福本伸行「賭博破戒録カイジ・地下チンチロ編(9)」 | ロロモ文庫

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魔法

一気に盛り上がるギャラリー。「一振り50万ペリカ」「いやいや、倍付け、3倍だってありうる」「ヘタしたら100万150万の博打」「すげえ」「すごいぞ、カイジ」(コレが狙いか?)と考える大槻。(だらだら張るのではなく、こういう劇的な張りをすれば、勝っても負けてもヒーロー。バカどもが盛り上げる。結果、伝説じみた逸話が残る)

「どうだ。見ての通り、臆したわけじゃない。さっき張りを1000に下げたのは、万が一にも失うわけにはいかないからだ。闘う前に無一文じゃ話にならない。オレが倒したいのは、周りの腰巾着でなく、暴利を貪るタヌキ。あんたなんだからよ」ぐっとこらえる大槻。(落ち着け。心を静めろ。ここは腰を落とすんだ。そして考えろ。そんな伝説作りやわし憎さで、こんな大金が張れるか)

(ありえない。ありえるはずがない。何の勝算もなく、張れる金でない。つまり、勝算があるのだ。ということは、嗅ぎつけたということか。わしの常勝チンチロの秘密。魔法の賽を)

一年前の真夜中、大槻は石和と沼川を食堂室に呼び出す。「なんですか、班長」「ククク。聞かれちゃまずい話もあるさ。やっと仕上がってきたのだ。数ヶ月前に一日外出券で外に出たとき、注文しておいたものが、やっと出来上がった。まあ見ろや。わしらがやっている博打、チンチロを常勝へ導くサイ」「は」「シゴロ賽だ」「は」「見ろ。この賽には1、2、3の目はないんだ。4の裏は4、5の裏は5、6の裏は6」「はあ」

「これで振ると、チンチロの目は一回で必ず出て、最悪でも4の目という優れもの。もちろん、ゾロ目、シゴロの目もガンガン出る。計算してみるとゾロ目、シゴロの目の出る確率は3割3分。3度振って1回は出現する確率だ」「う」「ククク。こいつを使おうじゃないか、ちょくちょくと」「しかし、赤い1の目がないってのは」「大丈夫。賭場は暗いんだ。この賽はあくまでここ一番。ごく時々しか使わん。そして、この賽はこうして目は出た後もなんら不自然さがない。立方体はどう見ても、いっぺんに三面しか見えない。その範囲内では、この賽はあくまで正常」「いいすね。面白いスよ。これ」「ククク」

歯をかみしめる大槻。(こいつ。気がつきおったか。このシゴロ賽及び常勝システムに。クズの分際で)

 

疑獄

どうしてわかった、と考える大槻。(ヤツが大敗。45組に陥落したあの時の様子では気付いているような素振りがなかった。あの後は一切博打に参加していないし)大槻はカイジの隣にいる三好に気付く。(そうか。こいつか。こいつのメモだな。ここ一番、第一投に強い目が続くのを見て、嗅ぎつけおったか。少しなめすぎたか。あんなこと許さなければよかった。くそ)

(ばれてしまった以上、しょうがない。シゴロ賽を使わず凌ぐしかない。奴らの狙いはわしがシゴロ賽を使ったその現場を押さえ、わしに恥をかかせ、さらに、その落とし前として張った額の2倍、3倍をふんだくろうって魂胆。その手に乗らん)大槻は盆に手を伸ばす。「よっしゃ」「振れ」「班長から」(勝てるのに。いつもなら、なんなく勝てる勝負なのに。ちょっとした油断で、こんなクズ相手に、普通の賽。運否天賦の博打をしなきゃならんとは)

賽を振る大槻。カイジを睨みつける大槻。(ここだ。ここで出るはず。気配が。ヤツが気付いているなら、賽を押さえに行く)しかしカイジは動かない。(動かない?いったい)そして大槻の目は、3、4、5の目なし。ざわつくギャラリー。「おお」「危ない」「もう少しでシゴロ」「命拾いだ」不安そうにカイジを見る三好。(どういうことだ。シゴロ賽を押さえようという動作がまるでなかった。他の連中も、ただ目が出なかったことを安堵しているようしか見えない)

考え直す大槻。(待てよ。杞憂なのか。ひょっとして、ヤツは何も気付いていないのか)

 

止観

(ひょっとして、ヤツは何も気付いていない。わしの思い過ごし。独り相撲?いや、そういえば今の第一投はすべてを諦めて振ったから、ポケットにシゴロ賽を取りに行く。そんな動作をしなかった。そこか。その素振りがなかったのを見て、一投目はなしと踏んだのか。なるほど)大槻はポケットの中に手をつっこむ。(なら、それらしい動きをきっちり見せてやろうじゃないか)

「行くぜ。二投目。ここで出す。きっちりシゴロを」ざわつくギャラリー。「いいぞ」「班長」(丼の賽を握った左手といかにもポケットから何かを握りこんできたかのような右手を合致)「んー」(これならどうだ。これならシゴロ賽使用のわし本来の動き。文句はあるまい)賽を振った大槻は、カイジを睨みつける。(さあ来い。丼は明らかにわしのほうが近いんだ。シゴロ賽を押さえることができない。ならば、この回っている段階でにじり寄ってくるはずだ)

(手か?体全体か?それとも足?)しかしカイジは動かなかった。(動かない?動かない?やはり、違うのか)そして大槻の目は2、4、6で目なし。ざわつくギャラリー。「ひっ」「またシゴロの成りかけじゃんか」「アブねえ」「ふー。助かった」45組の様子を見て考え直す大槻。(違う。こいつら気付いていない。もう、そう考えるしかない。カイジの反応も。雁首並べてる、このバカどもの反応もそう)

(シゴロ賽の存在を知っている者の反応とは思えん。知ってるのなら、ショックか失望があるはずだ。こっちがシゴロ賽を使わないという失望が。しかし、そんなもの、この連中には微塵も感じられない。ただ能天気に丼を覗いて一喜一憂してるだけ。しかし、となると、この金をどう考える。ただのバカ張りと考えるには、あまりに)ハッと気付く大槻。(ひょとすると、奴らの狙いは、このわしの迷い。これが狙いなんじゃ。つまり、この金はわしらの動きを止める抑止力のための金。イカサマ防止の重し)

 

符号

(つまり、本当は何もわかってないのだ)と確信する大槻。(このシゴロ賽のことなど何も。しかし、それでも何か、わしの勝負強さに対して不信感というか、直感的にイヤなものを感じて、何かあるかもしれないと考えてる。重しを中に入れたとか、磁石を仕込んだとか。つまり、本当のネタには届いていない。それなら、問題ない。つまり、奴らの大金は何かをしていることを封じ込めにきただけなのだ)

クククと笑う大槻。「今、なりかけたの。二度もシゴロ賽に。登り調子。今、勢いはわしにある」「正気かよ。二度目なしのどこが登り調子だ。バカ言ってんじゃねえ」「いやいや。予感がする。三度目の正直」「ふん。いかれたことを。目なし惨敗だよ。おめーは」「わかるさ。もうすぐわかる。どちらが正しいか」大槻はシゴロ賽を気合をこめて振る。