ネクタイを緩めてぎゃあぎゃあと酒臭い息を撒き散らしながら往来にたむろして、二次会はカラオケかスナックか等と大声で相談する酔いどれ共を尻目に、国道一号線の歩道をゆっくりと踊るような足取りで歩いた。
名古屋の外れのほうと謂えども週末ともなれば東北の小さな町の繁華街の並の賑わいを見せる。なんだかんだで愛知県は東北の漁村とは違うずら、都会はおっかねえべさ、とばかりに都会に住んだところで、田舎者の気質が抜けきれないわたしは一応の畏怖を覚えてはみるのであるが、世界中どこへ行ってもタチの悪い酔っぱらいはいるわけだし、そもそも今晩に限ったことではあるが(嘘)、自分自身もそのタチの悪い酔っぱらいの仲間とも謂えなくもない事に思い当たり、ひとり気色悪くニヤニヤしながら玄関のドアを空け、真っ暗な部屋に足を踏み入れて照明を灯すと、空気清浄機がブィーンと音を立てて動作する。「おかえりなさい」を言ってくれる相手はいないが、作動する空気清浄機で己の存在を確認する。
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２０１５年もそろそろ１２分の１が過ぎ去ろうとしているわけで、この時間の長さをあと１１回経験すれば今年が終わる。なぜだか知らないが一月は予期せぬイベント(ハライタとかホタテとか)が多く、今年は当たり年なのかな？等と思っていたら、案の定バタバタと色々な仕事が舞い込み、それなりに忙しく過ごしていた。
そんなわけで、一ヶ月頑張ったのだから、まぁ、一月最後の週末くらい外食するかと思い立ち、颯爽と近所の居酒屋へと繰り出したのである。
最近の居酒屋は心得たもので、ちゃあんと一人用のお仕置き部屋みたいな席があり、そこに腰を落ち着けたわたしは熱燗と本マグロの刺身を注文し、周囲の喧騒から聞き取れる会話のみを抽出して聞き耳を立てる。電車に乗っても銀行で順番待ちをしているときでも、わたしは周囲の会話に聞き耳を立てるクセがあるのだ。
こういった安居酒屋での会話は大体相場が決まっていて、上司の愚痴や、配偶者の愚痴、それからとりとめのない悩み、あとはオジサン達の若い部下への自慢ともお説教ともつかぬような話。そういったどちらかといえばネガティブな感情がアルコールを流し込むと同時に、トコロテンのように押し出されている。
そういった、マイナス方向の会話を耳にすると何故だか安心する。普段一人で仕事しているせいか、全て自分で抱え込みがちなので、大変なのは自分だけではないという事実を目の当たりにすることで心に平穏を得るのである。『上見て暮らすな下見て暮らせ』というと、ずいぶん後ろ向きに聞こえるかもしれぬが、時としてそういうネガティブな話題に身を任せることで人の心が癒される場合もある。忙しく、疲れているときは尚のことで、自分だけが大変なのではないと世界の中で確認すると、明日も頑張ろうと思えるから不可思議なものである。
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本マグロを注文したのにどう考えてもキハダマグロの味がしたので、機嫌を損ねたわたしは、熱燗を早々に空にすると仏頂面で会計を済ませた。東北の漁村出身者を舐めるなよ、こちとら、マグロ漁獲量日本一の塩釜界隈の出身でい！とばかりに店の暖簾にツバでも吐き掛けそうな勢いだったが、まぁいい、こんな場所で、安い値段で、新鮮な本マグロを求めるのは花屋に入って分葱を求めるようなもので、土台無理な話なのだ。潔く諦めよう。
しかし熱燗一合ではほろ酔い気分にも成れぬほどの酒豪で通っているわたしが、このまま帰るわけにもいかない。仕方がないので、近所のおばちゃんがやっている馴染のスナックで、ママと語らおうかと思い、足を向けるも店の周囲は真っ暗で、よくよく見れば手書きの張り紙で「長らくご愛顧ありがとうございました」なぞと、閉店を示す文章が供述してあり、諸行無常と栄枯盛衰
を感じると共に、何やら怒りにも似たモヤモヤしたものが心の奥底から湧き上がり、気がつけば、近場の一時間８００円、持ち込みOKの個人経営カラオケ屋さんで、コンビニで求めたワインボトル片手に松田聖子を熱唱していた。なんだよこれ。
もう、自分でもなにがなんだか解らない
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ってなわけで、消化不良寸止め感も甚だしいので、明日からどっか行ってくる。仕入れとかしたいから、まー東京かしらね。
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