【今日の1枚】Flyte/Dawn Dancer(フライト/ドーン・ダンサー) | 古今東西プログレレビュー垂れ流し

古今東西プログレレビュー垂れ流し

ロック(プログレ)を愛して止まない大バカ…もとい、音楽が日々の生活の糧となっているおっさんです。名盤からマニアックなアルバムまでチョイスして紹介!

Flyte/Dawn Dancer
フライト/ドーン・ダンサー
1979年リリース

メロトロンやストリングスをフル活用した
豊潤なメロディのシンフォニックロック

 オランダ出身とベルギー出身のミュージシャンからなるプログレッシヴロックグループ、フライトの唯一作。そのアルバムはメロトロンやストリングスシンセサイザーといった煌びやかなツインキーボードとギターが織り成す幻想的でロマンティックなシンフォニックロックとなっており、英国のキャメルを思わせる親しみやすいメロディが特徴となっている。たった1枚のアルバムを残して解散してしまうが、その卓越した技巧からなる優雅なサウンドは、後に1970年代後半の最も素晴らしいプログレ作品として評価されることになる。

 フライトは1972年にベルギー国境近くにある南オランダの小さな町ブレダで、ベーシストのロブ・オペルディークとギタリストのハンス・マリニッセンという学生を中心に結成したグループである。ハンスは高校の小喜劇の戯曲を書くほどの詩人であり、グループは彼の優れた作家性に惹きつけられたメンバーで成り立っていたという。彼らはマトリックスというグループ名で、1973年3月に学校のパーティーで最初のギグを行っている。すでにロブによる作曲とハンスの英語作詞によるオリジナル曲を作っていたが、結成当時はイーグルスやニール・ヤング、ジョニ・ミッチェルのようなカントリーロックを演奏していたようである。1973年10月にはキーボード奏者のジャッキー・ヴァン・リースドンクが加入するが、ヴォーカリストとドラマーが脱退。彼らは残りのメンバーを捜し、その中に多くのローカルグループで演奏してきたギタリストのルート・ウォルトマンをオーディションの上で加入させ、プロのドラマーであるフランク・ベルケルス、そしてギタリスト兼シンガーのテオ・ヴァン・ダー・ホルストを迎えている。この時にハンスのガールフレンドの名前から採ったグレースというグループ名に変えている。彼らはこれまで演奏してきたカントリーロックを捨てて、キャメルやキング・クリムゾン、ウィッシュボーン・アッシュといったプログレッシヴロックやブリティッシュハードロックのカヴァーを演奏するようになったという。1975年5月に彼らは地元のブレダやローゼンタールで何度もギグを重ねたことで知名度は上がっていったが、イギリスにグレースというグループが存在していることを知り、フライトと名乗るようになる。そこには宣伝上よく目立つようにスペルを「FLIGHT」ではなく「FLYTE」としている。

 グループ名を変えた二週間後にオランダの名グループであるAlquinのためのショーを行うが、ギタリスト兼シンガーのテオ・ヴァン・ダー・ホルストが脱退。ちょうどその時、彼らが尊敬するブランドル地方のカヴァーグループであるSpaceが解散したことを知り、Spaceのシンガーであったルードー・クールズ、キーボード奏者のレオ・コルネリセンスを迎え入れている。2人ともクラシックの教養があり、幅広い力量と技量を持ってグループの多くのオリジナル曲を作成してくれたという。1975年夏にはルードーとレオをフィーチャーした新たなラインナップで、ベルギーのエッセン野外フェスティバルで、アース&ファイアーらと共に演奏。その後もオランダとベルギーの国境都市であるアントワープやローゼンダール、ドールスト、エッセンなどを回るショートツアーを行っている。その後、ドラマーであるフランク・ベルケルスは自身のグループを結成するために脱退。代わりにイギリス人のアラン・フルスマンが加入するがすぐに脱退し、ギース・ヴァン・ヒースウィックがメンバーとなる。彼らは1976年8月に行われたベルギーで有名なビルツェン・フェスティバルで開催されたアマチュアバンド・コンテストに出場し、見事優勝している。これがきっかけとなって彼らはスティーヴ・ミラー・バンドやスティーライ・スパン、リック・ウェイクマンといったミュージシャンが名を連ねる番組に招待されることになる。この頃のライヴステージにはライトショーや発煙弾を使用し、ヴィジュアル的な側面のあるコスチュームなど着用するなどして、オランダの番組や音楽雑誌の特集記事が組まれる存在になっていたという。ドラマーのギース・ヴァン・ヒースウィックがグループから離れ、代わりにジャズ出身のヴィック・ストルムが参加。その後も多くのフェスティバルに出演して人気を集め、アントワープ近くのBrasschaatフェスティバルのポスターではトップを飾っている。彼らは新たな資金でメロトロンやホーナー・クラヴィネット、ソリーナ・ストリングス、ダヴォリ・オルガンなど手に入れ、シンフォニックな側面を強調したサウンドになっていくことになる。

