福本伸行「賭博破戒録カイジ・地下チンチロ編(10)」 | ロロモ文庫

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奪取

賽は盆の中で回る。沼川は大丈夫と思う。(奴ら気付いてない。このシゴロ賽に気がついてない。まあ、仮に気付いても、要するにこの賽を押さえられなければいいのだ。目が出て、もし連中が妙な動きを少しでも見せたら、その時はオレが賽をさらえばいい。それでOK。問題ない。仮にバレていたとしても問題ない)

確かに賽さえ渡さなければ問題ない。あとは相手が何を言おうと、知らぬ存ぜぬで通すまでで問題ない。そしてこの賽の取り合いは賽に近い班長側に有利。だからそのことに班長側が身構えていたら、この賽の取り合いは沼川が先。しかし、虚を突けば別。このチンチロという心理の死角。誰もがその時だけは息をのんで見守るしかない。神に祈るしかないそんな時間。そんな時間を盗めば別。

カイジは賽が回っている時に、盆の中に手をつっこむ。「な、何をする」「まだ、回ってんじゃねえか。返せ、こら」「なんて、無法だ。いくら、いい目が出そうだからって」「黙れ。無法には無法だ。みんな聞け。こいつらはイカサマをした」「何を言うか。違う」「違わねえ。その証拠はこの手に握りこんだ。この手に奴らのイカサマが」

 

半鐘

大槻たちは強引にカイジの手から賽を奪おうとする。そんな大槻の肩を叩く他の班の班長。「まあ、ああ言ってるんだ。手の中の賽を改めるくらいいいだろう」「あ。だから、それを、わしらが」「お前さんじゃ意味がないから、この男はこんなに抗っているんだろう。わしらが見よう」「待ってたぜ。そんな中立な審判を。さあ、見てくれ。これが奴ら常勝の秘密」

大槻たちがシゴロ賽を使っていたことが判明する。取り囲まれる大槻たち。「で、いつから使ってたんだ、これ」「え。そりゃあ、もちろん初めてだ。というより、使う気などなかったんだ、まるで」「何言ってる。実際に使ってんじゃねえか」「それは混じってしまったんだ。これはあとで余興というか、みんなをびっくりさせて、面白がらせようと思って」「ふざけんな。誰がそんな話信じる」

「その証拠に一投目、二投目は使わんかった。この賽は必ず目が出る。一投目、二投目は普通の賽を使ったわけだ。そんなことをして、もし弱い目が出たらわけわからんじゃないか」「違うな」「は?」「確かにシゴロ賽で勝とうと思えば第一投だ。それが基本。事実お前はその基本通り、大勝負ではシゴロ賽を使ってきた。さっきの親の振り。あれだけが超特別な行為だったんだ」「誤解だ」

「いや、誤解でない。多すぎた。あんた、多すぎた。一投目に強い目が出るその割合が偶然の域をはるかに超えて多かった。この三好のメモを見るまでは、そのことに気付かなかったんだから、オレも抜けている。しかし、このシゴロ賽ってやつは、ちょっと性質が悪くてよ。振れば必ずシゴロじゃない。4の目も5の目もあるんだ。そうなると、こっちが勝っちゃうこともある。それが今にしてみれば絶妙だった」

「この必ず勝つわけじゃない、という揺らぎが、いい具合に煙幕の役目を果たしたんだ。事実、オレも初っ端はそれにやられた。4の目相手に、5の目で2連勝。大喜びしたわけだ」問題はそっちの出方だったというカイジ。「俺たちの大勝負の気配に、妙な警戒心を起こして、あんたがシゴロ賽を使わない。これが問題だった。だから、初っ端に2万ってとりあえず大金を張って、あんたらの出方を確認にいった」

「そしたら、一番手の石和が相変わらず能天気にシゴロ賽を使ったので、内心ほくそ笑んだわけさ。あとは、あんたの親番を待って大勝負をするだけ。しかし、勝負事はおっかねえ。ここで予定外のことがおきた。あまりにも大勝負になったため、あんたの猜疑心を揺り起こしてしまった。この土壇場で、あんたはシゴロ賽を使うのを思いとどまった。疑わしくは使わずと判断した。これではオレも手も足も出ない」

