【今日の1枚】Pulsar/The Strands of the Future(終着の浜辺) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

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Pulsar/The Strands of the Future
ピュルサー/ザ・ストランズ・オヴ・ザ・フューチャー

(終着の浜辺)
1976年リリース

無限の宇宙空間の光と闇を描いた
重厚で神秘的なシンフォニックアルバム

 アンジュ、アトールと並ぶ1970年代のフレンチ・プログレを代表するピュルサーのセカンドアルバム。そのアルバムの前半はオルガンやムーグシンセシザー、メロトロンを多用した22分に及ぶ大曲となっており、まるで宇宙空間を漂うがごとく、時に緩やかに時にダイナミックに展開する壮大なシンフォニックロックとなっている。メンバー全員が内向的な文学青年だったことから、どこか陰影のあるメロディや歌詞が散りばめられており、極めてフランスらしい独特のムードがにじみ出た傑作となっている。

 ピュルサーは1970年初頭にフランスの旧ローヌアルプ地域圏にある都市リヨンで結成されたグループである。この時のメンバーはジャック・ロマン(シンセサイザー、キーボード、メロトロン)、ヴィクトル・ボッシュ(ドラムス)、ジルベール・ガンディル(ギター、リードヴォーカル)、ローラン・リシャール(ピアノ、フルート)、フィリップ・ロマン(ベース、ヴォーカル、作曲)の5人編成からスタートしている。彼らはピンク・フロイドやキング・クリムゾン、グスタフ・マーラーなどの英国のプログレッシヴロックやクラシック音楽の作曲家を好む一方、メンバー全員が内向的な文学青年であり、中には筋金入りのSFマニアもいたという。彼らは結成から数年のあいだ、地元のクラブを中心にステージやギグを行いつつ、フランスのレコード会社に何度もデモテープを持ち込んでは却下される日々を送っていたという。それから5年近く経ったある日、イギリスのカンタベリーミュージックの礎を作ったキャラヴァンのリチャード・シンクレアと知り合い、リチャードのプッシュもあってフランスのグループとしては初のキングダム・レコーズとの契約を果たすことになる。1975年のデビューアルバム『ポーレン』は、ピンク・フロイドとタンジェリン・ドリームをミックスさせたようなエモーショナルな作品となり、比類の無い甘美で情感的なメロディにあふれた作品となっている。アルバムリリース後の1975年にベース兼ヴォーカルのフィリップ・ロマンが脱退。キーボード奏者であるジャック・ロマンがベースを兼任する形で、1976年1月から1ヵ月のあいだ、次のアルバムの録音のためにスイスのジュネーヴにあるアクエリアススタジオに入っている。スタジオエンジニアはクリス・ペニーケイトが担当し、前作はピュルサーとザビエル・デュバックの共同プロデュースだったが、本作はピュルサーのみとなっている。こうして1976年9月にセカンドアルバム『The Strands of the Future(終着の浜辺)』がリリースされることになる。そのアルバムはオルガンやムーグシンセシザー、メロトロンを多用したスペイシーなシンフォニックロックとなっており、聴き手の感受性を直接刺激するようなリリカルな内容からフレンチロックの代表作と呼ばれるようになる。

★曲目★
01.The Strands Of The Future(終着の浜辺)
02.Flight(飛行)
03.Windows(ウインドウズ)
04.Fool's Failure(愚者の失態)

 アルバムの1曲目の『終着の浜辺』は、レコードでいうA面を全て利用した22分を越える大曲。壮大なメロトロンやムーヴシンセサイザーを駆使したスペイシーな世界観を演出しており、神秘的な雰囲気から一転して不穏なギターの響きとリズムセクションが加わったヘヴィネスなサウンドに変化する。4分過ぎから曲調が変わり、リリカルなアコースティカルなギターを中心としたヴォーカル曲となる。その後はキーボードと手数の多いドラミングによるダイナミックな演奏となり、8分過ぎから再度曲調が変わりセリフが飛び交うサイケデリックな世界となる。その後はリズミカルなドラムスと重なり合うシンセサイザー、そして重厚なコーラスによる幻想的な雰囲気となり、メランコリックなアコースティックギターを経て緊迫感のある演奏に展開していく。巡るめくテンポが変化し、ディストーションのかかったヘヴィなギターと荘厳なコーラスによるダークな雰囲気から、最後の美しいフルートの音色がまるで暗闇の中に差す光のようで感動的である。2曲目の『飛行』は、ロック的な疾走感のあるアップテンポな曲。メロトロンが湧きあがったりとコンパクトながら静と動を詰め込んだシンフォニックな内容となっており、リズムセクションとフルートを絡めたアンサンブルは絶品である。3曲目の『ウインドウズ』は、緩やかなアコースティックギターとフルート、そしてメロトロンによるヴォーカル曲。フルートソロのあるバラード曲だが、ギターは華やかであり、英語歌詞の少し気だるいヴォーカルがフランスらしいムードを創り上げている。4曲目の『愚者の失態』は10分を越える楽曲となっており、メロトロンと硬質なアコースティックギターの響きがキング・クリムゾンを思わせる楽曲となっている。英語歌詞だがフランス語っぽい情感的なヴォーカル、ヘヴィなギター、パワフルなリズムセクション、そしてホラーな演出となったメロトロンの合わせ技が素晴らしい。全体的に邪悪な雰囲気を作り出しており、後半では扉の音と部屋の中で動き回る効果音があるなど、最後まで混沌とした展開になっている。こうしてアルバムを通して聴いてみると、前作と比べて明らかにプログレッシヴロック色が強くなっており、荘厳なメロトロンと浮遊感のあるムーヴシンセサイザーを効果的に使用している。また、邪悪な響きのあるギターや畳みかけるリズムに対して、美しく安穏としたフルートやアコースティックギターの響きが、ダイナミックな陰と陽の対比を生み出しており、彼らの曲構成における飛躍的な成長が見て取れる。

