「橘色悪魔」から「翡翠騎士」へ | "楽音楽"の日々

"楽音楽"の日々

音楽、映画を中心にしたエンタテインメント全般についての思い入れと、日々の雑感を綴っていきます。

東京農業大学第二高校吹奏楽部が、台湾の国慶節に招待されてパフォーマンスを披露してから10日が過ぎました。

次々にアップされる動画を色々と見て、実に見事だったと感心してしまいました。

 

フラワークラウンさんのイラストです。彼のイラストは非常に精緻で美しい上に、アイデアが豊富で毎回楽しませてもらってます。

 

昨年の京都橘のパフォーマンスが大ブームになったことを受けて、台湾の今年の盛り上がりは相当大きかったようです。

本番のひと月前にアップされた動画では、「橘色悪魔」のブームを「翡翠騎士」で再び!のような(台湾語はできないので、文面からの推測ですが。)テロップが表示されます。

 

 

「千と千尋の神隠し」をテーマにしたパフォーマンスですが、決して広くはないステージでも彼らの魅力を100パーセント発揮するステージングは素晴らしいです。

 

 

 

京都橘が参加している吹奏楽連盟とは別に、アメリカのドラム・コーを基本にしたマーチングバンド協会があります。そこに所属する団体のパフォーマンスもかなりたくさん見ました。どこも素晴らしいし、美しいです。人数制限がない上に、様々な大道具・小道具を使ってストーリーを最大限に表現する姿は、結構エンタメ寄りかもしれません。ただ、そのパフォーマンスのテーマを知っていることと、使われている曲を知っていることが大前提になります。規定や制限にこだわっている吹奏楽連盟に比べると、かなり「何でもアリ」といった感じで、こちらの方がこれから発展して行きそうな気がします。

 

いろんな団体のパフォーマンスを見ていると、「素晴らしい」とか「美しい」といった感想を持つんですが、音楽的に飽きてしまうんです。その理由が始めの頃はわからなかったんですが、細かく見てみるとだんだんわかってきました。それは、楽器の編成なんです。ドラム・コーの基本は、バッテリーとピット楽器からなるパーカッション・セクションと、ビューグルという金管楽器で作り上げる音楽です。特に、金管楽器は、最高音を担うトランペットと低音を担当するチューバの間に、トランペットと同じような形状の楽器が大きさを変えながら数種類存在するのです。その種類で、表現する音楽の音域を全てカヴァーするのです。理論的には、よくわかります。ただ、ほぼ同じ形状なので、音色が非常に似ています。同系の楽器を使うことで、全体の音色の一体感を出しやすいこともわかります。ただ、強弱のダイナミクスをバッチリ決めても、音色が同じなのです。私は、それを否定するつもりは更々ありません。基本の形を守ることも必要なことだと思います。

 

私が、クラシックのオーケストラや吹奏楽の音楽に魅かれる理由は、様々な楽器がブレンドされて構築される「音の万華鏡」で耳が幸せになるということなのです。吹奏楽では、金管楽器でもホルンやユーフォニアム、トロンボーンといったその楽器でしか出せない個性的な音があります。さらに木管楽器でも、クラリネットやサックスのようなリード楽器も存在感があります。フルートやピッコロもまた違った音を出しているし、ファゴットやオーボエのようなダブル・リードの楽器は主役にも隠し味にもなります。そういった個性豊かな楽器が合わさって一つの音楽を奏でる時、カラフルな「音の万華鏡」になるのです。

 

マーチングバンド協会の規定は楽器編成にも非常に緩やかで、基本に忠実な団体もいれば、金管楽器だけの単調さを補うためにサックス・セクションを加える団体もいます。さらに、高音部をトランペットだけに任せずにフルートやピッコロを入れている団体もあります。それぞれに工夫を凝らしているようですが、私の耳に止まったのが、今回台湾に招待された東京農業大学第二高校だったのです。彼らは座奏でも高く評価されていますが、マーチングでは両方の大会で全国金賞を獲得している強豪校です。彼らのマーチングの特徴は、吹奏楽の楽器をフル・ラインナップしていることです。しかも、全員で演奏することを基本としているので、とても人数が多いことで音的にも視覚的にも迫力があるのです。

 

ということで、私は彼らの台湾公演(驚くことに、初の海外公演らしい・・・)を楽しみにしていました。

 

 

メインの公演は10月10日の国慶節であることは間違いありませんが、台湾に渡って最初の高雄市でのパフォーマンスがとても充実しています。それは、ゲスト扱いで演奏時間もたっぷり用意されていたことによるものです。

 

 

この公演に向けて、高雄市は全力で告知をしていました。街中に大量に貼られたポスターや垂れ幕。この動画を見れば良くわかりますが、マルチ・カメラに2機のドローン・カメラも使っています。観客の上をドローンを飛行させるなど、日本では不可能な映像が満載です。ロケーションも美しく素晴らしいのですが、残念なことに観客席があまりにも狭いですね。12月に予定されている京都橘の公演では、もっとたくさんの観客が楽しめる会場が必要でしょう。まぁ、いずれにしろ高雄市の本気度が伝わる公演でした。

そういえば、農大第二の吹奏楽部には、エメラルド・ナイツ(Emerald Knights)という愛称があります。それを台湾では「翡翠騎士」と表現していましたね。京都橘の時の「橘色悪魔」との的確な対比で、日本人から見て素敵な名称に思えます。

