作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(64)」 | ロロモ文庫

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鮎のふるさと

怪我をして入院した京極は山岡に退院したら鮎の天ぷらが食いたいと言う。最高の天ぷらを作ると約束する山岡。そこに見舞いに来た海原は山岡にそれは無理だと言う。「私が最高の鮎の天ぷらを作りましょう」「絶対俺より旨い天ぷらを作る自信があるのか」「それを判断するのは京極さんだ。ふふふ」

退院した京極に自分の作った鮎の天ぷらについて説明する山岡。「国産の白胡麻をマキの火で丁寧に焙って、それを玉締め法で圧搾して取ったごま油を使いました。胡麻の香りはするが極めて軽く、材料の香りをむしろ引き立てると判断したからです」

「そして鮎は川幅が広く、流れの急な川で育った物が旨いわけですが、年によって水量や水質が微妙に変わってきます。一番決定的なのは、鮎の餌となる石に生えたコケの生育具合です。それによって、鮎の味も少しずつ変わっていきます」

「もう一つ、天ぷらにするからには、あまり大きいと骨まで食べられない。かと言って、小さすぎるものは味が悪い。10センチ前後の鮎が天ぷらに最適です。そんなわけで、今年、川の状態の一番良かった保津川の体長10センチ前後の鮎を選びました」

「おう、これは思った通りの味。骨もサクサク。味はホロリと甘く、はらわたの苦みが豊かだ」「実に香ばしい。天ぷらにすると鮎の香りが飛んでもったいないと思ったが」「こんな旨い鮎の天ぷらは食べたことないわ」「はっはっは。はたして、そうでしょうか。では私のを食べていただこう」

海原の鮎の天ぷらを食べて号泣する京極。「なんちゅうもんを食わせてくれたんや。こんな旨い鮎は食べたことはない、いや、そやない。何十年か前に食べた記憶がある。ほんま旨い。これに比べると山岡さんの鮎はカスや」「えっ、どうして」「そんなに両者に差があるように思えないが」「香りが微妙に違いはするけれど」

「京極さん。その鮎は四万十川の鮎です」「あああ。そうだったのか」「わしの生まれ故郷の鮎やったんか。わしの鮎の原体験は四万十川のもの。その故郷にわしは何十年も帰っとらん。懐かしい味や。旨い鮎や」

山岡を恫喝する海原。「お前は以前、京極さんが四国の出身と知って、イワシの丸干しを出したことがあるはずだ。鮎の味は川によって違う。それならどこの川の鮎が京極さんに喜ばれるかわかりそうなもの。それを鮎に関する小賢しい知識を堆積することによって忘れてしまった」

「お前は今度もまた大事なことを忘れてしまったのだ。慢心以外の何物でもない。料理は人の心を感動させて初めて芸術たり得る。だがお前の今の心がけでは、どんな料理を作ったところで、材料自慢、腕自慢の低俗な見せびらかし料理で終わるだろう。そんなお前が究極のメニュー作りとは滑稽だ。笑わせるな」