作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(199)」 | ロロモ文庫

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韓国食試合(4)

私はカルビを作ると言う金。「その理由は韓国の焼肉料理の中では最もよく日本人に知られていながら、その知られ方が誤ったものであるからだ。カルビとは日本でいうバラ肉のことだ。アバラ骨のまわりの肉だ。だが日本人はカルビの一番美味しい部分を食べることを知らないのだ」「一番美味しいところ?」「骨だよ。日本の焼肉屋の大部分はカルビ焼きと言うと、バラ肉の薄切りを出す。しかし、それでは肉の旨さは味わえても、肝心の骨の旨さを味わえないのだ」

肋骨のついたカルビを切り開き、骨と三枚の肉の薄切りがつながった形にする金。「次にタレを作る。このタレがカルビの味の決め手となる。タレには肉を漬けこむ揉みダレと、焼き上がった肉をつけて食べるつけダレの二種類がある。まず揉みダレだが材料をお見せしよう。タレは甘味があった方がいいが、たいていの料理人はその甘味を砂糖でつける。私はそんな芸のないことはしない」

「なんなの、これ」「あ、麦芽だ」「まあ、ビールの原料の」「そう。韓国語でヨッキルと言う。麦芽はデンプンを糖に変える酵素を沢山含んでいるのだ。ヨッキルを布の袋に入れて、水につける。袋を絞って、ヨッキルの成分を十分に水に溶かし、そこにモチ米の粉を加えて温める」「モチ米のデンプンを糖に変えるのね」「数時間、40度から50度の温度に保ってから、それを煮詰めると、トロリと甘い糖液に仕上がる。この甘味は砂糖の甘さよりも、さらに上品で柔らかで膨らみがある」

味の秘密がもう一つあると言う金。「それは味噌玉だ。これを削って粉にしたものを、先程の麦芽の糖液に入れ、醤油、酒を加えて、一煮立ちさせる。冷ましてから、コショウ、ネギの微塵切り、ニンニクの微塵切り、スリゴマ、ショウガの搾り汁を加え、最後のゴマ油を加える。それを何日か寝かせて、肉にタレがなじむようによく揉んでやる。だから揉みダレと言うのだ」「ただつけるだけじゃないのね」「では試食していただくとしよう」

骨付きカルビを焼き、ハサミで切る金。「つけダレで食べてください。このつけダレはもみダレと違って、リンゴ、スダチ、レモンなどの搾り汁を加え、すっきりと軽い風味に仕上げている」「なるほど。揉みダレでコクのある味をつけておいて、果物を使って甘味と酸味を出したつけダレをつけて、さっぱりと食べるのね」

「まず、サンチの葉につけダレをつけた肉を乗せる。そこに長ネギの細切り、ニンニクのブツ切り、生唐辛子を好みの分量乗せて、コチュジャンを加え、くるんで食べる」「あ、辛い。でも美味しい」「それぞれの辛味と肉の旨さが渾然となって」

「さあ、この骨の旨さを味わって頂かんと、骨つきカルビにした意味がない。手でつかんで行儀悪く齧るのが一番」「骨にへばりついた肉の美味しさときたら」「やっぱり、骨の周りの肉が一番旨いんだな」「日本の焼肉屋はこの骨をどこにやってしまうんだ。自分たちでこっそり食べているんじゃないのか」「本物のカルビがどんなものか、おわかりいただけたようだ。山岡さん、次はそちらの番だ」

肉を塊のまま、頭とお尻を焙る山岡。「上下が焼けたら、寝かしてやって、隅から隅までムラなく焙ります。ゆっくり少しずつ転がし、じっくり焼き上がると、それをスライスします。さあどうぞ。醤油でおろしショウガと薄切りニンニクを一緒に乗せて食べてください」

「肉の焦げた香ばしい香りが素敵」「肉汁がにじみ出て、肉の旨味が直接楽しめるわ」「金さん、いかがです」「実に美味しい。いや、驚いた」「金さん、俺が焼肉で勝負したいと言ったのは、日本の料理と韓国の料理と比較するのに一番いいと思ったからです」「ほう?」

説明する山岡。「金さんのカルビは肉の味を単純に味わうのではなく、二種類のタレ、ニンニク、ネギ、唐辛子、コチュジャンの複合した味を味わう。一方、俺の焼肉は味付けは醤油だけ、ショウガとニンニクを使うが、それは薬味に過ぎない。肉を塊のまま、まず表面を焼いて固めてしまう。肉汁は外に流れない」「うむ」

「炭火の持つ遠赤外線効果で、肉の芯まで熱が加わって、肉の旨味が活性化する。そこを薄切りにすると、肉汁をたっぷり含んだ肉の味を楽しむことが出来る」「なるほど。肉の味を純粋に味わうために、こういう作り方をしたんだな。我々とは全く異なる発想だ」

「日本の懐石料理などは、常に素材一つ一つの味を引き出すことに心を砕いている。いわば、ピアノの独奏だ。一方、韓国料理はチムでもチゲでもキムチでも、複数の素材を合わせて複合した味を作り出そうとしている。ピアノ協奏曲の世界です。どちらがいいとか言うのでなく、これは日本と韓国の文化の相違でしょう」「むう」

「金さん。究極のメニューは日本料理と限っていません。どこの国の料理も積極的に取り入れてきた。勿論、韓国の料理を取り入れたいと思います。食物の味を通じて、互いに相手の国の人情を理解できれば、こんな美味しい話はない」「その通りだ。韓日対決だなんて、ケチくさいことはやめ、究極のメニューのために、韓国料理の知恵をお貸ししよう。究極のメニュー、韓日協力だ」

山岡に聞く栗田。「あの焼肉はカツオのタタキがヒントなのね」「へへへ、バレたか。あの老人が強制連行の時、高知で働かされたと言った言葉が、あれを思い起こさせたんだ。高知と言えば、カツオのタタキだ。牛肉をカツオのタタキ風にするのは、そう珍しくない。しかし、カルビに対抗するにはとても具合がよかった」「なるほど」