福本伸行「賭博破戒録カイジ・地下チンチロ編(7)」 | ロロモ文庫

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虐待

班長である大槻の直属の部下は石和と助川の二人であったが、ほかにも彼の息のかかっている男は何人かいた。石和は大槻に言う。「さあ、班長。お気のすむまで制裁を」「何をいうか。制裁などとんでもない。わしは毛ほどもないぞ。そんな気は。大袈裟だな、石和は。万事無事に穏便に済ませることが班長たる者の務めだ」「しかし」「まあ、考えてみろ。ここはカメラで常時監視されている食堂だ。そんな食堂で暴力沙汰などできるはずもない。まあ、カメラの目の届かぬトイレや現場の死角のようなところでというのなら、ともかく」「……」

「彼はここんとこ続けてきた節制のストレスで、精神のバランスが崩れておるのだ。彼は自分が何をしているのか、よくわかっていないのだ。だから許してやろうじゃないか。寛容な精神で」これを契機に大槻の陰湿ないじめが始まる。暴力に訴えずとも彼らにはいくらでもやりようがあった。きつくて危険な作業の割り当て。人の嫌がる時間外労働。病人の世話やゴミ出し。カイジらの蓄えだった数少ない嗜好品の角砂糖が水びたし。

集まって相談する45組。「許せない。どうする。いっそみんなで班長を」「よせよせ。バカを言うな」「だって」「いいか、三好。オレは逆に感謝したいくらいだぜ。班長に」「は」「そうさ。ヤツは自分のやってることの意味。それがどういう効果を生むか。そのあたりをまるでわかってない。嫌がらせをすればするほど、ヤツは自分の首を絞めているんだ。だから、これくらいは許してやろうじゃねえか。寛容な精神で」

 

獲得

カイジたちは耐えに耐えて、完全返済。借金生活の解消に成功する。6月30日はカイジたちが待ちに待った給料日。3ヶ月ぶりのピンハネされていない正規の給料、9万1000を。首をひねる石田。(こいつら、ついにやり遂げやがった。どうしてできるんだ。45組に堕ちるような、あんなクズどもが。どうして、あんな忍耐を)

大槻はE班の給料を渡す。「カイジ。驚いたな。案外我慢強いんだな、おまえ」カイジはすぐに給料を改める。「こら、失礼だぞ。その場で改めるなんて。信用してねえのか」「当然だ。信用できるはずがねえ。鬼畜じゃないか、お前らは。自分の利益のために仲間を犠牲する鬼畜」

その様子を地上でカメラで見る帝愛グループナンバー2の黒崎義裕。「あの男だろ。例の利根川を失脚させた野良犬。人騒がせなカイジとかいうのは」「そうです」カイジのアップを見て笑う黒崎。「なるほど。野良犬だ。典型的な野良犬だ。しかし、この地下に堕ちても、どうやらまだ抜けてない。牙は」

45組は満額の給料を得て喜ぶ。そんな45組をいさめるカイジ。「浮かれるな。まだ今夜の勝負が残っている。そこでしくじりゃ文無しだぞ」「すいません」「そう。まだゴールじゃない。班長を倒したときこそ、俺たちの真のゴール。この金はそれをなす為の小さな刃。最初の火。種火だ。この火を大きくし、あの班長を焼いてこそ勝利。焼き尽くす」

 

座視

第一土曜日、第三土曜日の夜。月二回の開帳がこの地下の決まりであるが、今月は第五土曜日まである月。ゆえに通常ない月末に開帳。給料日と大盆が重なるおっかないダブルの日。そんなただでさえ物騒な大荒れ必至の夜なのに、今夜はその嵐に拍車をかけるようにある噂がこの地下で巡っていた。おそらく45組は大槻に戦いを挑むはずだろう。なら今夜のチンチロ勝負。班長グループ、大槻・石和・沼川対カイジら45組。

しかしチンチロが始まっても、カイジたちは参加しなかった。噂する他の班の班長たち。「どうしたんだ、奴ら」「まあ、そうは軽々しく動けない。今夜は一度参戦すれば限界まで行かざるを得ない博打。慎重になるのはやむを得まい」「まあな」「それに考えてみれば結構ハンデがでかいんだ。金の乗せあいになったら、どうみても大槻有利。カイジらは全員集めて54万ペリカ。大槻は数年の班長暮らしで強力に金を蓄えている」「となると、恨みはあれど、参戦はなしか」「ありうるな」

じっと待つカイジ。(今夜は闘うに決まっている。ただ、タイミングが難しい。博打の導入の仕方が。ここをしくじると今まで積み重ねてきた忍耐が総て水泡。勝利への道を失ってしまう。気付かれたらダメ。俺たちの必勝の骨組み。その匂いを敵に気付いたら、火薬庫の扉は閉ざされてしまう。となれば大勝はもう不可能。だから今注意しすぎることはない。こっちから動くのは最小限にしないといけない)

(班長だ。ヤツに動いてもらうんだ。それが一番ナチュラル。班長、お前はオレが憎いだろ?また45組に落としたいだろ?この大ギャラリーの中で、己が勝負強さを見せつけたいだろ?)じっと待つカイジ。その視線を感じる大槻。「なんか、さっきから見とるの。女の腐ったようなヤツが一人。隅っこで」「カイジさん」(来た)

 

招聘

クククと笑う大槻。「どうした。あまりネチネチしていると男を下げるぞ。カイジ君。わしらはもう対決するしかないのだ。皆期待しておる。遺恨試合を」「ククク。いいのかよ。俺が行くとなったら、遊びじゃなくなる。張らせてもらうぜ。限界を超えて」「ククク。限界を超えて、か。それはつまりMAX2万の限定解除。青天井を望む、ってことか」「そうだ」「ククク。バカなことを。しかし、どうしてもご所望とあらば、仕方ない。来い、カイジ。受けてやる」

立ち上がるカイジ。「カイジさん」「予定通りだ。ただもう一つ確認しておきたいことがある。お前らは少し待て」「はい」大槻に対峙するカイジ。「ククク。どうした。リーダー、一人ぼっちとは、淋しいじゃないか。仲間を連れて来いよ。他のクズどもを」「是が非でも勝たなきゃならない博打なんでね。流れも見えないそんなしょっぱなから連中を巻き込むわけにはいかない」「ふん」

「さて、石和さんの親が終わって、班長の親が終わったから、次の親は隣の沼川さん。ってことはいいんですね。いくら張っても」「バカ。オレはダメ。受けてやりたくても、今は手持ちが」「借りりゃいいじゃないですか。隣の班長から」金の貸し借りはやっていないという大槻。「いつもは仲間でも博打は別。博打の基本はあくまで個々」(ククク。よしよし、思ったとおりだ。班長グループの3番目は大きく受けれない。そりゃそうだよな。あんたらの博打じゃ当然そう)