「しかし、何しろほぼ勝ちが拾えるシゴロ賽だ。できることなら、あんたもこの賽を使いたい。その未練心が結局は命取りになった。普通チンチロは賽が丼に投じたら、誰だって丼を覗くのが当たり前だ。なのに、あの時、あんたオレの目を見た」「う」「確かめにきた。オレが本当に気付いているかどうか。気付いてなきゃあ、シゴロ賽を使おうという助平心でよ。あの目でオレも気付いた。結局、疑り深いあんたは、一投、二投とシゴロ賽を使わなかった」

「そして、あんたがシゴロ賽を使う気になったのは、オレもさることながら他の五人の反応が大きい。みんな不思議がらなかった。シゴロ賽でないことを不思議ながらかった。まあ、その反応は当然だ。オレが今回の勝ちの仕組みについて、まるで話してないんだから、不思議がるもクソもない」「……」「ククク。それもオレの戦略さ。結局あんたがシゴロ賽を使ったのは、三投目。すぐピンときたぜ。この三投目にかぎり、あんた丼に集中した。もうオレに目もくれなかった。結局、最初使わなかったのは、単に保身のための躊躇。違うか」

 

褫奪

立場の悪くなった大槻は土下座してあやまる。「今回の件について非は全面的にわしにある。弁解の余地はない」(どうしたらいい。ここはなんとか浅目の傷で)「ふざけんな」「お前はイカサマしてんだよ」「返せ、金を」(まずい。この流れだけはまずい。遡っての弁済だけは避けなければ)「イカサマヤロー」「死ね」(くそ。なんでこんな目に。あのガキのせいで。今にして思えば、わしを挑発したのは、この時のためにあったのだ)

(今、考えれば見え見えではないか。見え見えで、わしの敵愾心を煽ってきた。踊らされてるのは、わしだった。ヤツが憎らしいから、その憎悪がわしを勝ちに向かわせて、最後の最後でシゴロ賽を使わせてしまった)苦肉の策で大槻は賽を振っていないと言い出す。「カイジ君が丼を奪ったとき、あの時まだ賽は回っていた。つまり、目は不確定。これはわしはまだ振ってないということだ。よって成立していないんだ、このチンチロは。よってイカサマもクソもない。ノーカウントなんだ、この勝負は」

その言葉に怒りまくるギャラリー。「なんだと」「ふざけるな」「殺せ」「イカサマ野郎」「死ね」そんなギャラリーを制するカイジ。「苦し紛れに言った割りには、案外痛いところを突いてきている。まんざら理がないわけでない。しかし、そういうことなら、提案がある。こっちも」

 

謙譲

やり直しを主張する大槻に対し、続行なら考えてもいいと答えるカイジ。「続行?」「そうさ。これがこっちのできる譲歩」「え」「あんたの目はシゴロ賽における最低の目。4だ。この4に対して、俺たち6人が勝負する。当然だろ、これくらいのペナルティは」大槻は苦しそうな顔をして、内心ほっとする。(バカめ。こんなイカサマはあれば、過去に遡ってのペナルティがあった。それをこの程度のペナルティで済めば安いもんだ。やった。生きた。生きた)

(結局、ヤツはこの勝負無効という脅し。すべてが水泡無為に終わるのを恐れたのだ。押し返した。ククク)「おい。どっちだ。受けるのか、受けないのか」「ぐっ。苦しい条件だが、仕方あるまい」勝負は再開される。「班長」「あ」「もう一度確認する。一回目のあんたの親の目は4。それを受けて俺たちが振る。いいな」「仕方あるまい」「あんたの使った賽は特殊賽。あんたらが今そうしたように、俺たちも特殊賽を仲間内で回して使う。いいな」「仕方あるまい」

賽を握り締めるカイジ。「始めるか。最後の勝負。まず、オレから」