死への一時間
「これを飲むとまずここちよい深い眠りにおちます。そして一時間ほどで心筋麻痺が起こって、心臓がゆっくりゆっくり止まります。試してみましょう」男はサルに薬を飲ます。「この薬は1942年にドイツでナチスがユダヤ人を殺すように開発したものじゃが、金がっかりすぎて中止したのをわしが完成させたのです。ほら、心拍が少しずつ弱まってきました。死にました」
死んだ猿を見つめるドクターキリコ。「そしてこの薬の特別な点はですな。後に証拠が何も残らんということです。ドクターキリコ。あなたがこの薬を使いなさるのは自由じゃが、自分で試みたことを自分で責任を持ちなされ。わしゃ無関係ですぞ」レストランで食事をするキリコ。そこにブラックジャックが。「こんなニューヨークくんだりで、うろうろしているのか。お前さんの商売はこんな所へも手を広げたのかい」
「お前こそ何故俺の行く先々で現れるんだ」「ニューヨークにも得意先があるんでね」「フン。お互い様だ」「今度は誰を殺した」「安楽死と言ってくれ」「おい。いい加減でお前の勝手な判断で病人を殺すのをやめろ」「今度ニューヨークに来たのは別の用だ。カルディオトキシンという薬を買いに来たのだ」
「なんだ。そいつは」「ご想像にまかせるね。実験中の新薬だ」「おい。まさかそれは」「ぐっすりおねんねして。その間にハートがだんだん静かになっていく平和的な薬さ」「そんなものを使うことは許さんぞ」「余計なお世話だ」「まだ殺したりないのか」「もう。お前にかまっちゃいられない。あばよ」しかしキリコは話に夢中になっている間にカバンを盗まれてしまう。カバンの中にはカルディオトキシンがはいっていた。あせるキリコ。
ブラックジャックはレストランの主人に聞く。「この界隈で客の持ち物をかっぱらうチンピラは誰だ」「6番地のアパートにいるジュリアーノってガキがひったくりの名人だぜ」ジュリアーノのアパートに乗り込むブラックジャック。ジュリアーノは自分の母にカルディオトキシンを飲ませていた。「あの薬は毒薬なんだぞ」「脅してもダメさ。話は聞いていたんだから」「何を聞いた」「俺のママは心臓病なんだ。いつも心臓の発作で苦しんでいるんだ。新しい薬なんだろう。わかってるんだい」「馬鹿め。あと一時間で死ぬぞ」
ブラックジャックはジュリアーノにキリコを探してくるよう命令する。「ヤツから聞き出さないと薬の正体がわからないのだ」キリコは大型のペースメイカーの電極を心内膜下へ埋め込んで手術するしかない、と告げる。ブラックジャックとキリコは大病院にジュリアーノの母を連れて行き、何とか手術に成功する。
ニューヨークの夜空を見上げるブラックジャックとキリコ。「ひとまず一件落着だな」「どうだい。大将。助けるのと殺すのとどっちが気分がいい」「ふざけるな。俺も医者のはしくれだ。命が助かるにこしたことはないさ」「ところでこの手術代は誰が払ってくれるのかな。ずーっとたどってみると、どうもお前さんらしいな」「馬鹿。折角の気分をぶち壊すな」