関東やくざ嵐 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

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大正七年五月。梵天一家の若頭である尾形菊治の下宿に現れる瀬戸内一家の親分の娘であるお絹。「ねえ、菊さん。ここにおいて、お父さんは私と菊さんのことを知って、代貸の寺澤と一緒になれと言うのよ。ひどいわ」「お絹さん。俺もお前と所帯を持ちたい。だが、うちの親分とお前のお父さんは川崎大師の賭場のことでもめてる真っ最中だ。よりによってこんな時に、俺がお前を匿えるわけねえじゃないか」

賭場のことで口論する梵天一家の親分の北浦と瀬戸内。お絹が菊治の下宿に行ったと知った瀬戸内は、俺の娘をそそのかしやがってと北浦を詰る。カッとなった北浦は瀬戸内に掴みかかり、瀬戸内に斬られて重傷を負う。今度の一件はお前が原因だと菊治を責める梵天一家の代貸の柳。「瀬戸内の娘とお前が乳くりあったからだ。どう落とし前をつけるんだ」「このケリは俺がつける」お絹とお絹の弟の勇の目の前で、瀬戸内の子分の畑中の顔を斬り、瀬戸内の命を奪う菊治。

それから六年。出所した菊治は弟分の村山を訊ねる。六年で世間は何もかも変わったと菊治に言う村山。「その後のお絹さんの消息はわからないのか」「へえ。半年前まで伊勢佐木町のすきやきの仲居をしてましたけどな。なにしろ、瀬戸内の親分が死んでから、すぐに瀬戸内一家はバラバラになってしまいましたからな」「弟の勇は横浜でチンピラになっているらしいな」「へえ」

四年前から寝たきりになったしまったと菊治に話す北浦。「俺はお前の顔を見るまでは死にたくないと思ってたんだ。長い間苦労かけたな。できたら、俺はお前に梵天一家を継いでもらいたかったんだ」そこに現れる梵天一家の親分となった柳は、うちは今土木業で食っていると話す。「お前もいろいろ勉強するんだな。親父さん、喜んでください。今、県会議員の桑島さんに会ってきましたが、今度鶴見にできる楽天地の下請けがうちに決まりそうです。これで梵天組は万々歳です」

おでん屋の屋台で俺は盃を返すつもりだと村山に言う菊治。「ムショの中から考えてたことだが、あの親父さんの姿を見ると切り出せなくてな」「そやけど、あの柳はむかつくなあ。兄貴のことなんて思うてるんやろ」菊治は今は星住一家の幹部となった畑中らに襲われる。村山を刺したチンピラの腕をへし折る菊治。まずいことをしたなと菊治を責める柳。「これから俺と一緒に星住のところに行くんだ」「何のために」「詫びに行くんだ。星住と俺は兄弟分だ。村山、てめえも一緒に居ながら、どうしてそのくらいのことを尾形に教えてやらないんだ」

お前は文句を言いにここに来たのかと柳に問う菊治。「お前?俺は梵天一家の三代目だぞ」「お前は一家の身内が刺されたと言うのに叱りつけるだけの親分か」「なに」「俺は先代から盃をもらったが、お前から盃をもらった覚えはねえんだ。目先が効いて金儲けをやるくらいなら、質屋の番頭でもやるんだ」「お前のような奴は梵天組から出ていけ」「言われなくたって、ハナからいるつもりはねえよ」俺も連れてってくれと言う村山に、体を直して北浦の面倒を見てくれと頼む菊治。

盃を北浦に返す菊治。「お前だけはそばにいてほしかった」「すいません。親分。身よりのねえ乱暴者のあっしが、どうやら一人前になれたのは親分のおかげです。それなのに何の御恩返しもしないで」「いいんだ。お絹さんとの仲をぶちこわしただけでなく、六年も臭い飯を食わせて、お前をこんな羽目に追い込んでしまった。俺が悪いんだ」カタギになるなら高井のところに行けと言う北浦。「高井は芝浦の俺の兄弟分の舎弟だが、五年前から横浜に移って、丸高組って土建業をやってる、話のわかるいい奴だ」

