福本伸行「賭博破戒録カイジ・地下チンチロ編(11)」 | ロロモ文庫

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応報

シゴロ賽を畳の上に置くカイジ。「ククク。ちょっと割りに合わない。そう思わなかったか、三好」「は」「無論、班長が4の目なら、俺たちはこの賽を6人で回せば、ほぼ全勝。負けはない。それなりの収入はある。しかし、あれだけのイカサマを暴いたわりには、割りに合わないって思わなかったか」「まあ、少し」「ククク。安心しろ、三好。済ますわけねーだろ。そんなもんで」

カイジはポケットから賽を取り出す。「ああ」「いらねえんだよ、そんなシゴロ賽。こっちはこっちで用意させてもらった」(食らえ。因果応報。天誅。報い。これがお前のイカサマの報い。1、1、1のピンゾロ。5倍づけ)絶叫する大槻。「バカもん。なんだ、この賽は。6面全部1じゃねえか。通るか、こんなもん」「通る。念押ししたはずだ。俺たちもお前たちと同じように前もって用意した特殊賽を使う、と」「そ、それは」

「そして、それを仲間うちで回すと」「なに」「当然だ」「ダメ。通るか、そんなの」しかし他の班の班長はカイジを支持する。「なるほど。そういうことか。カイジ君が随分譲歩するんで、どうしたことかと思ったが、そういうことなら納得だ。大槻、こりゃ認めるしかないな」「そんな」「みんなカイジ君の言ってる通りじゃないか。お前は認めとったぞ。特殊賽を使うことも、仲間うちで使うことも」「そうだ。自分ではメチャクチャやっといて、今さら何を言うか」「そうだ」「そうだ」

ククク、とほくそ笑むカイジ。(回ってきたな、俺たちをさんざいじめてきたツケが。オレが欲しかったのはこの空気さ。いくら、こっちの理が通っていても、心情的にみんなが味方してくれなきゃ、こうはいかねえ)「カイジさん」「聞いたとおりだ。行け。遠慮なく」「はい」「ピンゾロ」「ピンゾロ」「ピンゾロ」「ピンゾロ」「ピンゾロ」「6連続ピンゾロ」愕然とする大槻。「ククク。手持ちじゃ足りなそうだな、班長。俺たちの張りは50万7000。あっというまに、その5倍の253万5000だ。こいつを払ってもらうには、持ってくるしかないな、金庫」「う」「聞いてるぜ。おめえの個室。班長室にはたんまりペリカが詰まった金庫があるっていうじゃねえか。もってこい、それを」

 

贖罪

金庫を持ってくる大槻。「貯めこみやがって」「汚ねえヤツ」「イカサマの金」(何を言う。お前らだって適当に楽しかったはずだ。これくらいの金をわしが得るのは当然だ。それをこんなしょうもないミスで253万だ。大変な出費だ。目標の2000万が遠ざかってしまった。2000万になったら本格的に贅沢。外出して温泉や避暑地、ビール、ハワイ。いろいろしようと思ってたのに)

そして253万5000ペリカ支払った大槻はスゴスゴと金庫を持って立ち去ろうとする。カイジは大槻を呼び止める。「どこに行く」「どこって、わかるだろう。今日はもう仕舞い。正直へこたれた。わしはもう休ませてもらう」「そう、やめるんだ。一度負けたくらいで」「カイジ君」「わかったよ。そりゃあ、やめたくもなる。でも、班長、仮にやめるとしても親はやりきってもらわないと」「はあ」

「忘れたか。親は通常2回だぜ。当然もう一度振る義務がある。続行だ。座れよ」「座れって、まさか」「そうさ。張らせてもらう。もう一度全部。さあ、勝負。総額304万2000張り。無論この勝負はさっき宣言したとおり、特殊賽を使う」シゴロ賽を大槻に投げるカイジ。「気にすることない。存分に使ってくれ。俺たちも使うんだから、似たようなものを」

ざわつくギャラリー。「どういうことよ」「決まってる。再現だ」「またあの金が5倍づけ」「300万は1500万返り」「班長の支出は合計1800万だ。吹っ飛ぶぞ。ヤツの金庫の金全部」「おおお、すげえぞ」ぶるぶる震える大槻。「冗談じゃない。そんなこと」そこに現れる黒崎。「いや。筋は通っている。積み重ねたロジック。理はカイジ君にある」

 

喝采

黒崎の貫禄に圧倒される一同。黒崎はカイジの賽をあらためる。「ふむ。何かの骨だな」「それは班長が食っていたTボーンステーキの骨。そいつをトイレで少しずつ削って、サイコロの形にした。ピンの朱はオレの血を擦り込んだ」「なるほど。大槻とやら、仕方ないな。お前はからめとられたんだ。お前が今までここの連中にしてきたように、綿密に用意計画されからめとられた。他人にはするが、自分がされた時はゴメンこうむる。通らないだろう。それは」「それは誤解です」

「いやいや。カイジくんも素晴らしいが、君もなかなかのものと私は思っている。このシゴロ賽の発想が素晴らしい。そして親がどんな目でも子が振れるというこのエセ平等。博愛的ごまかしが秀逸。さらに親を2回に限った配慮。これも素晴らしい。人間というものはついもう一度と欲をかくもの。まして振れば大方勝つ。そんな賽を手にしたら尚更だ。この親2回制は勝つ権利に自ら枷をつけた点が素晴らしい。人間、なかなかこれができなくてな。ククク」

「さらに、大槻君、ルールで5ゾロや6ゾロを最高の役にしなかったのも素晴らしい。一番強い目はピンゾロに置いた。この配慮が素晴らしい。こうしておけば、印象がぼける。この抑制も悪くない。通常悪くない。しかし、この一種の遠慮。勝ちすぎることへの配慮は同時に決定的な隙を生む。何しろ自分らが出せる目より強い目の存在を許すのだから」「う」「考えねばならない。システムを作るものは、そのシステムのアキレス腱について。そして備えなければならない。不測の事態に」

「つまり、わしならお守りがわりにカイジ君と同じものを常に懐に忍ばせておくくらいの用心をしただろう。お前はそれを怠った。となれば、その報いを受けなければならない」「というと」「カイジ君の言ったとおりさ。特殊賽で仲間うちで回して使う、ということで勝負続行さ」「そんな。黒崎様。勘弁してください。こんな必ず負けるギャンブルなど」「いやいや、そうとは限らんぞ、大槻君」「え」

「確かに、この勝負、シゴロ賽を使えば100%負ける勝負だが、普通の賽を使えば、引き分けの目も出て来る。216分の1ほどの確率で」「黒崎様」「ここは潔く、その確率にかけるしかあるまい」「それは、あまりに」騒ぐギャラリー。「こら、大槻。往生際が悪いぞ」「やれ」「やれ」「言ってたじゃねえか、お前は念じる力で目が出るんだろ」「そうだ」「やってみろ」追いつめられてボロボロ泣く大槻。「うううう。くくううううう」