作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(198)」 | ロロモ文庫

ロロモ文庫

いろいろなベスト10や漫画のあらすじやテレビドラマのあらすじや映画のあらすじや川柳やスポーツの結果などを紹介したいと思います。どうぞヨロピク。

韓国食試合(3)

山岡に最高の牛肉を用意したと言う金。「高麗系の赤牛のメスを36か月かけて肥育したのを落としてから、二週間熟成させた。この肉の好きな部分を取りたまえ」「おまかせしますよ。カルビ、ロース、ヒレと適当に取っておいてください」「では支度が出来るまで、休んでいてくれたまえ」「じゃ、その間に買い物に行ってきます。必要な材料を思いついたから。すぐ戻ってきます」

しかし山岡は必要な材料など思いつかないと栗田たちに言う。「これは時間稼ぎだ。ははは」もうダメと失神しそうになる栗田を近城は支えようとするが、弾みで近城のカメラが通りかかった老人の額に当たってしまう。「うわあ」「大変、血が」「早く、病院へ」「ピョンさん、車を」

病院で治療を受ける老人。「傷は大したことなく、一週間もすれば大丈夫とのことです」「よかったわ」「我々は日本の新聞社の者です。今度のことの責任は取らせていただきます。ピョンさん、通訳してください」「話しはよくわかったよ。これが不慮の事故だし、そちらの誠意もわかった。これ以上の心配はいらないよ」「日本語、出来るんですか」

「50代半ば以上の韓国人は日本語を話せますよ。学校では韓国語を禁じられ、日本語を強制的に勉強させられただから」「そ、そうでした。日本は第2次大戦に負けるまで、36年間、朝鮮、韓国を支配していて」「昔のことだ。私は帰るよ」「お宅までお送りします」「いいよ、そんなこと」「そうさせてください。でないと気が済まなくて」

お茶でも飲んでいけと言われ、老人の家に入る山岡たち。「お一人なんですか」「うん。昔の恋人は忘れられなくて、とうとう結婚できなかった」「忘れられない、って、何かあったんですか」「強制連行で日本の高知県に連れて行かれて働かされていた私が、日本の敗戦後、帰って来た時には、彼女はもう」「強制連行って何ですか」「強制連行を知らないのかい」「え」

説明する山岡。「当時の日本政府は、朝鮮、韓国人を働かせるために、強制的に日本に連行したんだよ、日本に住む朝鮮、韓国人の数は1911年には3000人に満たなかったのに、1945年の敗戦時には230万人を越えている。戦争を始めた日本は労働力が不足したので、朝鮮、韓国人を強制連行したんだ」

語る老人。「それも普通の市民や農民が日常生活を行っているところに、突然警官がやって来て、トラックに乗せて連行したりした。私自身、工場で働いているところに警官がやって来て、イヤも応もない、そのまま高知県まで連れて行かれて働かされてんです。私は日本が負けたあと、こうして祖国に帰って来たけれど、その時には彼女は行方不明になっていた」「……」「やあ。こんな話はするつもりはなかったのに」

老人の家を出る一同。恥ずかしいわと呟く二木。「新聞記者のくせに、強制連行も知らなかったなんて」「君だけじゃないよ。今の日本の若い人のほとんどはそうさ」「だって、学校では教わらなかったもの。強制連行なんて」「韓国では誰でも知っていることです」「……」

「強制連行よりもっとひどいことを、日本は朝鮮、韓国に対してしている」「どうして学校で教えないの。自分たちの過去の過ちを子供に教えることの出来ない大人って、最低の卑怯者じゃないの」「日本人が過去に犯した過ちを知らないのは、世界中で日本人だけなんて」「あの老人、俺たち日本人をもっと罵ってもよかったのに、あんなに淡々と冷静に」「過去を忘れるわけにはいきません。だが人間は現在と未来に生きるのです」「そうだ。日本と韓国とが互いに尊敬しあえる関係を作らないとな」

注文通り、肉を切り分けておいたと山岡に言う金。「それで、必要な材料は手に入りましたか」「え。材料?」「今、買いに行ったんでしょう」「それが、その」「山岡さん、あなたは本気で私と戦う気なんですが」「大丈夫です。最高の日本風焼肉をお目にかけましょう」