関東果たし状 | ロロモ文庫

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大正14年正月。新年会を開く滝井組組長の滝井政次郎は代貸の本庄に三次はどこに行ったかと聞く。「それが妹の働いている川崎の安井紡績の工場で阿久津一家が暴れてると聞いて、乗り込んで行ったそうです。その紡績工場の女工の寄宿舎がまるっきり生き地獄みたいなところで、女工たちは正月と言うのに国にも帰らないで、会社との話し合いがつくまで寄宿舎で頑張ってるそうです。それで業を煮やした工場長が力づくで追い出そうと、阿久津一家を」「取返しのつかないことになるとまずい。行ってみよう」

阿久津一家の石岡ら相手に立ち回りを見せる三次。そこに駆け付ける滝井に何しに来たと言う石岡。「なんでえ、蒲田くんだりから。この川崎は阿久津一家のシマだぜ」「もめ事と聞いたからには、みすみす黙っちゃいられないんでね」「俺たちは工場長に頼まれてやってるんだ」「女工さんたちも話がわかれば無茶はしないはずだ。それを大の男が寄ってたかってやってるところを見ると」

なんだとと気色ばむ早瀬を制する石岡。「こいつを相手にしなくていい。やれ」石岡たちに出て行ってくださいと言う女工の佐川ゆき。「あんたたちには血も涙もないんですか。私たちは何も難しいことは言ってません。みんな貧乏に慣れてますから、食事や部屋が悪くても文句は言いません。だけど3人も病気になってるのに医者にさえ見せてくれないんです。だから私たちは正月休みを返上して工場長さんにお願いしてるんです」ゆきにお前が張本人だなと折檻をくわえる石岡に激怒する滝井。「てめえはそれでも男か。本庄、俺は工場長さんに会って話をつけてくる。病人さんを早く入院させるんだ」「へえ」

工場長の辻に文句を言う滝井。「工場長さん。タン壺と金は汚いほどたまると言うけれど、女工さんたちを絞れるだけ絞るってのは、社長さんの命令ですかい」「君にそんなことを言われる筋合いはない」「とにかく3人の病人はあっしが預かっていきますぜ」頭に来た早瀬は滝井めがけてダイナマイトを投げつける。滝井は何とか交わすが、とばっちりを受けたゆきは目を負傷してしまう。

石岡に女工たちを傷めつけたそうだなと聞く阿久津一家の代貸の日野。「それがどうしたい」「おまけに蒲田の滝井組と揉めたそうじゃないか」「いや。俺は親分の言いつけでやったんだ」「俺は大きなもめ事になるのが嫌なんだ」「そうかな。お前と滝井が幼友達だから、それで気を使ってるんじゃねえのか」「なんだと」阿久津に会わせろと日野に言う滝井。「滝井。喧嘩を売りに来たなら断るぜ」「日野。俺は素手だぜ」

阿久津に川崎にうちの会社が新工場を作ることになったと言う辻。「それどころがうちの社長は京浜地区に一大工業地帯を作る計画を建てているんです」「工業地帯」「問題は建設工事ですが、今までは関東梅島会に請け負わせていました。だが、阿久津さん。この川崎はあんたの地盤だ。私はどんなことがあってもあんたに請け負ってもらいたい」「よっぽど梅島会が嫌いなようですな」「ああ。あの滝井って男は関東梅島会の身内でしょう。実に慇懃無礼なやつだ」滝井が来たと聞いて、慌てて退散する辻。

阿久津に説教する滝井。「かよわい女工を苛めたり、闇討ちをかけたりするのは男のすることじゃねえ。どっかのバカが俺にダイナマイトをぶつけてきた。そのとばっちりを受けて、今、一人の女が盲になろうとしてるんだ。男と男の勝負は正々堂々やるもんだぜ」「お前、ケンカを売りに来たのか」「ケンカを売ったのはあんたの方だろう」ムッとする阿久津に今日のとこはあっしの顔に免じてととりなす日野。多摩川から西は俺のシマだと滝井に言う阿久津。「今日のところは帰ってくれ」

正月早々えらい目にあったなと滝井に言う関東梅島会会長の梅島大五郎。「川崎の阿久津には一回しか会ってないが、俺たちに対抗して何か組織を作ろうと躍起になってるらしい」「あいつは任侠の道から外れてます」

安井紡績が川崎の埋め立て地に新工場を建てることが決まったと言う梅島。「安井社長は今度のもめ事を知らなかった。それで早速三人の病気の女工は面倒見ると引き取った。辻さんは相当叱られたそうだ」「そうですか」「今の川崎工場はいかにも古いし、前々からその計画があった。俺も安井社長にはお世話になってるし、今度の工事も関東梅島会でやらせてほしいと言ってきたところだ。だか川崎は阿久津の縄張り。阿久津も黙っちゃいねえ。安井社長もその辺のところを気にされて、目下のところはまだ白紙だ。それで事前に阿久津ともめ事を起こさないでほしいとおっしゃってる」「わかりました」

