作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(63)」 | ロロモ文庫

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愛の納豆

大学時代の同級生の美恵に婚約者の桐田を紹介される栗田。「私、今、料理習ってるの。まず朝ごはんは和食ね」「僕、朝にパン食うヤツは日本人やないと思うわ」「ふっくら炊き上げた白いご飯」「よくぞ日本人に生まれけりやな」「お豆腐の味噌汁」「朝の香りや」「アジの干物」「泣かせてくれるやん」「だし巻タマゴ」「ありがたいなあ」

「あ、大事なものを忘れてた」「何や」「納豆よ」「え。納豆やと」「まあ、そんなに好きなの」「アホぬかせ、誰が好きや言うた。あんな腐った豆」「腐った豆?」「おおそうや。あんな臭うて、ばばっちいもん。人間の食うもんやない」「なんですって」「あの匂いはなんや。アンモニアの匂いや。鼻が曲がる。胸がむかつく、粘々して気色悪い」

「あなた、私の両親が茨城県出身だってことを忘れたの。茨城と言えば水戸納豆。納豆の本場なのよ。茨城では毎日、納豆を食べるのよ。納豆も自分の家で作る。納豆を使った料理もいろいろあるわ。私自身、一日だって、納豆を欠かさないわ」「な、なんやて。関西じゃ豚もよう食わん。納豆みたいなもん食うようなあさましい女とは知らなんだわ。婚約解消や」「もうあなたとは絶好よ」

この間は醜態を見えましてと栗田に詫びる桐田。「美恵はまだ怒ってるんですか」「そらもう僕が悪いんやから、仕方ありまへん。条件を飲めば許してくれると言うてますけど」「条件?」「結婚したら、毎日納豆を食卓に出すことを認めろと。美恵が好きなもんを食べるのは。許さなあかんと思います。けど、もう一つの条件が。僕にも納豆を食べられるようになれと」「まあ、関西の人はみんな納豆が嫌いだから、子供の頃からまずいと思い込んでるものを急に食べろと言われても」「それで今日はお願いにあがったんです。なんとか納豆を食べられるようになる手段はないもんでっしゃろか」「これは山岡さんの力を借りないと」

岡星に栗田と桐田を連れて行く山岡。「納豆です。十分に練って醤油で味もつけてあります」「うぐぐ」「さあ、思い切って」「ぐえええ、なんちゅう匂いや。あかん」「それでは、こちらの納豆をどうぞ」「へ。今のと同じじゃないの。はて、あまり臭いことないで。はあ、カラシの匂いがするで。お、こらカラシがよう効いとる。食べられん言うほど臭いことはない」「私にも食べさせて。あら、後の方が匂いが軽くてスッキリしている。味もいいわ。何が違うの」

説明する岡星。「最初お出ししたのが発泡スチロールのパック入り納豆。後からお出ししたのが、藁苞入りの納豆です」「容器が違うだけで、あないに匂いが変わるんですか」「そう。容器は違うだけで、これだけの差が出てくるんだ。その前にこれを見てもらおう」「あ、大徳寺納豆やないか」「関西で食べるものね。これも独特の匂いがするけど」

説明する山岡。「大徳寺納豆も関東の糸引き納豆も、大豆を煮て微生物を働かせて、大豆の蛋白質を分解させたものだが、その微生物が大徳寺納豆の方は酵母菌、糸引き納豆の方は納豆菌と言う違いがある。納豆菌は大豆の蛋白質を分解する際に、アンモニア臭を伴ってしまう。それが慣れない人にはつらいんだ」

「そうや。今、僕がこれを食べれたんはアンモニア臭が薄かったからや。それは藁苞と関係あるんですか」「大ありだよ。元々納豆は藁を使って作るものなんだ。納豆菌が自然の状態の藁についてくるんだ」「へえ。藁に自然についてくるものなの」「今日は岡星さんに納豆を作ってもらおう」

説明する岡星。「だいたい藁一本につき、納豆菌が1000万個ついていると言います。納豆菌のほかに雑菌をついているので、熱湯で消毒します」「えっ、そんなことしたら、肝心の納豆菌も死んでしまうじゃない」「心配無用。納豆菌は固い殻に包まれた胞子の形で藁に包まれているから死なないんだ。それどころか熱を加えてやると、胞子から菌へと変わって、活動を始めるんだよ」「へえ。うまく出来てるのね」

「消毒は済んだら、両端を縛り、真ん中を開いて、煮えたばかりの熱い大豆を入れてやります。上からもう一度縛って、後は40度くらいの温度にして、まる一日くらいおけば出来上がり」「簡単に出来るんやなあ。藁だけでいいなんて」「その藁がアンモニア臭を吸収するんだよ。パックの納豆は藁を使わずに培養した納豆菌を大豆につけて作る。でもパックはアンモニア臭を吸収しない」「なるほど」

「それともう一つ、カラシの中にはアリルカラシ油と言う成分があって、アンモニアと化学反応を起こして別の物質に変えてしまうから、アンモニア臭も消える。それから納豆は古くなるとアンモニア臭が強くなるから、新しいものを選ぶことだ」「わかりました。これなら僕も食べれます」「美恵にもよく言っておくわ。いい納豆とカラシが必要だってこと」「ありがとうございました。これで僕たち幸せになります」