手塚治虫「ブラック・ジャック(22)」 | ロロモ文庫

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閉ざされた三人

「何かしら」「地震みたい」デパートが崩れ始める。「やっぱり予感がしたんだ。日本は沈没するのだ」「なるべく柔らかそうな人間の上に飛び降りるんだ」「死ぬのはいやよ。ボーナスはまだ貰っていないのよ」「これは地震じゃない。多分地下水の汲み上げのためにデパートが傾いたんだ」ある親子とブラックジャックがエレベーターの中に閉じ込められる。

「ドアが閉まっちまった。ドアの向こう側に天井が崩れ落ちてきたんだ」「じゃあ、閉じ込められたの」男は重傷を負う。「これはひどい。腹腔破裂だ。内臓が飛び出しているぞ。せいぜい持って4時間だ。手当てしなければ間違いなく死ぬぞ」「おじさん。医者」「ああそうだ。だけどな、医者といっても、手術道具は何もない。今持っているのは注射器とわずかな薬ぐらいのもんだ。とりあえず鎮痛剤を打とう。それから出る方法を考えよう」

しかし出口はすっかりふさがれていた。「坊や。こいつは駄目だ。手も足も出ないよ。外から助けてくれるのを待つしかないね」「だってその間にパパが死んじゃう」また激しく揺れる。「馬鹿。地震の馬鹿。パパを殺したら承知しないからな」男は子供を慰める。「怒るならデパートに怒れ。このデパートに冷房のために地下水をくみ上げすぎたんだ。そのため陥没が起きたんだ。パパは土木技師だから見当がつく」「あまりしゃべらないほうがいいよ」

「しかし、何か話しかけてやらないと、この子がこわがります」「無理に元気そうに見せるな。出血は止められない。そのうち鎮痛剤が切れると、物凄い痛みはくるぞ」男は苦しみはじめる。「先生。お世話になります」「これで痛みとめはおしまいだ」「おじちゃん。なんだか苦しいね」「かれこれ3時間。このエレベーターは小型だからこの中の空気は。さっきから息苦しいと思ったんだ。計算するとあと一時間で酸欠状態になる。そうなれば三人とも窒息状態でおしまいだ」

男はブラックジャックに頼む。「先生。はっきり言ってどうせ病院に行っても私は手遅れでしょう。私が死ねばそれだけ酸素が浮きます。子供のためにもその方が。女房はこの子が生まれて二年ほどで死にましてね。それからこの子だけが生きがいだったんです。この子だけは生き延びさせてやりたい」「いやだ。パパ。死なないで。パパと一緒に死ぬほうがいい」「パパとお前が息が詰まって死ぬのと、お前が助かるのとどっちがいい」

ブラックジャックは男に注射しようとする。「それ毒だろう。殺し屋め」「どけ」ブラックジャックは注射する。男は動かなくなる。「この野郎」「大人しくしろ。これは賭けだ。あと1,2時間で救わなければ私たちも死ぬんだ」「パパ。パパ」「泣くと余計酸素が減るぞ」「もし助かったら一番にお前がパパを殺した、とはっきり言ってやるぞ」「言うなら勝手にしろ」

ギリギリのところでブラックジャックたちは救出される。「大人二人と子供一人だ。一人はどうやら死んでいるぞ」「あいつ。パパを殺したんだ」「いや。まだ死んでない。仮死状態だ。インシュリンを大量注射した。ほとんど息をさせないためには仮死状態にするしかなかった。ブドウ糖の注射と輸血をすれば仮死から目覚めるんだ。すぐ手術する。手術は私でなければ無理だろう」「生きてるの?」「そしてこの手術代はデパートからタップリとってやるぞ。タップリとな」