作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(14)」 | ロロモ文庫

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包丁の基本

日本料理に魅せられた板前志望のジェフはアメリカの日本料理レストランで修業を重ね、来日する。そんなジェフに「ウエスト・コースト」と言う日本料理店を紹介する谷村。「ジェフはうちのロス支局長と懇意でね、どこか適当な修行先を見つけてほしいと言う支局長の紹介状を持って、僕の所に訪ねてきたんだ。この店は西海岸を中心にアメリカに支店を5つも出している。ジェフもこの店から修行を始めると、日本料理に無理なく入って行けると思ってね」

イサキの刺身を作ると言う店長。「日本料理も海外に進出するためには、お客さんを楽しませる演出が必要だと思うんですよ。今までの古臭いやり方じゃ、国際的に通用しません」派手な包丁さばきで刺身を作る花板。それを食べてこの店で働くのはイヤだと言うジェフ。「この店は恰好だけです。刺身は美味しくない」「これだから外人はイヤなんだ。刺身の味がわかってたまるかい」「味、わかります。僕も板前の端くれね」「このトーシロが。アメリカあたりで板前の真似事したくらいで何が出来る。刺身が作れるもんなら作ってみろ」「よ、よし」

呟く山岡。「俺も今の刺身は感心しなかった。それも魚のせいじゃない」「この野郎、俺の腕が悪いと言うのか」「ジェフの作る刺身がそれを証明してくれる。洗いにすれば、よりはっきりするさ。ただし一週間後に」「そのアメリカ人が俺より刺身を上手に作ると言うんだな。いいだろう、スズキの洗いで勝負してやる」

日本橋にある小料理屋「鯛ふじ」の主人の大不二にジェフに特訓を施してくれと頼む山岡。「ふうん。外人さんに日本料理なんかでけまんのかいな」「この男がウエスト・コーストの板前の刺身をまずいと判断した点を買ったんです。そのくらいな鋭敏な感覚があれば」「山岡さんはそない言わはるなら引き受けてもええけど」

氷をチーズのように包丁で切る大不二に驚くジェフ。「すみません。その包丁を見せてください。普通の柳刃包丁で、刃こぼれ一つしてない。なんて凄い腕なんだ」「そない大袈裟な。氷にも包丁を入れる目を言うのがあるんどす」「お願いです。僕を弟子にしてください」「あんさん、弟子やなんて。とにかくこれから練習してみなはれ」

大根を薄く切っていく大不二。「これは、かつらむき言うてな。包丁の使い方の修練がこれが一番や」「凄く薄くむけていく。それなのに途中でちぎれない」「一本の大根から3メートル以上の大根の帯をむけるようになったら、包丁はどんなにでも使いこなせるようになる。夜も寝ずに命がけでやってみなはれ」「は、はい」

一週間後、スズキの洗い勝負をするジェフとウエスト・コーストの花板。「うむ。この舌ざわり、この歯ごたえ。比較にならない旨さだ」「ホント。第一全然水っぽくないもの」「なんだと。仲間ぼめしやがって」「……」「し、社長」「アメリカ人の作った方はうまい。これに比べたら、花板のは舌ざわりが悪くて、味が抜けている」「そんなバカな」

全ては包丁の使い方にあると言う山岡。「刺身包丁をいっぱいに使って、滑らかにすーっと引くと、刺身の切断面に乱れはなく、細胞もきれいに切れる。ところが乱暴に押し切るように切ると、切断面はザラザラに乱れて、細胞はひしゃげてしまう。切断面の乱れは、空気に触れる面積も大きく酸化しやすいから、味もすぐ落ちるんだ。洗いにすると、それが余計に目立つ。荒っぽい切断面からは魚肉のエキスが流れ出し、代わりに水が入りこんでくる。水っぽくて味が無くなってしまうのは、そのせいさ」

反省する社長と花板。「私らは最も大事なことを忘れていたよ。私が花板に変な演出を強要したのがいけなかったんだ。我々はもう一度やり直そう」「そうします。アメリカ人に花板の座を奪われでもしたら大変ですからね」