尾川永次のブログ -14ページ目

尾川永次のブログ

小説、ポエム、旅日記などなど徒然なるままに行きたいと思っています

実は今日、用事があって出掛けてたのですが

ついうっかりバスの中にスマホを忘れてしまいました。

 

慌てて公衆電話(見つからなくて困った)からバス会社に

電話したら運行中なので確認取れたら連絡しますとのことで

一旦家に帰ることに。

 

どうしたもんかと思案していたら、何となくスマホの位置を

特定出来るのかと思いまして。

よくドラマやニュースでそんな話を聞きますよね。

 

で、何げに検索したらグーグルのアカウントで探し出すことが

出来るそうな!

しかもロックしたり、鳴らしたり、データの消去もできるとな。

 

いくつか条件があるのですがどうやら条件を満たしているよう

なのでとにかく試してみることに。

 

そうしたら何と!スマホの位置が出て来たではありませんか!

びっくりポンです。

 

観てたらスマホはどうやら移動しているようでそのまま追跡。

 

で、少ししたら止まったのです。

すかさずグーグルストリートで観たら家から車で20分の所にある

バスの待機場所でした!

 

慌てて車ですっとんで行ったら、そのバスは出て行った後でしたが

それでも目的地を聞いてバスを終点の駅まで追っかけて行き

やっとこさスマホを回収しました。

良かったー!

 

それにしても怖いですよね。

この方法なら他人のスマホの位置を特定出来るって

ことですからね。

 

何だか科捜研の女の気分になりました。

 

         春の轍 ⑪の3

                       尾川泳児

 

 謙三は腕時計を見た。すでに一時を回っている。

 

「もうこんな時間か。与太話が過ぎましたね。終電過ぎちゃったけど

 家は歩いて帰れるのかい?」
「吉祥寺駅前のワンルームマンションですから」

 

「良かった。我が家は吉祥寺駅の反対側だから途中まで一緒に

 帰れますね。今、片付けるからちよっと待っててくれるかな。

 ラーメン無理やり食べさせといて若いお嬢さんを一人で帰すわけ

 にもいかないからね」
「無理やりだなんて、そんなことないです。食べられて良かったです。 あ、そうだ。おいくらですか?」夏子はバッグから財布を取り出した。

 

「いいんですよ今日は。春子のラーメンを食べてくれただけであり

 がたいですから」
「いえ、払わせて下さい。お客さん第一号になりたいんです。それ

 とこれからも食べに来ます」

 

 謙三は満面の笑みを浮かべた。
「嬉しい言葉だね。そんな風に言ってもらえるのが商売の醍醐味

 なんでしょうね。何となく分かった気がしますよ」

 

「それと、一つお訊きしたいのですが」
「はい、何でしょう?」

 

「何てお呼びしたらいいのかなって。店主さんじゃ変ですよね」
「呼び名ねー。考えたことも無かったなー。男だったら大将とか

 おやじさんなんて呼ぶんだろうけど、若い女性からだと、どう

 なんだろう。ラーメン屋でマスターでも無いしなー」

 

「じゃあ、謙三さんてお呼びしますから私の事は夏子って呼んで

 下さい。でも、たった一回しか食べてないのに馴れ馴れしいかな」

 

「人の間に一回も百回も無いですよ。ただ若いお嬢さんから謙三

 さんなんて言われたら少し照れますけどね」

 

「そうですよね。会社で一年共にしてたってちっとも仲良く成れない

 人いますものね」
「そういうこと。但し、信頼は積み重ねるものですがね」
「流石、先輩。言葉の重みが違います」

 

「まあ、呼び捨ては出来そうも無いので、さん付けでいいです

 かね?」
「はい、おいくらですか?謙三さん」

 

 初めての売り上げに謙三の胸が高鳴る。多分、二軍の野球選手

 が一軍に上がって五試合目にしてやっと出た初ヒットがこんな

 感じなのだろう。
「そうですか。じゃあ喜んでいただきましょうかね。夏子さん。五百円 

 になります」

 

「え、このラーメンが五百円ですか?安すぎませんか?」夏子は驚いた顔で謙三を見つめた。

 

「春子が決めた値段ですから」
「分かりました」
 謙三は出された五百円玉を受け取ると大事そうに腰のポーチに

しまった。
 この五百円玉はただの五百円ではない。仏壇の春子の前に置

かれる特別な五百円玉なのだ。

 

「毎度有難うございます」
「こちらこそ。ご馳走様でした、謙三さん」
「やはり照れますよ」と頭を掻いた謙三に、
「照れた強面のお顔、かわいいですよ」と夏子は茶化す様に言った。
「やめて下さいよ、おじさんからかうのは」
 照れ笑いの謙三と、ころころ笑う夏子の声が星空が覗く夜のしじまに溶け込んで行く。

 

 やがて片付けだした謙三に夏子は幼かった頃や東京に出てきた

頃のことを話し出した。
 時折笑顔を交えて楽しそうに話す夏子は別人とさえ思えるほど

だった。

 