見舞いに来た滝井に帰ってくださいと言うゆき。「私の目が見えなくなるんです。ヤクザなんて大嫌い。私にはよく見えるんです。あんたたちの汚い心が」再び見舞いに来た滝井にさっきはすいませんでしたと詫びるゆき。「散々お世話になっていながら、あんなことを言って」「いや、ゆきさん。あんたの言うとおりなんだ。あんたをこんな不幸な目に合わせたのはみんな俺たちなんだ。勘弁してくれよ」

阿久津は神奈川の親分衆に呼びかけて、神奈川北斗会を結成する。院長は手術すれば目が見えるようになると言っているとゆきを励ます滝井。「ゆきさん。手術を受けてくれ」「滝井さん。あなたっていい方ね」安井に川崎新工場は地元の北斗会と五分五分にしてくれないかと頼む梅島。「でも、今まではずっと君のところに」「今回は五分五分でお願いします」「よくわかった。これで万事うまくいく。しかし君はわざわざ仕事を」「我々土建業者は皆仲間です。持ちつ持たれつですよ」

阿久津に新工場の割り振りが決まったと言う安井」「請負工事は関東梅島会。人夫と資材は神奈川北斗会にお世話を願いたい」その割り振りは不満だと言う阿久津。「請負をやらしてもらえないのは母屋を取られるようなもの。よく考え直してください」阿久津はダメな男だと梅島に言う安井。「梅島君。君のところで明日2月1日に鍬入れ式を行ってくれ」「わかりました」

日野に梅島を殺せと命令する阿久津。「お前も阿久津一家の代貸だ。組のために男になってこい」「わかりました」工事名義人を滝井にすると言う梅島。阿久津の代理で来たと言う日野は梅島を刺そうとするが、滝井に止められ、梅島会の若い者に刺されて死ぬ。日野が失敗したことを見届けた早瀬は梅島を狙撃するが、急所を外してしまう。北斗会は鍬入れ式を阻止しようと人を集めていると梅島に言う安井。「このままでは明日の鍬入れ式は大変なことになる。一時工事を延期してはどうだろうか。わしとしてはできるだけもめ事は避けたいんじゃ」

工事は延期しても意味がないと安井に言う滝井。「阿久津は京浜地帯の工事を神奈川北斗会で独占しようと考えている男です。阿久津に一歩譲ると京浜地帯の工事は彼の汚れた手で握られてしまいます。社長さん、女工さんたちには一日も早く新工場でよい環境で働かせてください。工事は延期しないでください」「わかった。弱気になったわしが恥ずかしい。滝井君。梅島君。予定通りにやろう。では明朝、鍬入れ式の現場で会おう」

阿久津のことは任せてくださいと梅島に言う滝井。「それが工事名義人のあっしの仕事です。会長は安井社長と立派に鍬入れ式をやっておくんなさい」「じゃあおめえは」「あっしには喜んで死んでくれる子分が50や60はいます」「滝井」

助っ人は600人は来そうですと阿久津に言う石岡。滝井の果たし状を阿久津に渡す三次。「親分。返事をお願いします」「帰って滝井に伝えろ。確かに承知したと」北斗会に果たし状を叩きつけたと子分たちに言う滝井。「みんなは俺を盃を交わした時、畳の上では死ねないと覚悟をしてくれたはずだ。会長が撃たれて、この弔い合戦は何としてもやらなくちゃいけねえ。みんな俺と一緒に死んでくれるんだな」「へい」

ゆきを見舞いに行く滝井。「明日はいよいよ手術だな」「滝井さん。手術の時、そばにいてくれる?」「いや。明日は新工場の鍬入れ式があるから」「そうなの。そうだったの。その工事を滝井さんがするのね」「そうだ。俺の一生を賭けた大工事だ」「早くよくなって、その工場で働きたいわ」「だから今夜は手術に備えて、ゆっくり休まないと。きっと手術は成功する」「でももしダメだったら」「ゆきさん。心配することはねえ。手術の結果がどうなろうと、俺が一生あんたの杖になる」「滝井さん。好きよ。初めて会った時から」「ゆきさん」「一生目が見えなくてもいいわ。いつまでもあなたといたい」

滝井らは決死の覚悟で果し合いに臨み、本庄や三次は命を落とすが、滝井は一対一の勝負を阿久津に挑み、見事に勝利する。血まみれになって鍬入れ式に現れた滝井に、お前のおかげで無事に式が終わったと言う梅島。「お前がキレイな体になって出るころには、ここで工場が煙を吐いている。もう泣いてる女工はいねえ」滝井はゆきの手術が成功したと聞いて、安堵の微笑みを漏らすのであった。