 デビューアルバムを含むピュルサーの2作品は日本を含む各国で紹介され、高い評価と商業的な成功を収める。彼らは新たなベーシストにミシェル・マッソンを迎え、ドイツやフランスを中心にツアーを敢行。地元のフランスでは確実なポピュラリティを獲得して期待も大きかったと言われている。やがて彼らは英国のキングダム・レコーズからフランスのCBSと新たに契約を交わし、1977年の秋にスイスのジュネーブにあるアクエリアス・スタジオでサードアルバムのレコーディングを開始する。そこでドラマーのヴィクトル・ボッシュがとある少女を主人公とする夢想的でミステリアスな物語(ハロウィン)をモチーフとした、壮大なトータルアルバムを作成することになる。1977年にリリースされた『ハロウィン』は、エンジニアに元メインホースのパトリック・モラーツが務め、チェロ奏者のジャン・リストーリがゲストで参加したピュルサーの最高傑作となったが、残念ながら商業的な成功に結びつくことは無かったという。理由はCBSの担当だったディレクターが替わったことで、支援を受けられなくなってしまったためである。ほどなくアルバムは廃盤の憂き目に遭い、さらにレーベルがCBSという大手過ぎたために再発もままならず、今では叙情派屈指の傑作となっている『ハロウィン』は幻の名盤として、長らくプレミアアイテム化となってしまうことになる。グループはこれだけ創造性を有したアルバムが商業的に失敗したことに落ち込み、1981年フランスとオーストリア合同のミュージカル用に作られた小曲集の4作目にあたる『Bienvenue au Conseil d'Administration』を最後に活動停止。しかし、8年後の1989年に長い沈黙を破って復帰作『Gorlitz』を発表し、その前作と変わらない充実したサウンドにかつてのファンは大いに喜んだという。しかし、そのまま活動を続けるかと思いきや再び沈黙。次にメンバーは活動を再開するのは何と18年経った2007年であり、それまで流動的だったベーシストを除く4人が集まってニューアルバム『Memory Ashes』のリリースを果たしている。その後、ピュルサーとしての活動は途絶えたが、2013年にジャック・ロマンとジルベール・ガンディルがメンバーとして参加したSiiilk(シルク)というグループを結成している。ムゼアから2022年まで3枚のアルバムをリリースしており、現在でも精力的に活動しているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は英国のキングダム・レコードと契約した最初のフランスのグループとして名を馳せたピュルサーのセカンドアルバム『ザ・ストランズ・オヴ・ザ・フューチャー(終着の浜辺)』を紹介しました。ピュルサーは傑作と名高いサードアルバムの『ハロウィン』に次いで2作目の紹介となります。本アルバムは1976年秋にリアルタイムで日本盤がリリースされていて、松本零士のイメージイラストが封入されたアルバムとしても有名です。ピュルサーはピンク・フロイドやキング・クリムゾン、グスタフ・マーラーといった英国のプログレやクラシックの作曲家から影響を受けたグループで、空間的な演出とマーラーの作曲技法、そして脱退したフィリップ・ロマンが愛読していたSF小説をモチーフにしているなど、知的な物語性を感じさせる作品になっています。非常に甘美で幻想的でありながらどこかノスタルジックで翳りのある雰囲気(アトモスフィア)があり、そんな聴き手の感受性にゆだねるような作風が、いかにもフランスらしいです。その傾向はアンジュやアトールにも感じられますが、ピュルサーに至ってはそれが絶対的な「個性」になっています。たぶん、メンバー全員が内向的な文学青年であったことが大きく、創り出す音楽の雰囲気や世界観を大事にしているからだろう思います。

 さて、前作はピンク・フロイドとタンジェリン・ドリームをミックスさせたような甘美で情感的なメロディにあふれた作品でしたが、本アルバムはメロトロンを多大に使用した空間的な曲構成をはじめ、音楽的に着実にステップアップを呈示した内容になっています。のっけから22分に及ぶ大曲から始まり、前作と大きく違うのが曲構成にムダがなく、ロック的に畳みかける要素が増えていることです。ヴォーカルパートではフランスらしい「気だるさ」があり、メロトロンをはじめとするキーボードやギターといった危うい楽器の音色が暗い影を落としています。それでもフルートやアコースティックギターの爪弾きは安らぎを与えるようであり、まるで暗い宇宙空間の中で陰と陽、または光と闇の対比を描いているようにも感じます。聴いていてものすごく感傷的な気分になり、今風に言えばエモいといった感じでしょうか。

 本アルバムはフランスらしさがにじみ出たファーストアルバムと大傑作として誉れ高いサードアルバムのあいだに挟まれているため、話題性はイマイチ乏しいです。でも、ファーストにあったフランス特有の気だるさとサードの夢想的でミステリアスな物語性といった利点を活かしており、最もバランスの取れた作品と言われています。ぜひ、彼らの作り出す幻想的で淡い色調で広がっていく音の世界に身をゆだねてみてください。

それではまたっ!