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尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

男の眼がその文字を凝視した。
いや、正確に言えばその言葉が男の心を捉えたのだ。
”心願成就”
男は心が打ち震えるのを感じた。
灼熱の砂漠でギンギンに冷えたスーパードライと枝豆を見つけた様にだ!

男にためらいは無かった。
次の瞬間、厄災除去にチェックを入れようとしていた男の指は
心願成就をチェックしていた。

厄除けなどネガティブ思考の何者でもない。
前に進むことが人生なのだ!
心で叫ぶと同時に頭の中でクイーンのウィ・ウィル・ロック・ユーが流れた。

男が金を払うと無愛想な受付の男が言った。
「これから本堂で護摩修行ですのでお入り下さい」
受付の男に促されるまま男はお札所を出て本堂に入った。


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薄暗い本堂には巨大な不動明王像が鎮座されていてその迫力に
嫌がおうにも厳粛な気持ちになるが―それにしても寒い―。
しかも床は薄っぺらいカーペット一枚ときている。
ここに正座は正直きついが、これが修行なのだと
男は自分に言い聞かせ直ぐに始まるであろうその時をじっと待った。

―何かが俺を呼んでいるー。
そんな気がした男はその得体のしれない何かに引き寄せられるように
不動尊参道をもくもくと歩いた。
俺の意思じゃない、そんな気さえした。

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やがて大きな木造の門が見えてきた。
力強く威風堂々とした造りは近付く者を押しつぶしそうなほどだ。

   これが仁王門か・・。
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男は点滅を始めた横断歩道を急ぎ足で渡るとその勢いのまま
仁王門をくぐり抜け不動尊の境内に入った。
目の前には不動堂が建っている。
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    関東の三大不動と言われるほどのきらびやかさは無いが
    むしろそれが弘法大師空海なのかもしれない・・。

そんなことを考えていた男ははたと気付いた。
今はそんなことを思案している時ではない。
男は自分の目的を思い出すと早速右手に在るお札所へ入った。

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   「家内安全と厄除けをお願いします」
   すると愛想の無い五十前後の男が無表情に二枚の紙切れを出した。
   もっともここで営業スマイルはいただけないが・・・。

   「こちらに名前と金額、祈祷名を」
   そこには家内安全、健康祈願、厄災除去など二十にも及ぶ項目が並んでいる。

弘法大師様が金額で差をつけるはずは無いと
男はそう自分に言い聞かせ金額と名前を書いた。
そして一枚は家内安全にチェックを入れ、
もう一枚には厄除けのチェックを入れようとした・・その時だった!

―こ、これは・・・-。
男の目がある一点に止まった。





「ちぇ、何て天気だ・・」
錆びついた門扉を閉め、歩き出した処を小雨交じりの凍てつく風に
呼びとめられ男は思わず垂れ込めた灰色の空に毒づいた。

だが男は目的の地へ行かなくてはならない
一つ息を吐き出すと重たい足取りで歩き出した。

10分後、表通りに出ると寒さのせいだろうか
人影もまばらな通りは何もかもが灰色で
走り去る車の音もどこか寂しげに見える。

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男は駅前のキャッシュディスペンサーでなけなしの現金を引き出し
駅のホームへと降りたがどうやら走り去った後だったようだ。
1本、2本、3本と冷たい風を引き連れて電車が通りすぎて行く度に
男は孤独感にささいなまれた。
各駅しか止まらないと分かっていても、忘れ去られた存在に感じるのだ。

やがて男の乗った電車は30分ほどで目的地の高幡不動駅に着いた。
人の往来が多いからだろう、思ったより駅前は整備されている。
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そして不動尊参道と書かれた通りをすれ違う人に眼を合わる事も無く
目的地に向って男は黙々と歩いた。

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目的の地はもう直ぐだ。