作:雁屋哲 画:花咲アキラ「美味しんぼ(15)」 | ロロモ文庫

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思い出のメニュー

西ドイツの豪華客船「ライン」が横浜に寄港し、船の中のレストランで午餐会が開かれ、東西新聞を代表して出席する山岡と栗田。

「ドイツ料理って思ったよりずっと繊細なのね。フランス料理のようにバターと生クリームを使ったソースをかけるのと違って、くどすぎることはないわ」「材料の持つ本来の味が素直に出てて、日本人には好感の持てる料理だ」

挨拶するシェフの寺杉。「皆さま、本日はようこそ」「えっ、世界でも指折りの豪華客船のドイツ料理のシェフが日本人とは」見事ですと寺杉を褒める山岡。「ただ、この燻製肉とザワークラウトの煮込みには、フランクフルトソーセージよりレバーソーセージの方は旨いんじゃないかな」「日本のお客様はレバーソーセージがお嫌いな方が多いもので、一般的なフランクフルトを使ったのです。この船は出航する前にもう一度来てください。レバーソーセージのいいのをご馳走します」「それは凄い」

船から降りようとする山岡にお願いがあると言う寺杉。「ドイツ料理のわかる方と見込んで」驚く栗田。「えっ、夕食をドイツレストランで食べてくれ?」「お願いです」「さっき、ドイツ料理を食べたのに」「……」「何か事情があるんだな」

事情を話す寺杉。「私は19歳の時、横浜の「ハンザ」と言うドイツレストランで働き始めました。ミュラーと言うドイツ人のシェフ兼オーナーには日本人の奥さんとサビーネと言う娘がいました。私はミュラー氏に才能を認められ、サビーネと愛し合うようになり、24歳になった時は、ミュラー氏は私をシェフに取り立ててくれると同時に、私とサビーネの結婚を許してくれたのです」

「実は、私は両親を早く亡くし、中学の頃にグレてしまい、少年刑務所に入りました。その時の悪党仲間の増田が訪ねてきたのです。増田は私の過去をミュラー一家にばらすと脅しました。私と増田は口論になってしまい、私は思いもよらぬ殺人を犯してしまったのです」

「私は懲役10年の刑を受けて、刑務所に入りました。それからサビーネと会っていません。面会も断り、手紙も受け取りを拒否した。サビーネに私のことを忘れて、他の立派な男と幸せになってもらいたかったのです。出所してから、ドイツに渡り、ドイツ料理の修業をして、こうしてラインのシェフになることができました。もう二度と会わないつもりでしたが、4年ぶりに日本に戻ると、サビーネのことが気がかりで。ハンザが私のいた時の味を保っているかも気がかりなので、ハンザに行っていただきたいのです」

ハンザに行ってきたと寺杉に言う山岡と栗田。「味は悪くないけど、活気がなく、店も古びてさびれていた」「そうですか」「隣近所の聞いたところ、ミュラー氏と奥さんは亡くなって。サビーネさんが一人で店を切り盛りしていると言うことです」「で、サビーネは?」「ずっとおひとりです。寺杉さんを待っているんじゃないかしら」「そんなはずは」「寺杉さんに頼まれたハンザのメニューを写してきました」

サビーネは私を憎んでいると呟く寺杉。「このメニューです。マッシュルームのスープとジャガイモのパンケーキが載ってない。二つともサビーネの大好物だったのです。それなのにサビーネがその二つをメニューから削ったと言うことは、私のことを思い出したくないからでしょう」「そのスープとパンケーキの作り方は?」「昔のノートです。ここに書き留めてあります」「このノートをお借りします」「えっ、どうなさるんです」「……」

ハンザに行く山岡と栗田。「はあ、ドイツ料理の特集ですか」「ぜひ、お宅のお店の得意料理を写真に撮らせて頂きたいんです」「わかりました。どうぞ」勝手に厨房に入り、料理を始める山岡に驚くサビーネ。「ちょっと調理場を借ります。写真に花を添えたいので」「ああ、そうですか」

自分の作った料理を栗田に説明するサビーネ。そこに現れる寺杉。テーブルについてくれとサビーネに言う山岡。「え。これはマッシュルームのスープに、ジャガイモのパンケーキ」「これを召し上がってください」「……」「味はいかがですか」「あの、余計なおせっかいかもしれませんが、メニューにこの2点を復活させることはできないしょうか。つまり寺杉さんと」

席を立つサビーネ。「どうしよう。逆効果だったみたい」「サビーネ。話を聞いてくれ」厨房に行き、スープとパンケーキを作るサビーネ。「さあ、食べてみて。この人が作ったのと比べてみて。いかが?」「私が作るのと全く同じ味だよ。悪いが山岡さんの作ったのは、これにだいぶ落ちる」「勿論よ。この味を出せるのは私とあなたしかいません。この二品は私にとって、特別の意味を持つものなの。だからメニューから外したの」「サビーネ」「いつか、あなたが帰ってきたら、その時にまたメニューに載せようと」

ハンザを出る山岡と栗田。「よかったわ。一時はしくじったかと思って。寺杉さんのスープとパンケーキはよっぽど美味しいのね」「昨日、試しに寺杉さんのノート通りに作ったら、実にうまかった。特にあのマッシュルームのスープは究極のメニューに載せる価値はある」「それじゃ、さっきはわざとまずく作ったの。サビーネさんに作り直させるために」「……」