作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(245)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

ピザの横綱

三谷の友人の飯村夫婦が経営するピザレストランに行く山岡たち。「お待ち遠さま。トマトソースピザと、海の幸ピザです。ミックスピザは後から参ります」「あ、今日も来たぞ。これで一か月皆勤賞だぜ」「ほら、敏子ちゃん、早く行ってあげなさい」「は、はい。すみません」「あれ。島高部屋の鏡洋じゃないか」「相撲取りがピザを食べにくるとはね。時代が変わったもんだ」

「こっちに呼んであげようよ。おーい、鏡洋関」「あ、どうも」「わあ、天下の関取とご一緒できるなんて、光栄だわ」「関取はピザが大好きなんだって?」「そうなんです。親方には内緒なんですが」「内緒?」「はあ」「どうしたの、溜息なんかついて」「はあ。あの、頼みがあるんです」

横綱の若吉葉の家に行く山岡と栗田。「で、今日はまたどういう訳で、うちの鏡洋が山岡さんたちとご一緒させていただいているんですか」「は、はい。あの、じ、実は」「なんだ。はっきりしろい」「私が代わりにご説明します。鏡洋関は私たちの知人の経営するピザレストランによく行かれますが、その経営者の妹の飯村敏子さんと言う方と仲良くなられて、最終的には結婚を考えようとまで」「へえ。堅物で有名な錦洋が、女の人と」「だけど、問題は島高親方だと錦洋関は言うんです」

「ぬ。親方か。確かにこれは簡単じゃない」「どうして?島高親方はそんなに気難しい人じゃないと思うけど」「問題は鏡洋の体です」「え」「鏡洋の体格は背丈は十分なのですが、肉付きが足りない。あと10キロでいい。体重が増えたら、錦洋は横綱も狙えるんです」「でも、それが敏子さんと何の関係が」

「ピザレストランの経営者の妹さんと言うのがまずいんです」「どうしてですか」「ピザが西洋の食べ物だからです。最近の若い者は、この錦洋に限らず、洋風の食べ物を好みます。その反動として、伝統的なちゃんこを喜ばなくなる。相撲の世界では大きくなりたければ、ちゃんこを食べろと言うことになっています。洋食じゃダメだ、と」

「それはおかしいんじゃありませんか。栄養学的に正しく計算されていれば、洋食でも体を大きくできるはずです」「栗田さんの仰る通りだと、私も思います。ところがうちの親方はちゃんこに信仰に近いものを抱いていて、ちゃんこ絶対主義なんです。要するに洋食なんか入る隙間が胃袋にあるなら、ちゃんこを食べろと言うんです」「まあ」「なるほどね。それじゃ、親方は敏子さんにいい顔をしないだろうな」「私も自分の弟弟子のことだから、力を貸してやりたいのですが」

島高部屋で稽古を見学し、ちゃんこをご馳走になる山岡と栗田。「錦洋。お前にあと10キロでいいから、体重があったらなあ。横綱をあそこまで追い込んでおきながら。腹が避けてもかまわん。死ぬ気でちゃんこを食べるんだ。それがどっしりした相撲取りの体を作るんだ」「は、はい」「親方、今夜の巡業壮行会なんですが」「ん。場所は決まったか」「は、はい。ピザレストランでやろうと言うことに」

「なに、ピザ?そんなもん、ダメだ」「親方。若い者も本場所前に空気を抜いてやらないと、精神的な疲労が出て、かえって士気が低下します。親方から見ればくだらない食べ物でも、たまには娯楽として認めてやらないと」「ふうん。しかし、ピザなんて西洋お好み焼きだろう。これから横綱を目指そうとする前途洋々たる勝負師にはみずぼらしいじゃないか」

「親方、それは違います。ピザはそんなみすぼらしい食べ物じゃありません」「ほう、お前、詳しそうじゃないか」「え、いや、あの」「親方、ピザにもいろいろありますよ。ピザの横綱と言うのもある」「え」「出世前のお相撲さんに、ピザに横綱を食べてもらうのもいいと思いますけどね」「むう、ピザの横綱か。よし、今夜の壮行会は、そのピザの横綱でいこう」

ピザレストランに行く島高部屋一同。「ふうん。若いもんはこんな雰囲気が好きかねえ」「お待ち遠さま」「わ、大きい。こりゃ大変なもんだ。これがピザの横綱かね」「いや、これは露払いです」「ほう、これで露払いかね」「どうぞ」

慣れないピザを落としてしまう島高。「うわ、あちちちち」「きゃあ、大変。大丈夫ですか」「あ、ああ。すまんな」「ズボンにトマトソースがついてしまって。できるだけ拭きましたが、早くクリーニングに出してください」「いやあ、ありがとう。私がヘマをしたばっかりに」「とんでもない。これ以上きれいにならなくて、申し訳ありません」

ふむと感心する島高。「いやあ、親切な娘さんだ。今時珍しいねえ」「親方、どうぞ」「ああ、すみません。ほう、なかなか旨いもんだねえ。台はパリッとしてるし、上に乗ってるのが、また豪勢だ」「ピザの台に使う小麦粉は、普通の小麦粉よりタンパク質が多いし、上に乗せる物も肉でも野菜でも選択次第でなんでも結構。栄養価も十分高められます」「ふうむ。こら、ピザはバカにできんな」

「お待ち遠さま」「な、何よ。これ」「ひええ」「ピザのケーキ?」「これこそピザの横綱、シカゴ・ピザです。いかにもアメリカらしい超ド級のボリュームです」「こら、すごい」

説明する山岡。「ピザの生地で深皿の形を作り、中にミックスピザの具を二層に盛り込み。上にトマトソースをモッツァレラチーズを乗せ、オーブンで焼く。普通の人間はこんなものを食べ過ぎたら大変だけど、お相撲さんが体重を増やすためだったら、ある程度はいいんじゃないですか。コレステロールや血糖値を調べながら食べれば」

「うむ、この豪快なところが気に入った。まさに横綱だよ」「ありがとう、敏子さん」「なに?お前、このお嬢さんを知っとるのか」「あ、いや」「親方、お願いします。どうか、この二人を」「鏡洋、貴様と言うヤツは実にけしからん。こんな素晴らしいお嬢さんを私に内緒で」「え」「いいか。このお嬢さんを取り逃さないために、毎日、この店に通え。毎日、この横綱ピザを食べるんだ。そうすれば体重も増えて、一石二鳥。わかったか」「はい。ごっつあんです」「むう、その言葉はここでは似合わんな」