 彼らはアルバム制作のためにベルギーでデモテープを録音。また、新たなマネージャーを雇い、グループのロゴデザインがプリントされたポスター、ステッカー、Tシャツなども作成。これはフライトというグループの将来を見越したものであり、ギグの合間にデビューアルバムのためのマテリアルのリハーサルを何度も行ったという。1977年10月に彼らはアントワープの高校で2公演を行い、そのうちの1公演はラジオで生放送されている。1978年に入るとドラマーだったヴィック・ストルムが脱退して、代わりにハンス・ボエが加入。メンバーはベルギーの古い工場をリハーサルルームとして使用し、デビューアルバムのナンバーに取り組んでいる。1978年5月にようやくアルバムのデモトラックをベルギーのプログレッシヴロックグループ、イソポダも使用したヘケルゲムのジャスト・ボーン・スタジオで録音を開始することになる。この時点でグループの創設者の1人であるベーシストのロブ・オペルディークがグループから離れ、代わりにプロのヴォーカル兼ベーシストのペーター・デケルスマイケルを加入させている。その後、彼らはベルギーのレコーディングスタジオのオーナーであるフランツ・ヴァルケのためにレパートリーを抜粋した曲を演奏。そのフライトの音楽のクオリティに惹きつけられたヴァルケとサウンドエンジニアであるミシェル・バレスは、彼らのプロデュースを引き受けることになる。こうしてサウンドエンジニアの下、彼らは24トラックの付のスタジオに入って数ヵ月をかけてレコーディングを行っている。一方、フライトはオールドウェイというオランダの会社とディストリビューション契約。その傘下に歌の出版としてオールドミルという会社と関わることになるが、その会社には小さなドン・キホーテというレーベルを所有しており、1979年3月に『ドーン・ダンサー』というタイトルでアルバムリリースされることになる。そのアルバムはメロトロンやストリングスシンセサイザーを中心とした煌びやかなキーボードとギターによる幻想的でロマンティックなサウンドとなっており、これまでのプログレッシヴロックの要素を盛り込み、理想ともいえる究極のシンフォニックロックとなっている。

★曲目★ 
※曲順は2012年ベル・アンティーク盤を参照。
01.Woman(ウーマン)
02.Heavy Like A Child(ヘヴィ・ライク・ア・チャイルド)
03.Grace(グレース)
04.You're Free, I Guess(ユーアー・フリー、アイ・ゲス)
05.Brain Damage(ブレイン・ダメージ)
06.Your Breath Enjoyer(ユア・ブレス・エンジョイア)
07.King Of Clouds(キング・オブ・クラウズ)
08.Aim At The Head(エイム・アット・ザ・ヘッド)

