王手
（もうダメ）と観念する一条。（ああなったら、もう左流れもクソもない。避けられない。１０や２０玉ならともかく、あと３００玉以上ある。持つわけがない）３段目に次々と玉が送られ、二つの玉はゆるゆると当たり穴に向かう。「カイジ」「行った」「行ったあ」間違いない。誰もがそう思った。その時、玉はあたり穴直前で左右に割れる。「何だよ、今の」「跳ね返したぞ。縁で」
え、と驚く一条のところに村上がやってくる。「遅くなりました」「じゃあ」「ええ。ここに着いたら即ピンチでしたので、指示を待たずともかく作動させました。こいつを」リモコンを見せる村上。「ああ」「最終リモコンは長く使ってませんでしたから、実際きちんと作動するかどうか、少し不安だったのですが、問題ないようですね」リモコンを握り締める一条。（よし。やった。これで生き残れる。もう何発来ようとなんの問題もない。すべて跳ね返せる。あたり穴の回りにびっしり敷き詰められた極小噴射口。そこから噴射される強風。この風のバリアで）
徘徊
カイジはなおも沼を攻め続けるが、玉はことごとく吹き飛ばされる。「ぐ」まるで亡霊のダンス。浮遊し乱舞するだけ。命なく銀玉。届かない。当たりには至らない。結局ただ徘徊するだけ。クルーン内を。（馬鹿な。なんだよ、これ）カイジはシューシューと音がしているのに気づく。（吹き上げているのか。ひょっとして、あの回りから、風が。ぐ。あのヤロー。なんてことを。入るわけがない。そんなことをされたら）
惨禍
しかし玉はどんどん消えていく。カイジの周りを帝愛の人間が取り囲む。「うう」「早く打て。それが終わったら、確保だ。我々と共にいてもらう。招待しよう。天国へ」「うううう」「カイジ」
提案
遠藤の身柄も確保される。タバコを吸って一服するカイジ。（く。考えろ。何かないか。この苦境からの脱出。打破。起死回生。逆転。策略はないか。く。ない。そんなもの、どう考えても）「どうした。済んだろ、タバコは。いつまでぼーっとしている。打て。さっさと」
カイジは一条に提案する。「このままオレが打てば決定する。どちらかが勝ち、どちらかが負ける。無論、認める」「え」「この時点でのお前の有利は認めるが、しかし１００％じゃねえ。勝負は何が起こるかわからねえ。そうだろ」「なに、グズグズ言ってんだ」「引き分け」「はあ」
「引き分けで手を打たないか。つまり買ってくれ。今ある残り玉を１玉４００万。３０玉あるから約１億２０００万。これだけあれば、オレと遠藤さんの急場は凌げる」「アホか」「一条」「ざけんな。何が引き分けだ。負けるんだよ、お前は。明白じゃないか、もう」「いいのか」「あ」
「打って」「ぐ。さっさとやれ。燃え尽きろ。さっさと打って、消えろ。消えちまえ。地下行きだ」「後悔するぞ。一条」「カカカ。もういい。御託はいいから、打て。すぐ打て」
灰燼
カイジは泣きながら打つ。「おおおおおお」玉はなくなってしまう。カカカと笑う一条。「終わり。終わり。終戦。玉切れ。敗者決定。地獄。地獄行き」「あああ。嘘だ。夢だろ、これ。夢に決まっている」「ところがどっこい、夢じゃありません。現実です。これが現実。さあ、台から引っ剥がし地獄へ連れていってください。敗者を」
孤軍
カイジはまだ金はあると叫ぶ。「金は地下を出るときに手にした８０万。ちょっと使ってしまったが７２万。一条、打てるはずだ。まだ、これで」「ククク。ダメ。この沼は最低３００万ないと打てません。その７０なんたらという端金では」「そこをなんとか、バラ売りで」「ククク。ダメ。お引取りを」カイジは帝愛の人間に取り押さえられる。「誰か、助けろ。金だ。金を貸せ。見りゃわかるだろ。もう少しで攻略なんだ。注ぎ込め、オレに。貸せ。誰でもいいから、貸せ。俺に金を」
そこに札束の雨が降ってくる。「誰だ。その裏にいるのは」「一条はん。あんたはひどい人や。実際、なけなしの金。最後の金ちゅうもんは、その人間にとって、命の灯。生きる希望そのものや」坂崎は泣きながら訴える。「奪ってきたんや。あんたは、それを。この怪物で。無慈悲に。おそらくは何十人。いや、その家族をいれたら百に届こうかという人間が、この沼によって最後の望みをたたれ、死んでいった。自ら」「知らん。そんな話は」
「一条はん。そのことを思えば、ここに溜まっているこの銀玉一つ一つが、まるで涙。散っていった人間たちの悔恨。怨嗟の涙。その結晶」「く」「カイジ。この勝負はわしらの話しやない。この沼によって散っていった数多の破産者。その人間たちの無念を晴らす戦いだ。なんとしても勝て。そのために持ってきた。都合２０００万。放出させろ。悪魔どもの不当な蓄え。収奪金を」「おっちゃん」