」「一軒ごとに考えればそうですが、沖縄では村などの共同体や親族の結びつきが強いから、一軒の家で豚を殺すと、それをあっちこっちに配るんです。互いに配ったり配られたりすると、最低でも月に一、二回は豚を食べていました。それなら栄養摂取として、考えることのできる量になります」「なるほど」

「豚は肉は勿論、内臓や血も肋骨も耳も足も食べています」「肋骨もですか」「ソーキソバというソバには肋骨を柔らかく煮たのが乗ってます。少し歯ごたえがあるけど、バリバリ食べられる」「足は足テビチとしていただきました」「足には水と加熱するとゼラチンに変わるコラーゲンが沢山含まれていますからね。血管を丈夫にするには、なくてはならぬものです」「豚を上手に食べるのが、沖縄の長寿の秘密なのね」

「もう一つ、沖縄では海藻を沢山食べます。一人当たりの昆布の消費量は沖縄が日本一。昆布だけでなくいろんな海藻を食べるんです。沖縄のモズクは本土のより太くてモチモチして美味しい。しかもそれを丼で沢山食べます。日本人の食事の不足しているカルシウムを昆布は沢山含んでいて、しかもその吸収率は79%と言う高い値を持っているんです」「それは凄い」

「カルシウムをだけでなく、海藻にはミネラル、カロチン、ビタミン、必須アミノ酸も含んでいます。昆布を口の中で噛むと、ヌルヌルした感じになりますけど、あのヌメリが食物繊維なんです。食物繊維はコレステロールを下げ、癌や成人病の予防にも有効なんです」「海藻はまさに長寿食なんですね」「さらに苦菜とか苦瓜とか、沖縄独特の野草や薬草の類も、沖縄では日常的に食べています」「ふうむ」

「沖縄独特の食を私はこう捉えています。第一に豚肉、第二に野草、薬草、第三に海藻、第四に豆腐。昔はこれに加えてサツマイモがあったわけです」「豆腐?」「沖縄には昔通りの本格的な豆腐を作っている豆腐屋さんがあちこちあります。本土の豆腐に比べて、味は濃厚です」「うむ」「私の話は参考になったでしょうか」「究極のメニュー、長生きのための料理。それができた時、先生からどんな知恵を授かったか、明らかになると思います」

沖縄料理屋に行く一同。「尚先生のお話を伺ってたら、どんどんお腹が減って」「ゴーヤ・チャンプルーです」「チャンプルーと言うのは、豆腐と野菜を油で炒めた物のことです。ゴーヤ・チャンプルーはまず豆腐をこんがり炒め、そこに種を抜いたゴーヤを薄切りしたものを加えて炒めるんです」「ゴーヤの苦味と豆腐の油の甘味がいい塩梅に調和して」「なんだか後を引くねえ」

「白イカのスミ汁です。白イカの肉を豚の脂身と苦菜と一緒にじっくり煮て、イカの肉が柔らかくなったら、仕上がりにイカのスミを加える」「ふわふわした豚の脂身ともちもちしたイカの肉の感触がたまらないわ」「イカのスミって全体の味を力強くするのね」「うむ、まさに海の幸だ」「もっと海の幸を味わいたいわ」「では、行きましょう。時間です」「え、どこへ」「石垣島です」「まだラフティとかフーチバ・ジューシイとか食べたい」「ダメです。飛行機の時間に遅れます」

飛行機に乗る一同。「あら、見えてきたわ。石垣島よ」「え、石垣島ってサンゴ礁がキレイなので有名なんでしょう。サンゴ礁と言えば白い砂浜にエメラルド色の鮮やかな海のはずなのに」「海の水が赤土色」「川の色は赤土で真っ赤だ」

サトウキビとパイナップルのせいですと言う長谷川。「政府は石垣島の農業振興策として、サトウキビとパイナップルの栽培に補助金を出しているんです。ですから農民はせっせと畑を広げる。畑の土止めを十分にしない上にコンクリートの排水路を作ったから、雨が降ると土が流れて側溝から川に流れ込む。それが結果として海を汚すんです」