 アルバムの1曲目の『ウーマン』は、壮大なメロトロンをバックにメロウなギターが織り成すシンフォニックな楽曲。途中からハモンドオルガンに切り替えてのギターソロや多彩なキーボードのフレーズを散りばめた意欲的な楽曲になっている。翳りのあるヴォーカルが、より抒情性をあおっている。2曲目の『ヘヴィ・ライク・ア・チャイルド』は、エレクトリックピアノやハモンドオルガン、チャーチオルガンを交えたロマンティックなサウンドになっており、そこに優雅さのあるギターの響きが素晴らしい。ゆったりとした流れの中でタイトさを保ったリズムが心地よい。後半はキーボードをメインとしたソロが展開している。3曲目の『グレース』は、ギタリストであるハンス・マリニッセンの彼女をテーマにした楽曲。美しいストリングスシンセサイザーをバックにしたギターソロから始まるインストゥルメンタル曲であり、泣きまくりのギターとパーカッションによる地中海的なフュージョンサウンドとなっているのが特徴。アルバムの中で最も聴き応えのある曲でもある。4曲目の『ユーアー・フリー、アイ・ゲス』は、煌びやかなエレクトリックピアノとオルガンによるリズミカルな楽曲。シアトリカルなヴォーカルや手数の多いドラミングに合わせたコミカルなフレーズやクラシカルなフレーズなど多彩な展開がある。5曲目の『ブレイン・ダメージ』は、繊細なキーボードとパワフルなリズムセクションが交錯し、美しいギターソロが中和する流れになっている。後半はエレクトリックピアノの響きとギターによる美しい絡みがあり、劇的ながら一気に惹きこまれる魅力的な逸品。6曲目の『ユア・ブレス・エンジョイア』は、元々は『ドーン・ダンサー』というタイトルから変更した曲。変拍子のあるリズムとシアトリカルなヴォーカル、さらにバロック的な優雅さの中に緩急のあるテクニカルなフレーズが散りばめられている。7曲目の『キング・オブ・クラウズ』は、メロトロンをバックに泣きのあるギター、荘厳なコーラスなど、ロマンティックさを盛り込んだ楽曲。クラヴィネットやティンパニが良いアクセントになっている。8曲目の『エイム・アット・ザ・ヘッド』は、ヘヴィなギターとハモンドオルガン、そしてタイトなリズムによるハードロック調の楽曲。静かなパートでも技巧さが光っており、決して単純な曲調にしないメリハリがある。こうしてアルバムを通して聴いてみると、多彩なキーボードと巧みなギターによるメロディを重視しつつ、全体的にテクニカルなリズムセクションとの均衡を保った楽曲になっている。また、メロトロンを効果的に配し、ハモンドオルガンの優しい響きとメロディアスで滑らかなトーンを持ったギターが心地よい音像を創り上げた素晴らしいアルバムである。

 アルバムのレコーディング時にはギタリストのハンス・マリニッセンは脱退しており、グループの作詞家として残っている。また、アルバムのタイトルは『ドーン・ダンサー』と決めていたが、混乱を避けるために曲名の『ドーン・ダンサー』を『ユア・ブレス・エンジョイア』に変えている。さらにヴォーカル兼パーカッションを務めたルードー・クールズは、ルー・ルソーという名でクレジットされている。アルバムは大絶賛され、オランダのラジオではかなりオンエアされたにも関わらず、リリースされたアルバムはたった2,000枚だったという。悲しいことにディストリビューションしたオールドウェイは貧弱で、その2,000枚をプレスしたことで破産し、マスターテープまで売られてしまったらしい。彼らのアルバムは市場に無い状態となり、ギグもほとんどできなかったという。そんな状況下でルードー・クールズとルート・ウォルトマンが脱退。代わりのシンガーにはルディ・ファベック、ギタリストにはウォルター・メウリスが加入する。新たなラインナップで最初にエッセンでギグを行い、ブレダやブルージュ、ゲントなどを回るショートツアーを行っている。彼らは新曲をフィーチャーしたデモテープを録音し、セカンドアルバムに向けて動きだし、1980年11月に自分たちが用意した費用でシングルを制作。Assekremというドン・キホーテの子会社によってディストリビューションされたという。しかし、時代はすでにニューウェイヴが盛んであり、彼らは自分たちの音楽が注目されないことを悟って、1981年2月13日にエッセンで最後のコンサートを行った後、グループは解散をすることになる。解散後、ギタリストのハンス・マリニッセンはVSOPというグループに参加して、パーカッショニストとして1枚のCDを残している。マリニッセンは1990年代ではマネージャーとサウンドエンジニアとして活躍することになる。ドラマーのハンス・ボエは様々なグループを渡り歩き、特にドアーズに影響を受けたキッチン・オブ・インサニティのセカンドに参加している。ギタリストのルート・ウォルトマンは、セッションプレイヤーとしてアメリカに渡り、Sea Breeze(シー・ブリーズ)というグループに加入。その後はオランダに戻ってセミプロのミュージシャンとなっている。その他のメンバーは音楽業界から身を引き、キーボード奏者のレオ・コルネリセンスは農業会社の経営、同じくキーボード奏者のジャッキー・ヴァン・リースドンクはディスク・ジョッキー、ヴォーカル兼ベーシストのペーター・デケルスマイケルは弁護士、シンガー兼パーカッショニストのルードー・クールズは国家公務員となっているという。