横浜の料亭「千流」に行き、そこで働くお絹と会う柳。「どうだ。俺と一緒になる気はないか。そうすれば貸した金などいらん」「でも」「いつも煮え切らないな。お前があんなろくでもない弟のために苦労しているのを見ると、気の毒でな」「……」「それとも、親父を殺した男が今でも忘れられないのかい」

まずいことになったと柳に告げる桑島。「例の楽天地の工事だが、わしもあんたのところに行くよう運動したが、元請の藤野建設の社長の相川が、今まで一緒にやってきた丸高組に下請けから外すわけにいかんと言うのだよ」「なんですって。こっちは浅香川の護岸工事など、めぼしい仕事は丸高組に取られているんです。しかも楽天地はできたあとの利権が莫大だ。それを横浜あたりの土方に独り占めされたんじゃ、俺たち川崎の渡世人は黙っておられねえ」

丸高組に行き、高井と会う菊治。浅香川の護岸工事の小頭をやってくれと頼む高井。「お前さんの貫禄なら問題ないが、大世話役に桜田って男がいる。根はいい奴だが、一度曲がったら手に負えなくなる」桜田は菊治に反抗的な態度を見せるが、すぐに菊治の男気と貫禄に惚れる。桜田の妹の松枝も菊治に惚れてしまう。

お絹に会いに行く勇。「へへ。梵天の三代目がまた来てるだろう。あいつ、姉さんに惚れてるんだ。あいつから少し金を借りてくれねえかな」「これ以上借りてどうするの」「あいつ、尾形が出て焦ってるんだ」「菊さんが」「なんだ、知らなかったのかい」「で、どこに」「知らねえよ。まさか姉さんは親父が尾形に殺されたのを忘れたんじゃねえだろうな」「……」俺はいつか菊治をバラすと言う勇。「だから姉さんに変な未練を持ってほしくない」お絹から金をせびる勇。「俺は横浜でいい顔になってみせる。そうすれば瀬戸内一家を再建できるんだ」

賭場で壺元と組んで、大金をせしめる勇。勇と壺元のイカサマを見抜いた桜田は、どういうことだと大暴れするが、菊治は桜田を制する。「勇ちゃん。ここを出るんだ」勇にあんな見え見えのイカサマをしたら、命がいくらあっても足りないと注意する菊治。「どうして真面目に働かないんだ」「ふん。お説教する柄じゃないだろ。人殺し。俺がこうなったのはお前のおかげだ」「勇ちゃん。六年前のことはなんとお詫びでしていいかわからねえ。でも、できたらヤクザのことは忘れて」

「うるせえ、俺は瀬戸内の看板を上げてみせる。そして、姉さんも楽させてやるんだ」「お絹さん、元気か」「ああ。元気だとも」「教えてくれ。どこにいる」「そんなに知りたきゃ教えてやる。桜木町の千流にいるぜ。いいか、俺はお前にさっきのことでちっとも恩に感じてねえ。そのうち、お前を殺してやる」話を聞いてしまったと菊治に言う桜田。「あの若僧のイカサマは忘れてやることにするタイ」

お絹と会う菊治。「菊さん。会いたかった」「俺もだ」「長かったわ、この六年」「すまねえ。苦労をかけて。俺はどうすれば償いをできるか考えた。そして俺にできることはヤクザの足を洗うことだけだった」「今でも、私のこと好き?」「好きだ」

そこに現れる柳。「何してたんだ、お絹」「柳」「尾形。お前は何も知らないだろうが、お絹は俺の女だ」「なに」違いますと言うお絹に違いはしないと笑う柳。「お絹が俺の女房になると言うから、勇の七百円の借金を肩代わりしてるんだ。もっとも、お前がその金を払うって言うなら、一辺くらい抱かせてやってもいい。どう逆立ちしたって、丸高組のケチな小頭風情にできる金じゃないんだ。とっとと帰れ」