「そんなバカな。今、砂糖は世界中で生産過剰で、典型的な不況産業だぜ。国内で作るより、遥かに安い価格で輸入できるはずだ。パイナップルにしたって品質的に外国産と競争力のある物ができるかどうか疑問だね。ましてや、海を汚染してまでする価値はない」「作るなら作るで、どうして赤土が流れ出ないようにしないの」

「ハワイのオアフ島でもパイナップル作りは盛んだよ。土の色も同じ真っ赤だ。しかし雨が降るたびに、ハワイの海が赤く染まるなんてこと、聞いたこともない」「ハワイでできることが、どうして石垣島できないの」「見た目に美しくないだけじゃない。赤土が海にこんなに流れ込んでちゃ、サンゴ礁が死んじゃうよ」

石垣空港を着いた一同を迎える蒔市と三咲。「蒔市さんもいらしてたんですか」「あなた方に見せたいものがあってね」「なんですか」「論より証拠。実際に見た方が早い」「やあ、ありがたい。雨が上がったぞ。これでいい写真が撮れる」

白保海岸に到着する一同。「わあ、キレイ」「ここのサンゴ礁は世界一だと言う人も数多くいます」「魚や海藻も沢山サンゴと共棲していて、白保の海は魚湧く海と言われるほど、豊かなんです。だから僕のようなウミンチューが、白保の海のおかげで生活できるわけです」「よお、三咲さん、潜らんの?」「あ。すぐ支度するから待っとって。ウミンチュー仲間の坂盛さんです」

ふうんと呟く坂盛。「今日、空港建設推進派の連中が、東京からお偉いさんを連れてくるということだったが、あんたたちじゃないみたいだな」「空港?」「あ、聞いたことがあるわ。石垣島に空港を新しく建設しようと言う動きがあって、長い間、賛成派と反対派が揉めているって」

「今、本土の資本がどんどん入って来て、石垣島全島をリゾート地にしようと言う動きが活発でね。そのためには東京や大阪から観光客を直接大型ジェット機で送り込みたい。それには今の空港では不十分だと言うんだ」「で、どこに、その空港を作ると言うんですか」「ここだよ。この白保の海だ」「え」「ここを埋め立て、その上に空港を作ると言うんだ」

「そんなバカな。世界一と言うサンゴ礁を埋めてしまうなんて」「県の方では埋め立てに引っかかるのはサンゴ礁のごく一部だから、全体に影響はないと言うが」「冗談じゃない。今だって赤土が海に流れ込むのを何もしないで放っておくんでしょう。いくら埋め立てるのが一部でも、土砂は今よりはるかにひどく広がるのは明白じゃないですか」「この白保の海を埋めてしまったら、一体どんな光景になるのかしら」「想像するだけでもたまらないね」「あ、あれだよ。空港建設推進派が東京から呼んで来たお偉いさんと言うのは」

「え、海原雄山」「海原先生は空港建設に力を貸しておられるのか」「ぬう」「海原雄山はそんな低劣な人間だとは思えない。でも、なぜ」「ほら、あのごつい体の男。日本中にリゾート地を開発している筒金グループの会長の筒金だよ」

「海原先生。ここはリゾート地にはもってこいの空港になりますよ。美しい海岸線を見ながら、そのまま着陸するんですからなあ。我々も大型ホテルをはじめ、石垣島リゾート開発に力を注ぎ込む予定です。そこで、先生にお力を貸していただきたいのです」「ぬ。士郎」「あれは空港建設反対派の連中です。石垣島の発展のことも考えず、何でも反対するバカどもです。どうぞ無視してください」

「筒金会長。私に石垣島リゾート開発の手伝いをしろと言うのですな」「私は先生を総合的な芸術家として尊敬しています。ですから、我々のリゾート開発の計画の立案から先生にお願いしたいのです」「では、この場で返事をしましょう」「え」「私は至高のメニューの一つとして、長生きのための料理を作らなければならぬのですが、その長生きのために料理作りの案が閃きました」「おう。その料理を新しく建てるホテルの自慢メニューにさせていただきたいですな。ははは」