 

 皆さんこんにちはそしてこんばんわです。今回は1970年代後期の最も煌びやかなプログレッシヴロックの1枚と評価されているフライトの唯一作『ドーン・ダンサー』を紹介しました。このフライトというグループは当初、ベルギーのグループとしてシンフォニックロックのファンの間で話題となっていましたが、実はメンバーチェンジの末、ベルギー出身とオランダ出身のミュージシャンを中心とした混合グループだったことが分かっています。活動拠点がベルギーとオランダの国境付近であり、2つの国を股にかける活動をしていたこともあってゴッチャになったんだろうと思います。ドン・キホーテという弱小レーベルからのリリースであったことやレコードがたった2,000枚のみのプレスだったことも相まって、その稀少価値と比例するように1980年代は謎のベールに包まれたグループでありアルバムであったと言われています。地元では大変人気だったそうですが、アルバムのプレス枚数の少なさでチャンスを潰されてしまったという非常に残念なグループであり、もっと恵まれたレコード会社と契約していれば、きっとメジャーな存在になれたのではないかと今でも思います。また、彼らは出来上がったレコードのクオリティに満足してなかったようで、再発のCD盤では全体的にリミックスが施されて、グループが当初望んだクオリティになったそうです。ちなみに本記事ではオランダのブレダがグループの結成地で、ドン・キホーテレーベルがオランダにあったということで、一応オランダのグループとして分類しています。

 さて、フライトはキーボード奏者2人を含む7人編成となっていて、彼らの演奏はアルバムを聴いて分かる通り、欧州的な煌びやかさと大仰さを全開させたサウンドで親しみやすいメロディというシンフォニックロックファン感涙の作品になっています。たぶん、日本人好みのサウンドと言っても良いかもしれません。メロトロンやストリングスシンセ、クラヴィネット、エレクトリックピアノ、ハモンドオルガンといったキーボードによるシンフォニック的な要素が彩りを与えていますが、何よりもメロディアスなトーンを持ったギターが素晴らしいです。盛り上げるところはキーボードをフル活用し、静かなパートやテクニカルな演奏を挟む事によって曲にメリハリと変化を付けています。キャメルからの影響も感じられますが、フライトのほうがより幻想的でロマンティックです。このような楽曲が作り出された背景には、これまでの英国や欧州のプログレッシヴロックを下地にアレンジにアレンジを重ねた、彼らのストイックなまでの曲作りにあるといえます。何度も言いますが、これほどのサウンドを生み出せるグループがたった1枚で消えてしまうには、あまりにも惜しいです。

 本アルバムはキーボード多用による大仰さが感じられますが、それを増すほどのメロディの豊潤さ、バロック風の優雅さ、卓越した技巧といった三拍子がそろった傑作です。硬質さと柔軟さの均衡を保った心地よいサウンドとはこう言うモノであると聴いていて改めて感じます。

それではまたっ!