Claude Lelouchの「男と女」 | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

フランスの映画監督Claude Lelouchによる1966年の名作「男と女(Un homme et une femme)」は、中学生の頃から映画を楽しんで来た私にとっては、「生涯の10本」に入るほど大好きな作品です。

Claude Lelouch監督と音楽を担当したFrancis Laiにとっては、出世作になりました。

 

私が最初にこの作品を観たのがいつ頃だったのか記憶にありませんが、多分テレビ放送だったと思います。明らかなのは、ラジオから聞こえて来たこの作品のテーマ曲を気に入っていたことが映画を観るよりずっと先だったことです。当時は盛んにラジオでかかっていましたが、他のポップ・ソングとは明らかに違う個性を持っていました。

1960年前後からフランスの映画界で盛り上がっていた「ヌーヴェルヴァーグ」という流れ。日本語だと「新しい波」ですね。様々な作家たちが個性的な作品を作り出しましたが、難しい内容のものもあって私はそちらにのめり込むことはありませんでした。そんな中で、傍流でありながら手持ちカメラを多用して斬新な映像処理や音楽の絶妙な使い方を駆使してスタイリッシュにまとめ上げたのが、この「男と女」でした。

物語は、夫と子供がいる普通の女性が、夫とは全く違った生き方をしている男性に惹かれていくという、古今東西に数多ある「不倫もの」です。けれども、妙に深刻になることもなく、スピード感溢れる斬新な映像に驚いたり感心したりしてるうちにラストを迎えます。私は、映画でしか表現できない非現実的な世界に、どっぷりと浸かることになるのでした。

 

映画の場面を繋ぎ合わせた動画で、テーマ曲をお聴きください。

 

 

男女のデュエットによる「ダバダバダ」というフレーズは印象的で、今でも「スキャットの代表曲」と言えばこの曲が紹介されます。

歌っているのは、歌手で女優でもあったNicole Croisilleと、この映画ではヒロインの夫を演じた俳優でシンガー・ソングライターのPierre Barouhです。この曲を作ったのが、Francis Lai。彼はこの曲をきっかけにして、ヨーロッパ各国やアメリカの映画にも呼ばれるようになり、1970年にはアメリカ映画「ある愛の詩(Love Story)」でアカデミー作曲賞を獲得することになります。彼は美しく耳に残るメロディーを作る才能を持っていますが、それを支えるコード進行に個性を発揮しています。「男と女」のテーマ曲を後に楽譜を見ながらギターで弾いてみた私は、それまでに経験したことのない独特のコード進行に苦労しながら驚いていました。

 

映画を観た後、当然のようにサウンドトラックのLPレコードを購入して、文字通り擦り切れるほど聴いていました。現在ではCDも持っていますが、やはりLPレコードの赤いジャケットに思い入れがあります。

 

 

 

 

 

ご覧いただいた動画にも出ていたこの映画のヒロインを演じたAnouk Aimeeが、6月18日に92歳で亡くなりました。

 

この映画における彼女はとてもエレガントで、私にとってのフランス女性のイメージを形作ったのでした。Lelouch監督は、彼女を魅力的に撮ることに全力を注いていたのかもしれません。まぁ、映画監督なら、主演女優を美しく撮ろうと思うのは、当たり前のことでしょうけど。

 

 

私がこの映画のサウンドトラック盤を愛するのは、印象的なテーマ曲だけのせいではありません。全曲が魅力的なのです。テーマ曲の歌詞付きヴァージョンやインストゥルメンタルもありますが、それ以外も聴き応えのある曲が満載です。

Francis Laiの曲にPierre Barouhが詞を付けた曲をお聴きください。

 

 

美しいメロディーに耳を奪われがちですが、悲しみや恐れや喜びといった様々な感情をひとつの曲で表現するという、この映画の世界観を見事に昇華させた名曲だと思います。コンボオルガンの音と言ったら、私は今でもこの曲を思い浮かべます。

 

Pierre Barouhは、フランスの音楽界においても重要人物です。彼は、ブラジルのボサノヴァをフランスに広めて「フレンチ・ボッサ」と呼ばれる流れを作り出しました。現在でもその流れは脈々と続いています。そのきっかけになった曲も、この映画で使われています。彼の作詞作曲による「Samba Saravah」が、それです。MVなんて言葉がなかった時代ですが、これも魁(さきがけ)なのかもしれません。

 

 

実は、この映画で夫婦を演じたPierreとAnoukは、撮影中に恋に落ちて結婚しています。長続きはしなかったようですが。

この動画はまるでプライヴェート・ヴィデオのようですね。彼女の振る舞いや表情は、恋してる女!彼はずっと歌っているんですが、キスをしたりちょっかいを出したり・・・。こんなにされたら、男は、落ちます。

 

 

最後に、この映画でも特に印象的に使われていた曲です。

 

 

オルガン、ピアノ、ギターのシンプルなバックでPierreが歌う曲ですが、そのリズムと関係なく心臓の鼓動のようなリズムがずっと後ろに流れています。主人公二人の鼓動を模しているような、絶妙な音処理です。このように、映画に寄り添う音作りが、このサウンドトラックを特別なものにしていると思うのです。

 

 

映画「男と女」は、Claude Lelouchだけではなく、Francis LaiやPierre Barouhの才能やセンスが「奇跡的」に集結した、名作だと断言します。

更に、Anouk Aimeeは、私にとって「フランスのミューズ」になったのでした。

 

「女神」は、その姿と影響を地上に残して、天へ帰って行ったのでした。

 

 

R.I.P.