作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(200)」 | ロロモ文庫

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新ジャガの幸

ピョンの紹介で山岡たちは青年実業家の三崎と知り合うが、三崎は不動産投機に失敗して破産してしまう。泥酔して必ず復活して叫んで、道路で寝る三崎を中古アパートまで送る山岡たち。

「しかし三崎さんの気持ちもわかるなあ。きっと大邸宅に住んでいたろうに」「家も何もかも全て会社の負債に穴埋めに差し出して、この生活じゃね」「確かに主人は辛いだろうと思います。でも私たちは今の方が幸せだと思ってるんです」「え。今の方が幸せ?」

「今までの主人は仕事仕事でろくに家に帰らず、私たちと一緒に過ごす時間なんかなかったんです。でも今は夜は早く帰ってきますし、休日も家にいますし、息子も主人がそばにいてくれることが多くなったので、大喜びで」「前はお父さん、全然遊んでくれなかったけど、今は野球教えてくれたり、釣りに連れていってくれたりするもん。僕、今の方が楽しいよ」

三崎さんの奥さんからお礼の電話をいただいたと山岡に言う栗田。「来週の日曜日、息子さんの誕生日なんですって。何か誕生日の贈り物をしたけいけど、何がいいかしら」「ふむ。新ジャガの季節だな。誕生祝いに物を贈るんじゃなくて、パーティーでも開いてやったら」「え」

ジャガイモ畑に三崎一家を呼ぶ山岡たち。「さあ、勉君。この畑の中に宝物が埋まっているんだ。さっそく掘り出してくれ」「わーい。沢山掘るぞ」「ああ、いい匂いね。この土の匂いをしばらく忘れていたわ」「地面を掘ると、イモがごろごろ。本当に大地の恵みって感じだな」「さあ、新ジャガの塩茹でだ。みんな集まって」「わーい。いい匂い」

「では、勉君。お誕生日おめでとう」「ありがとうございます」「やっぱり、新ジャガは塩だけで食べるに限るね」「この瑞々しいねっとりした感触とさっぱりした味がたまらないわ」「美味しいなあ。僕、もう三つも食べちゃった」「三崎さん、どうしたんです」「情けない。息子の誕生日にジャガイモの茹でたのしか食べさせてやれないなんて」「え」

「去年の誕生日にはホテルの広間を借りて、勉の友人を招待し、シェフに特別料理を作らせた。それなのに今年は」「三崎さん、あなたが不動産の投機に手を出した理由がわかりましたよ」「え」「去年の勉君の誕生日の席にあなたはいなかった」「それは、仕事が忙しくて」「勉君、去年と今年の誕生パーティー、どっちが楽しい?」「そりゃ、今日の方が何百倍も楽しいよ。だってお父さんがいるんだもん」「勉」

「それに、このジャガイモ、とても美味しいよ。お父さんも食べてごらんよ」「ああ、本当だ。土の味だ。全ての味の根底だよ。そうか、私はとても大切な物を見失っていた。人間、物を作るのが一番尊い仕事だ。こんな美味しい物を一生懸命作っている人がいるのに、私は本業を忘れて、株や土地ころがしで金を稼ごうとしていた」

「ジャガイモの大地の味に比べれば、派手な飾りだらけの料理なんてクズ同然だ。そんなまがいものを息子に与えて、自己満足したたんだ。子供にとって一番嬉しいのは、親が一緒にいてくれることだと言うことにも気がつかず。勉、今日はお前の誕生日だが、お父さんにとっても誕生日だ。お父さん、生まれ変わるぞ」「お父さん」