護岸工事のために丸高組に雇われた人夫を引き抜く星住一家。高井は嫌がらせを受けていると相川に話す。梵天組の横車などに負けないでくれと高井を励ます相川。「わしは君を全面的に信頼している」泥まみれで働く菊治に会いに行くお絹。「お絹さん。柳が好きなのか」「いいえ」「じゃあ、借金のために夫婦約束したのか」二人の様子を見つめる松枝。

私と逃げてと菊治に言うお絹。「誰も知らないところで、二人だけで暮らしたい」「勇ちゃんはどうするんだ」「どうなっても知らないわ」「半月前のムショを出たばかりの俺だったら、そうしたかもしれない。だが俺は今は丸高組の小頭だ。それに柳の借金を踏み倒して逃げるなんで、俺にはできねえ。お絹さん、もうしばらく待ってくれ」

どうしていいかわからなくなったお絹は柳のところに行く。梵天組に集結する星住一家。相手はどんどん人集めしていると高井に訴える桜田。稼業の意地で梵天組と喧嘩しなくてはならないと菊治に言う高井。「あんたに頼みがある。喧嘩の助っ人をしてくれと言うんじゃねえ。たとえ喧嘩になっても、相川社長から請け負った護岸工事は期日までに完成しないと申し訳たたねえ。それで、桜田に変わって、お前さんにあの工事を頼みたい」「わかりました」

畑中に勇を連れてくるよう命令する柳。お絹に勘弁してくれと言う北浦。「あんたが毎晩、柳に苛められてるのを見て、何と言ってお詫びしていいかわからない。ここにいる村山に案内させるから、逃げて菊治のところに行ってくれ」そこに現れる柳。「じいさん。あんまり勝手な真似をすると俺も黙っちゃないぜ。てめえのような死に損ないの面倒を見てるのはいったい誰だと思ってるんだ」「貴様のような奴に三代目を継がせた俺が馬鹿だった」「うるせえ」北浦を蹴飛ばす柳。ショック死する北浦。

喧嘩を始める丸高組と梵天組。護岸工事を指揮する菊治を殺れと勇に命令する畑中。勇は菊治を狙って銃を撃つが、松枝が菊治をかばって銃弾を受ける。勇になぜこんなことをと聞く菊治。「柳の奴があんたを殺ったら、瀬戸内を再建させてやると」「なんだと」傷だらけになって現れる村山。「兄貴。お絹さんを逃がそうとした親分が柳の奴に殺されました、親分の仇を討ってください。俺はやっとの思いでここまで逃げてきたんです」「柳は」「事務所にいます。兄貴、俺も行きます」「いや。俺の代わりにこの現場を頼む」

勇を連れて梵天組の事務所に向かう菊治に、わしも行くと言う桜田。「桜田。松枝さんが死んだ」「なに」梵天組の事務所で大暴れする菊治と桜田。「柳。親分まで殺したそうだな」「それでお前も死にに来たのか」「そうだ。お前も死んで俺も死ぬんだ」血まみれになって柳を倒す菊治を抱き起すお絹。勇に俺を殺れと命令する菊治。「俺はお前の親父さんの仇だ。だがお前がやったと誰にも言うんじゃねえ。俺はこの喧嘩で死んだことにするんだ。お前はまだ若い。まともになってくれ。いいか、姉さんに心配なんかかけるんじゃねえぞ」

菊治と一緒に私も殺してと叫ぶお絹。震えながら土下座する勇。「勘弁してくれ。俺は怖いんだ。助けてくれ」目を開いたまま仁王立ちで絶命する桜田。血まみれで歩く菊治を必死で支えるお絹なのであった。