手塚治虫「ブラック・ジャック(71)」 | ロロモ文庫

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おばあちゃん

ブラックジャックは車をエンコさせてしまった男を車に乗せる。「あなたはもしかしたらブラックジャックというお医者さんでしょう。うちの母が時々あなたの噂をしています。なんでも日本には名医が二人いて一人はブラックジャック先生、もう一人は甚大先生だ、と。甚大先生をご存知で」「いや。知らんな」男の母は男の妻に金をせびる。「留守番代おくれよ。こっちは暑いなか、留守番していたんだから」「はい。お小遣い」「なんだい。たったの千円かい」

男の妻は男に相談する。「おばあちゃん。ふたことめには金をくれ、って。生活費にも限りがありますわ」「一体、何に使うのかな。おばあちゃんの部屋を調べたけど、お金はほとんど持っていないし、貯金もないし。どこかの宗教団体に寄付でもしているんじゃないのか」「あのがめついおばあちゃんがそんな寄付をするもんですか。でも時々一人で出かけてはガックリした顔をして帰ってくるわ」

ブラックジャックは甚大という医者のことを調べる。「ふん?名医だったのか。変人で一匹狼?べらぼうに高い診療代を取った?まるで俺だな。一度会ってみたいな。なに、20年前に死んだって?家はどこだい」甚大の妻の話を聞くブラックジャック。「主人はあまりに変わっていまして、同僚の先生から敬遠されてまして。患者さんを治すととんでもない請求をするんです。当時の金で500万円とか1000万円とか」「フフ。先生はさぞかし名医だったんでしょうな」

男の母はまた男の妻から金をせびりとって外出する。「おばあちゃんが出かけたぞ。今日こそ後をつけて行き先を確める」男の母の行き先は甚大の家だった。「あの方が見えたようですわ」男の母は甚大の妻に金を渡す。「いつもいつも。本当にわざわざ」「これが最終回のお支払いね。これで肩の荷がおりましたよ」「思えば30年。奥様は毎月ずーっと」「なんしろ甚大先生に誓ったんですからね。一生かかっても支払いすると。これで安心して冥土へ行けますわい」

甚大の妻はブラックジャックに説明する。「あのかたの息子さんは赤ん坊の時、ニーマン・ピック病というほとんど助からない病気にかかったのです」「それを甚大先生が直したんですね」「ええ。その時主人は1200万円の治療代を請求したんです。その時、あの奥さんは一生かかっても、どんなことをしても支払うと約束したんです。奥さんは貯金を全部使い、内職をして、甚大がなくなったあとも、支払いを続けたんです」

『主人もなくなったことですし、奥様、お支払いの方は結構ですから』『なんてことをおっしゃるの。私がこれまでしてきた努力を無駄になさると言うのですか』

その話を聞いて涙する男。「それ、本当ですか」男の母は道端で倒れていた。「僕のお母さん。しっかり」そこにブラックジャックが。「さわるな。脳溢血だ。気がゆるんだとたんに大脳に出血したんだ」

応急処置をするブラックジャック。「治るんですか。先生。お願いします」「私に主治医になれと言うんですか」「もちろん、治療代はお支払いします」「治る見込みは少ない。90%生命の保証はない。だがもし助かったら3000万円頂くが」「3000万円?」「あなたに払えますかね?」「いいですとも。一生かかって支払います。どんなことをしても」「それを聞きたかった」