ここでの「翡翠騎士」のパフォーマンスは、カラーガードの身体能力の高さも認識できて、とても素晴らしいです。メインになっている曲は、「Marching Scandinavia」というタイトルらしいです。北欧の作曲家の作品をコラージュしています。ノルウェー出身のグリーグが作った「ペール・ギュント」から数曲、フィンランドの国民的作曲家シベリウスの「フィンランディア」など、クラシック音楽の万年初心者である私でも耳馴染みのある曲で構成されています。このアレンジは初めて聴きましたが、とても気に入りました。様々な楽器の音が自己主張をしていて、耳が幸せです。

アンコールでの「宝島」はオーソドックスな真島俊夫アレンジ版ですが、ドラムコー団体ならではのトランペットのハイノートが聞こえて、それだけでも新鮮に感じます。

ダブル・アンコールのアニメ・ソング・メドレーでは、観客の反応も良いですね。台湾で人気の曲を事前にリサーチしてプログラムを決めたらしいですが、見事にハマったと言えるでしょう。

 

台湾の人々は、吹奏楽の楽しみ方を良く知っていますね。見どころや聴きどころでは、歓声をあげたり拍手したり、更には歌ったり。日本人は、真面目過ぎます。コンテスト以外では、こんな風に楽しまなきゃ!

 

 

この日、観客の大声援で自信を持った彼らは、台北へ移動する前にフラッシュモブ風(当然、事前に予定されてたはずですが。)の演奏をします。

 

 

ここでも、「宝島」です。日本では吹奏楽の定番として愛されている曲ですが、台湾では全く知られていないはずです。「翡翠騎士」は、各所でこの曲を演奏しています。彼らのおかげで台湾の人々がこの曲に興味を持って好きになってくれたら良いなぁ、と思います。

彼らの自然な表情と笑顔が普通の高校生らしくて、とっても良い感じですね。

 

 

国慶節の前日は、昨年と同様に国慶節に参加する学校が集まって、自由広場での交歓コンサートです。

 

 

実はほとんど語られていませんが、今年の国慶節で注目すべきは、アメリカからの初めての参加だと思っています。UCLAがいかにもアメリカらしい楽しいパフォーマンスを見せてくれました。

台湾からの2校と「翡翠騎士」、UCLAという4校が並んだ写真です。

 

 

台湾と日本、アメリカの国旗が並んだ姿には感慨深いものがありますが、中国は心穏やかではないでしょう。アメリカさん、こんなに露骨に中国を煽って大丈夫?

ちょっと心配になりました。

「翡翠騎士」の演奏は、翌日の国慶節と全く同じプログラムでした。

 

 

 

さて、本番です。

昨年楽しんだように、台湾の撮影のプロが集結したと思われるマルチ・カメラと釣りカメラで、「翡翠騎士」の魅力を多角的に映像として捉えています。

 

 

ここでのメイン・プログラムは、「Extreme Make-Over 〜チャイコフスキーの主題による変容〜」というヨハン・デ・メイによる曲です。タイトル通り、チャイコフスキーの名曲をコラージュした、ダイナミックな曲です。チャイコフスキー大好きな私にとっては、最も親しみやすいプログラムです。

2本のトランペットによる「アンダンテ・カンタービレ」で始まり、「翡翠騎士」の魅力全開のパフォーマンスです。上空からのカメラで、フォーメーション変化の美しさを堪能できます。後半に登場する、トランペット・ホルン・トロンボーン・ユーフォニアムのアンサンブルも、とても美しいです。カラーガード隊の華やかなフラッグ捌きは、このバンドにおける「花」ですね。

台湾ではドラムコー・スタイルの楽団が多い印象なので、その関係者にとっては衝撃だったかもしれません。「自分たちが目指すものは、ここのスタイル」だと考えた人が多かったのではないでしょうか?昨年の京都橘は、あまりにも「異質」で容易に真似しようとは思えないですもんね。

 

 

今回、その他の団体を見ていて目に留まったのが、地元台湾の学校でした。「翡翠騎士」と同じ、ドラムコー・スタイルのパフォーマンスです。規模もパフォーマンスの精度も比較の対象ではありませんが、私が注目したのがそのプログラムです。

 

 

ドヴォルザークの「新世界より」ですが、なんとQueenの「We Will Rock You」と「The Show Must Go On」をサンプリングして、印象的なアクセントにしています。ピット楽器の中に、操作しているMacBookが見えます。

Queenの「The Show Must Go On」をご覧下さい。

 

 

この曲で印象的なサビの部分のFreddieの声を抜き出して、加工しています。

サンプリングをドラムコーのプログラムで見たことがなかったので、とても驚きました。ひょっとしたら、日本では「邪道」として敢えて使われていないのでしょうか?このアプローチ、私は好きです。

 

 

 

日本を代表するマーチング・バンドとして、東京農大第二高校吹奏楽部は素晴らしいパフォーマンスを披露してくれました。

 

彼らのパフォーマンスで欠かせないのが、大道具・小道具です。台湾には持って行けなかったのでしょう。国慶節と同じプログラムを、5日後にフル装備で披露しています。巨大な幕を使ったり、可動式の台の上でパフォーマンスしたり。