作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(122)」 | ロロモ文庫

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骨のない魚

F1レーサーを目指す高校の後輩の槍村がレースでクラッシュしてしまい、心配する三谷。「お前、どこか体が悪いんじゃないのか。なんだか、ひどく疲れてるみたいだぜ」「……」「二週間後の日本選手権で優勝したらF1レーサーも夢じゃないんだろう。ところがこの三戦ばかりおかしいぜ」

実は不眠症なんですと打ち明ける槍村。「F1レーサーの道が見えてきたら、急に不安になって、絶対負ける訳にいかないとそのことばかり考えて、眠れないんです。レースが近づくとなおさらで一睡もできません。だから、いざレースの時間になるとふらふらで」「それはまいったなあ」

日本選手権で優勝したらご馳走してやると槍村に言う山岡。「何をご馳走してくれるんですか」「そうだな。骨のない魚ってのはどうだ」「え。それは何ですか」「それは当日のお楽しみ」「山岡さん、何なのか教えてください。僕は不眠症だと言ったでしょう。骨のない魚が何なのかわからないと、それが気になって眠れない」

「教えたって何の意味もないよ」「え」「そんなに弱い神経じゃ、骨のない魚が何かわかっていったんはホッとしても、すぐに何か別の物にとりつかれて、くよくよ考えて眠れなくなるに決まっているもの」「お願いですから教えてください。これ以上考えることのタネが増えたら、眠れなくてどうにかなってしまう」「知りたかったらレースに勝つことだね。そしたら祝賀会で出てくるから」

槍村は日本選手権で優勝し、山岡は大王飯店で祝賀会を開く。「あの晩、寝床に入ったら、恐れていた通り、骨のない魚のことばかり頭に浮かんで仕方がない。いったいどんな魚なんだと考え続けたんです。ところが気がついたら朝なんです。それも気がついたのは妹に起こされたからなんです」「まあ。眠っていたの。でも、骨のない魚のことばかり考えていたんでしょう」

「だから、そのおかげなんですよ。今まで眠れなかったのはレースのことばかり考えて、不安でたまらなかったからです」「ところが骨のない魚に夢中になって、その不安を忘れてしまったんだな」「そうなんです。骨のない魚について考えることが、僕の不安と緊張を解きほぐして、何か月も続いた不眠症を治してくれたんです」

骨のない魚を運んでくる王。「へえ。これが骨のない魚なんですか。普通の魚じゃないですか」「どうしてこれが骨のない魚なの」「まあ、食べてみなよ」「あれれ、本当に骨がない」「中はすり身だわ」「そう。魚を腹から開いて、中骨と身を全部取りだすんだ。そして身だけをよく練って、薬味を入れて、皮の間にもう一度詰める。四匹分の身で一匹分の皮の間が一杯になるそうだ。王さん得意の中華料理だよ」

まいったなあと笑う槍村。「骨のない魚ってこう意味だったのか。僕はいろいろと怪獣みたいな魚を考えていましたよ」「味はどうです」「最高です。皮はパリパリと香ばしく、肉はプリプリして」「しかし、骨のない魚の正体がこれとわかったら、槍村の不眠症がまた始まった、なんてのは困るな」「そしたら、また山岡さんに変わった料理を考えてもらいます」