「雨、上がってたんですね」
 夏子は所々雲が切れた夜空を見上げ胸一杯の空気を吸い込む

と静かに吐き出した。

 

 そこへ片付けが終わった謙三が声を掛けた。
「じゃあ、夏子さん。行きましょうかね」
 だが、そう言って引き手に入ろうとした謙三の後ろから夏子が

抱きついた。
「え?」
 驚いて振り向こうとした謙三に夏子が言った。
「謙三さん、お願い。少しだけ、少しだけこうしていてください」

 

 まだ何か抱えているのかもしれないな。
 そう思った謙三は黙って前を見続けた。

 

 やがて夏子は謙三から離れると背をむけ行きましょうと声を

掛けた。

 

 謙三は軽く微笑みながら引き手に入った。
「じゃ、帰りますよ」

 

 だが屋台を引こうとすると突然屋台が軽くなった。謙三は慌てて屋台を止め、後ろに周った。

 

「夏子さん!何してるんですか?」
「お願いです。押させてください。謙三さんと春子さんのラーメンで

 元気になったお礼です」

「しかし…」

「お願いします!」夏子は先程より更に深く頭を下げた。

「夏子さん!」

 少し憮然とした顔をして言った謙三を夏子はすまなさそうに

「はい」と上目遣いで答えた。

 すると謙三は真剣な顔つきで言った。

「私がストップと言ったら直ぐに止める。いいですね!」

 

 夏子は本当に嬉しそうに「はいっ!!」と返事をした。

 

 引き手に戻った謙三が声を掛けた。

「夏子さん。行きますよ」

「はい!謙三さん」

 

 謙三が引くと屋台は僅かな力でぐいと動き出した。

 

 一生懸命に押してくれている夏子の気持ちが伝わって来る。

 

 それが嬉しかった。

 

         春の轍 ⑪の2

                       尾川泳児

 

《私、謙三さんに出会えて本当に幸せでした。

 仕事から帰る謙三さんをずっとずっと待っている毎日。少しだけ

 寂しい時もあったけど無事に帰って来るって信じていたから。

 

 勿論家庭は二人で築いたものだけど、一つだけ、一つだけ思う

 ことがあるの。

 

 私、しげさん夫婦の屋台を引いてた頃の話し大好きだったわ。

 あんな風に二人で生きられたら本当に素敵だなって。

 

 謙三さんが屋台を引いて私が後ろから押す。

 たまに謙三さんが振り向いて大丈夫かいって訊いてくれたら

 本当は大丈夫じゃないけど私は大丈夫よって返すの。

 そして二人で作ったラーメンをお客さんが美味しいって、言って

 くれたらどんなに嬉しいかなって。

 

 わがままな夢ですよね。

 

 でも、嬉しかった。

 ほんとは無理だと思ってたから。

 まさかあなたが引き受けてくれるなんてビックリ!

 恥ずかしいから黙ってたけど。嬉しくて、嬉しくて、台所で泣い

 ちゃったんですよ。

 

 本当は怖いです。少し怖いです。

 でも、あなたが傍に居てくれたら頑張れる気がします。

 最後の最後まで頑張ります。

 

 謙三さん。今までありがとうね。

 

 私はあなたが大好きです。》

 

 謙三のへの字になった口元が小刻みに震え出した。

 そして大粒の涙が止め処なく零れ頬を伝って落ちて行く。

 

「ばかやろー…」

 それしか言葉にならなかった。

 それしか言葉に出来なかった。

 

 徐々に謙三の口から嗚咽が漏れ始めた。

 やがて倒れこむように春子のノートに顔を埋め、誰はばかる

ことなく泣いた…。大声で泣き続けた

 

 
「それでまあ上手くいかなくてもいいから、とにかく一度でも

 ラーメン屋をやろうと一年がかりでなんとかここまで漕ぎ着け

 たってわけでね」

 

 話に涙していた夏子が涙を拭い答えた。
「そうだったんですか。大変な思いをされて来たんですね」

 

「別れは遅かれ早かれ経験することですからね」

 

「そうですけど。春子さんて強い人なんですね」

 

「強いかどうかって言われたらそうじゃない気がします」

 

「でも、私なら耐えられない気がして」

 

「亡くなる前に二人で話すことが出来ましてね。残された時間が

 少ないからこそ、思い切ったことも出来たし、大切に使うことも

 出来たからって」

 

「聡明な人だったんですね」

 

「一度聞いたことがあるんですよ。どうしてそんなに穏やかにして

 いられるんだってね」

 

「それで春子さんは何て?」

 

「時間に限りがあるからこそ精一杯生きられるし、本当に辛いのは

 突然の別れに残された人だから、私は笑顔でいなくちゃね。

 なんて言いやがるんですよ」

 

「やっぱりすごいな、春子さんは」

 

「私には出来そうもないですが自分に何かあった時は見習いたい

 と思いましたよ」

 

「そうですね。ほんとそうですね」夏子は笑顔で何度も肯いた 。