作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(242)」 | ロロモ文庫

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究極の披露宴(後)

帝都新聞の嶺山社長の親友の息子の結婚披露宴で、至高の披露宴メニューを出す海原。「おや、二段重ねの重箱だ」「え。お料理はこれだけ?」「う。中味は上の段も下の段もお惣菜料理ばかり」「これがどうして至高の披露宴の料理なんだ」

説明する海原。「重箱に中は何の変哲もない家庭のお惣菜料理。いわゆるおふくろの味と称される料理の数々であります。そもそも結婚披露宴とはどんなものであるべきか考えていただきたい。最近は新郎新婦とその親たちが見栄を張り、虚栄の限りを尽くす愚かな乱痴気騒ぎの場と化した。私が両家に提案したのは、本来の姿に戻ろうと言うことだった」

「新郎新婦それぞれが自分の親戚や友人に結婚相手を披露するのが披露宴の目的であったはずだ。自分の結婚する相手がどんな人間であるか知ってもらう一番よい方法は、その人間が何を食べて育ったかを知ることだ。そこで私は新郎新婦とそのご両親に会って、どんな物を食べて育ったかを調べさせてもらった。上の段の中身が新郎が食べて育ってきた物。下段は新婦のそれであります」

「皆さん、一つ一つの料理の味を注意深く味わっていただきたい。その料理の一つ一つは新郎新婦の育ってきた家庭と生い立ちをその人格を物語っている。見た目は平凡な家庭のお惣菜。しかしそのお惣菜の中にこそ、真に幸せな家庭の姿がある。それが本日の料理を至高の披露宴メニューと私が自信をもって断言できる理由であります」

「いや、素晴らしい」「これこそ本当の披露宴のメニューだわ」「やれ伊勢海老だ、大鯛だ、ローストビーフだと、これ見よがしの贅沢三昧の披露宴が、いかに心貧しいものであるか、痛感されますな」「こらいい。しみじみとしたいい味じゃ」「新郎新婦の新家庭に招いてもろうたような気がするで」

呻く栗田。(これに対抗する究極のメニューは海原雄山以上に結婚披露宴の本質に迫らなければならないわ。私たちはとんだ赤っ恥をかくかも。でも荒川さんと田畑さんのために、山岡さんと究極の披露宴メニューを考えないと)

荒川と田畑の結婚式が行われる米津美術館に向かう列席者。「美術館で披露宴とは変わった場所を選んだものやなあ」「私は披露宴などというアホくさいものが嫌いでな。海原さんが誘ったから出席するんです」「私が荒川君の披露宴を担当する方だったら、良かったのですが」「しかし、山岡のヤツ、こんなところで何をする気だ」「おお。これは」「なんと美しくて広い庭」「驚いた。この庭は野草の宝庫や」「むう」

「では、ただ今から、荒川家、田畑家の披露宴を執り行わせて頂きます。本日は同時に究極の披露宴メニューの発表に兼ねておりますので、よろしくお願いします」「メニューはツクシの白和え、ふきの煮物、芽カンゾウの煮びたし、こごみのクルミ和え、たけのこの刺身、そしてヨモギご飯です」「おう。全部野草料理じゃ」「どれも鮮やかな色と香りや」

「結婚披露宴は新郎新婦がそれぞれを親戚や友人たちに紹介すると言う意味を持つものであることは、至高のメニュー作成者が語った通りです。しかし披露宴は別の側面もあります。結婚披露宴は祭りでもあったのです。ともに食べ、飲み、歌い、踊ることで、互いの絆を強める。結婚という一つの祝い事を媒介にして、互いの関係を深めるのです」

「新郎新婦は自分たちの喜びをお客様にお分けしたいと言いました。時あたかも春爛漫、全ての生命萌え出ずる一年で最高の時です。そこで私たちは春の喜びを皆さまに味わっていただくことにしました。今、お手元にお届けした料理は、全てこの庭で採れた野草を使って作りました。全て、新郎新婦が昨日丸一日かけて摘んだ物です」「ほう。2人の真心がこもってますな」「うう。この鮮烈にして純粋な味はどうや」「体中の血がキレイになる気がしますな」

「天ぷらの支度が整いました。新郎新婦が協力して、天ぷらを揚げさせて頂きます。タンポポの天ぷら、たらの芽の天ぷら、たけのこの天ぷらです」

「ええい、歯がゆいヤツだ」「先生」「私に代われ。こういう薄い葉には素早く薄く衣をつけるのだ」「……」「お前に写真しか教えなかったのは私の失敗。これからは料理も教えてやろう」「先生、では」「荒川、いい披露宴じゃないか。今日集まった客は、お前たちの心づかいとこの楽しさを生涯忘れんだろう。出席してよかったぞ」「先生。ありがとうございました」

「さて、今回の審査ですが」「誠に申し訳ございません。私たち審査員、両方の新郎新婦の幸せな姿にあてられまして、何もかもバラ色に見えて、審査ができません」「それだけ両方のメニューも演出も素晴らしかったと言うことじゃろう」「こんなところで今回は御勘弁願えんやろか」「それがいい。どっちの披露宴がよかったか決めるなんて、不粋と言うものだ」「海原先生。いい決定だと思いますが」「……」